白川麻美の場合 その1
生きていく中で、誰しもが大なり小なり苦しさや悲しさを背負っていく。
それでも誰かと一緒にご飯を食べたり、遊んだり、泣いたり、笑ったりして今日も生きていく。
そんな毎日が、彼女たちを構成するルセット。
人に褒められるような存在でいなくては。
そういう風に生きていくことを重荷に感じるようになったのはいつからだったろう。
優秀な成績を取って、誰からも慕われて。
それが誇らしく思えていた時代が確かにあったはずなんだけど。
高評価が並ぶ成績表、送られる賛辞の言葉、向けられる好意、あらゆるものを自分の体に張り付けていく内、自分自身が無くなっていくような、空っぽになってく感覚。
褒めてもらいたくて、認めてもらいたくて、自ら望んでそうしていたはずなのに。今の自分はふとした時にそれを苦しく思っている。
元気がない顔をすれば、誰かが声をかけてくれる。けどそれは空っぽの私に投げかけられた言葉のように思えてしまって、ただ平気な顔をする癖がついただけだった。
気遣われたくなくて、気遣いたくなくて、意味もなく一人昼休みに教室をふらりと抜け出す。
当てもなく歩き出した足は、校内でも特に人寄り付かない中庭に向かっていた。
春だというのに陽も当たらず、どこか季節に取り残されたような一角。誰かが座っているところを見たことがない古びたベンチ。
一年間、苦しくなった時の逃げ場所にしてきた。
しかし2年に進級してこの春、見慣れたその場所に変化があった。
ベンチに座り、弁当と水筒を広げている男子。