北野睦月の場合その2
どれだけ不安に思っても日々は進んでくし、なんとなしに高校生活も進んでる。毎日の生活をする分には支障ない位には友達もできた。それでも放課後遊んだりするほどの仲の子もおらんけど。
友達と駅で別れると通い慣れ始めた道を歩く。ちらほらと制服姿の学生達が駅へと向かってく。
「あ、お姉ちゃん」
ミスルトの前で偶然菜奈と会う。最近仲良くなったクラスメイトの子とよく来てる。ほんまに社交性高くて驚く。
「今日も縁ちゃんと?」
「うん、もう先に入ってる」
イントネーションもすっかり標準語。順応性の差はなんやねやろ……。
「こんにちはー」
菜奈が扉を開いてお店に入っていく。
「おはようございます」
カウンター向こうのマスターに挨拶し、ちらりと店内に視線を向ける。
ちょうど彼がトレンチ片手にこちらへ戻ってきていた。
「亮ちゃんおはよう」
「おはよ、むっちゃん」
最初は気恥ずかしかったあだ名呼びも、今では結構慣れてきた。
ふと、彼の後ろの席に制服姿の二人組が座っていることに気づく。来ている制服は亮ちゃんが通う学校の制服。
「あぁ、先輩」
むつの視線に気づいたのか、彼は笑顔で言う。
「そうなんや」
気になることは色々あるけど、とりあえず仕事しないと。
「着替えてくる」
「はーい」
なんだか見られている気がしてそそくさとカウンター向こうの事務所に引っ込む。
着替えながら、挨拶しておくべきだったかなと一瞬考えたけど、一体何の挨拶やねんとセルフでツッコミをしてしまう。こういう所が人見知りと言うか、コミュニケーションの下手くそさを証明してる気がする。
着替えを済ませてホールに出ると、黒板メニューの書き換えを始める。
昔から絵をかくのが好きやった。あんまり人に見せることはなかったけど、面接で話したら黒板メニューを任されることになった。
自信もないし、荷が重いかもと思ったけど、
「やっぱむっちゃん絵上手いよなー」
チラリと覗きこむように黒板を見た彼が笑顔で言う。
それを照れくさいなと思いながら、ついつい笑みが出る。
「先輩達、黒板誰が描いたのって気になってたで」
「え、そうなん?」
ますます気恥ずかしい。
ちらりと視線を向けると、驚いた表情の亮ちゃんの先輩方。
この春は、これまでにないくらい、大きな変化と出逢いに満ちてたこと、むつはまだ知らなかった。




