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彼女たちのルセット  作者: 鳥居れもん
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北野睦月の場合 その1

北野睦月の場合 その1

 父の仕事の関係で、住み慣れた街を離れることになると聞いたときは正直少し父を恨んだ。元々人付き合いは得意じゃなかったし、決して多くない地元の友達との別れもさみしかった。ただでさえ高校生活で新しい友達ができるか不安やったし。

 妹は中学最後の年での転校と言うこともあって両親も心配してたけど、当の本人はまるで気にしていない所か、新しい街への期待さえ語るほどで。そんな姿に余計に気持ちが沈む。姉妹でこうも違うもんなんやな、と。

 引っ越し先も決まり、妹の学校も決まった週末。全員で新生活を送る街へとやってきた。両親と妹は学校の手続きで色々あるらしい。一人時間を持て余し家から学校への道のりを確認し、集合場所である妹の学校の最寄駅に到着。それでもまだまだ時間は余ってる。

 ちょっとした気まぐれ。ふらふらと駅周辺を歩いてみる。この辺りはオフィス街だったり学校があったりで平日は人通りが多そうやけど、週末である今日は人通りもほとんどない。

 ふと目線を向けた先に、少し年季が入った外観の喫茶店があった。引き寄せられるように足が向かう。ドアの前に立てられた黒板には

『4月3日からOPEN致します。御来店お待ちしております』

 せっかく時間つぶせるかもと思ったんやけど。まぁ一人でお店入るの苦手やから結局入らんかったかもしれんし。

 そんなことを考えていたら、後ろから声をかけられる。

「こんにちは」

 驚いて振り返ると、たぶんそう歳の変わらん男の子が立ってた。

「スタッフの人っすか?」

 お店の方を指さしながら、彼が問う。

「あぁ、いえ、偶々通りがかっただけで……」

「あぁ、そうなんすね」

「……お店、4月からって書いてました」

「もしかして、関西の人っすか?」

 イントネーションが関西弁やったかな。

「……はい」

「ウチも関西なんすよ!」

「そうなんですか!」

 意外なところで同郷の人と出会った。

「すぐ近くの高校に転校してきたんすよ」

「むつもそう!隣駅の高校!」

「……むつ?」

 顔が一気に熱くなる。直そう直そうと思ってるんやけど、なかなか直せないでいる癖。自分のことを名前で呼んでしまう。中学時代も時々からかわれて、どうにかしないとと意識はしてたんやけど、ついテンションあがってやってしまった。

「あ、もしかして自分を名前で呼んじゃうタイプ?」

 せっかく同郷の人と会えたのに、引かれたかも。

「わかるー。俺も昔自分のこと亮って呼んでたことある。あ、ごめん、名前九条亮二っていうんやけど、それで亮」

「……北野睦月。で、むつ」

 気を使って話を合わせてくれたのか、それとも本当にそうかは分からないけど、ありがたいなって思う。

「学校始まったら是非来てね、お店。て言ってもまだ採用か決まってないけど」

 先程同様、お店を指さしながら彼は言う。

「採用?」

「今日面接なのです」

 彼は手に持った封筒を見せながら、店先の黒板へ指先を向ける。OPEN日の書かれた下に

『OPENSTAFF、アルバイト募集中』

の文字。

 新しい生活に必要なのは、きっとほんの少しの勇気。

新しい居場所の扉を叩く、勇気。


「バイトすることにした」

 帰りの電車でそう伝えたら、両親も妹もびっくりした。

「めずらしい。しようかなとか、どうしようかなとかはよく聞くけど、そんなはっきり断言することなかったのに」

「うん。ちょっといいなってとこあったから」

「どういうとこ?」

「喫茶店」

「へぇー。今度行くから場所教えて」

「4月3日からやから、学校始まってからなー」

 妹に適当に返事しながらぼんやりと外を眺める。

新生活の不安にちょっぴりの期待が混ぜ合わされた。そんな気分。

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