同じ釜の飯 その2
夕食の支度が一段落すると、携帯が鳴る。
亮二はさっと手をぬぐいながら画面に目をやる。
“白川麻美”の文字。
「はい」
「あ、九条くん? 今大丈夫かな」
亮二はそのまま食卓の椅子に腰かけて返事を返す。
「はい、大丈夫っす。どうしました?」
すこし、逡巡するような間。
「実は、お願いがあって……」
いつものように亮二は静かに続きを待つ。
「えっと……。明日のお昼、人誘ってもいいかな?」
「はい、いいっすよ」
また、間。
「即答……」
「今日話してた授業が一緒の人ですか?」
質問しながら、少し気分が高揚する。人からのお願いに答えるのは、なんだか気分がいいものだなと思う。
「うん、そう」
他者との関わりに悩む麻美が、こと自分には悪いと思いながらもお願い事をしてくれているのは信頼あってのことだろうといい方に解釈しておく。
「実は今日の放課後、一緒にご飯行ってね。それで、連絡先とか交換して……」
我ながらお節介だと思うが、こっちに越してきて初めてできた先輩。後輩として手伝えることはしてあげたいとも思う。
「それで、一応紹介がてらどうかなって……」
「じゃあ準備しときますね」
「……ごめんね、急に」
「……ありがとうの方がうれしいっすかね」
小さく笑い声。顔が思い浮かぶよう。
「ありがとう。じゃあお願いします」
「どういたしまして。お願いされました」
「じゃあ、また明日」
「はい、また明日」
電話を切ると、母が風呂から出てくる。
「友達?」
携帯を置いて、食器を取り出しながら亮二は少し悩む。
「うーん、みたいな先輩?」
髪をふきながら食卓に着く母にそう答えると、自身もフライパンのナポリタンを食器に移して座る。
「学校、楽しめてる?」
「うん、結構。また楽しくなりそう」
パスタをくるくるとフォークに巻き付けながら、母からの問いに答える。明日のお弁当はちょっと変わったものにしよう。先輩とお友達の話が盛り上がるように。