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彼女たちのルセット  作者: 鳥居れもん
10/12

一之瀬縁の場合 その2

「ゆーかりん」

 放課後。帰り支度をしていると、教室の入り口から呼びかけられる。

 北野菜奈。あの喫茶店Mistletoeでの出会いから早数週間。いつの間にかあだ名呼びされ、こちらも下の名前で呼ぶような間柄になっていた。

 鞄を手に菜奈の元へ向かう。

「ゆかりん、ごめん! 今日委員会なの忘れてた。先にミスルト行っててくれる?」

「わかった。本屋さんよってから行く。いつものとこ座ってるから」

「了解ー!すぐ終わらせるから!」

 言いながらすでに教室へ向かって走り出している彼女。いつも元気なのは彼女の取り柄だと思うけど、時折有り余る元気さで先生に注意されてるのを見かける。廊下を走るなとか、声が大きいとか。

 少し前まで友達と待ち合わせしたり、足しげく通うお店が出来るなんて想像もしていなかった。昔から人と親しく接するタイプではなかった。正確には小学生の頃、母が日本人でないことをからかわれた時から、そんなことを言われてまで人と密に接したりすることに意味があるのかと考えてしまってからだ。

 我ながら可愛くない考え方だなと思う。子供っぽくないというか。でもその結果じゃあもう人間関係やーめたっていうのは、実に子供っぽい行動ではあるけれど。

 そういう生き方が結構平気だったというか、唯一ずっと続いてる趣味である読書のおかげで気にならずに済んできたというべきか。それがあの雨の日の偶然から少しずつ変わりつつある。

 いつもの店。いつもの会話。いつもの席。いつものドリンク。

 そんな“いつもの”が嬉しくて楽しい。そんな日々を楽しみにしている自分がいる。


「お、いらっしゃい。いつもの所でいい?」

 書店で買い物を済ませて店に向かうと、いつものように彼が出迎えてくれる。会釈していつもの席に座る。

 この時間、大抵お客さんはいないけど今日は先客がいた。彼と同じ学校の制服を着た女子が二人。楽しそうに談笑している。彼の知り合いなのかと少し気になったけど、まぁあとでそれとなく聞いてみよう。

「飲み物はいつもの?」

 カウンター越しの問いに頷く。

「あ、今日からイチゴのスイーツ期間限定で始まったよ」

 近々始まると聞いてはいたけど、いいタイミングで来れた。カウンターを覗き込むと写真やレシピ、盛り付け方が載ったルセットを見せてくれる。

「タルトと、パンケーキと、ミルクレープと、ハニートースト」

 悩ましい。と思いつつ席に座りなおす。

「今日は菜奈ちゃん来るの?」

 頷きながら、二人ならシェアするのもいいかもしれないと思う。

「じゃあ二人でハニートーストシェアする?」

 思っていることを分かってもらえた気がして嬉しい。思わずうなずきが連打。

「それじゃあ飲み物だけ先に出すね」

 以心伝心なんていうと大げさだけど、いいものだなと思う。

頷きを確認して、彼はスイーツ類を皿に盛っていく。それらをトレンチに乗せると先客の二人組の元へ。元から愛想がいい人だから、表情や対応からは知り合いかどうかは判断できないかな。

彼がコーヒーを配膳した時、ドアが開いてチャイムの音。

「こんにちはー」「おはようございます」

 入ってきたのは二人。先に入ってきたのは菜奈。彼女は後から入ってきたのは菜奈のお姉さん、北野睦月さん。

「早かったね」

「いっそいで終わらせてきた」

隣に座った菜奈は得意げに話しながら、視線をお姉さんに向ける。

「お店の前で偶々お姉ちゃんとばったり」

視線の先の彼女はトレンチをカウンターに戻しに来た亮さんに笑顔であいさつする。

「亮ちゃんおはよう」

「おはよ、むっちゃん」

 私が知る限りでは、彼をちゃん付けで呼ぶのは彼女だけで、彼があだ名で呼ぶのは彼女だけ。もしかして付き合ったりしてるのかな、と邪推してしまう時がある。

 菜奈とお姉さんが亮さんと出会ったのは、このお店がオープンする前。新生活を始めるためにこの街に越してきてすぐのことだったって聞いてる。

 この辺の話も追々詳しく聞いておく必要がありそうだなと、私は思った。


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