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中華まん

李人氏(葦部李人)・・・御曹司マン。

私(桂藤さん)・・・・・運転手マン。

桂藤の娘・・・・・・・・桂藤家長女。この小説の絶対的存在ウーマン。

 不肖、私こと桂藤。課金やってる?と娘に訊いたら、課金って何だかわかってる?と返された。正直、よくわかってない。ただ、ここ最近、子どもが何かしらのトラブルに巻き込まれるきっかけの多くが「課金による金銭問題」だったと聞いたものだから、親として心配になっただけの私である。

 娘は「仮に後ろ暗いところがあれば正直には言わないだろうけど」と不穏な前置きをした上で「やってない」と答えた。

「というか、そういうゲーム自体やってない」

「じゃあ何やってるんだ」

「イカ」

 ああ、あれかあ。覚えることが多そうで、操作もスピーディで難しそうだよなあ。お前たち姉弟がやってるの見て「もうついていけない」と思っているお父さんであるよ。

「たぶん、課金ゲームってそういう『やりこめなくなった人』のために作られてると思う。ゲームが好きでずっとやっていたいけど、一日中やり続ける気力や体力がもうなくて、合間合間にちょっとずつ触って『一日中やってた』って錯覚をさせる感じで」

 我が娘って日頃そういう感じのこと考えて生きてるの? ちゃんと青春してる?


 と、娘の人生が心配なところではあるが、ゲームの話はここまで。『ベンツ飯』の主題は食べ物である。その割には別に食べたくなるような描写はしないことに定評があるものの。

 かといっていきなり食べ物の方面にハンドルをきると「さっきまでの話は何だったんだ」とツッコまれてそれはその通りであるので、強引に我らが御曹司・李人氏に話を向けようと思う。

 李人氏の「仕事」は投資である。中には、ゲームを作りたい、という申し出もある。「時に桂藤さんはゲームをされますか?」と訊ねられた流れで知ったことだ。そのとき、見栄を張って「イカ……ですかね」と答えてしまった私である。

「坊ちゃん、今はどんなゲームのプレゼンを受けてるんですか?」

「課金ゲームです」

 ええっ、と声が出てしまった。

「すみません。あの方たち、そういうゲームを作りそうには見えなかったというか……スーツが似合っていたし、髪型もちゃんとしてたし、お堅いイメージでしたので」

「そうですね。実際、お堅いところの方々ですよ」

 李人氏が仰った彼らの所属組織は、漢字がずらっと並ぶいかにも「お堅いところ」であった。

「そういうお堅いところもゲームを作るようになっているんですよ」

 マジっすか。

「伝統文化をキャラクター化して、記憶の保存をしたいとか。収益は保存費に使われるそうです」

「へええ……」

 そんなにアテにしてるのか。ゲームって儲かるんだなーなどと、一介の運転手には他人事でしかない感想を抱く私である。ハンドルを握ってなかったら鼻をほじっていたかもしれない。

「ちなみにどういう感じのゲームなんです?」

「ガチャで集金する感じのゲームです」

 鼻をほじってたら手が滑って血を出してるところだった。

「めっちゃ身も蓋もない感じできましたな……え? 伝統文化が?」

「ははは。流行に乗っているというだけで、然程驚くことでもありませんよ」

 驚くというか、いや、李人氏のような御曹司が「ガチャ」といういかにもよろしくない文明を受け入れておられることには確かに驚いている。正直にそう申したところ、李人氏はやはり笑ってこう言った。

「投資もガチャのようなものですから」

「その心は」

「両者とも、成功の保証はないのが大前提です」

 私などは、投資とは金貸しのことであると思っていたのだが、どうやらただの借金とは違うようで「返せなかったらしょうがない」と諦めなければならないものらしい。

「たとえば、競馬や競輪あと競艇などの公営ギャンブルでも、負けた選手に金返せと言ってもどうにもならないから言わないでしょう」

 すみません坊ちゃん。めちゃくちゃ言ってます。

 激昂するのはまだ良い方で、紙屑になった券を握りしめて感情を失っている者も見かけます。

「投資も、利益が出るほど成功するかわからない、そもそもプロジェクトが頓挫するかもしれない。それでも『未来を買う』という名目で資金を預けるのは、それを実現してほしいという応援の気持ちがあるからです」

 つまるところ、ファンになったということですよ。

 そう言って照れたように笑う李人氏である。

 確かに、馬券はファングッズであると言う知人もいる。私のところに来るのは「投資会社にあなたの資金運用を任せてみませんか?」という類の勧誘ばかりなのでよくわかっていなかったが、「出世したら倍にして返してくれよ!」と後輩にラーメンを奢っていた、あの感じに近いのかもしれない。なんだか会社員時代を思い出して、あいつらどうしてるかなとしんみりする私である。


 何故、ガチャの話をしたか。いよいよ今回の主役の登場である。


 御存じ、中華まん。

 二大巨頭である肉まん、あんまんを始め、カレーまんやピザまんなどバリエーションが豊富で、いつ、何がホットスナックの棚にあるかわからない。来店の度にラインナップが変わっている(気がする)メニュー。コラボ商品の定番としても人気で、ちょっと食べづらいデザインのまあなんかアレなやつもだいぶ見てきた。

 で、今日のところはカレーまんしかなかったからそれを買ってベンツに戻ったのだが。

「桂藤さん、この肉まん、前に食べさせていただいたものと何か違いませんか?」

「ああ、中華まんってそういうものなんですよ。かなり種類があって――」


 痛恨のミス。


「ほう……かなり。種類が」

 バックミラー越しでもわかる。李人氏の目の色が変わっている。確定演出かな?

「それは……具体的な数字で言うと、どの程度でしょうか」

 やっべえぞ。

 下手に答えると「では今日中にコンプリートを目指しましょう」と言い出しかねない危うい目つきをしておられる。そんな気はしていたが、李人氏は、バリバリの廃課金勢タイプのようだ。

「いやその……無数。無数にあります」

「無数」

 そんなはずないでしょうと目が言っているが、本当なんですって。たった一瞬のそのキラメキを食べ尽くされて消えてしまったようなやつだってたくさんあるから、挙げてたらキリがないんですって。

 それにまだ秋は始まったばかりですから。肉まんのベストシーズンはめっきり寒くなった晩秋から冬をまたいでまだまだ冷える早春。その間に多種多様な肉まんを楽しむのであって、コンプリートを狙うのは違うんですって。だいたいコンプリートしても良いことありませんよ!

 と、言いたかったのだが。

 一方で私は思うのである。


 中華まんを上手く使えば、李人氏をコントロールできるのではないかと。


 これまであっちこっちに興味を持つ李人氏に振り回されてきたが、例えば「一日一まん」をスローガンに掲げて広義の「中華まん」に興味を惹きつけておけば、中華まんだけでしばらく、いや当分、いや秋から春の間は回していける。

 さらに、私サイドでルールを設ければもっと長続きする。例えば、肉まんとかあんまんとかベーシックな肉まんを制覇してからでないとピザまんやカレーまんのような変わり種に挑戦できないとか。その場合、駆け引きにおいて私は俄然有利となるどころか、完全に支配することができる。何せ、ベンツを降りて中華まんを買いに行くのは私なのだから!



┏━━━━━━━━━━━━┓

┃ WARNING!! WARNING!!  ┃

┗━━━━━━━━━━━━┛


 お世話になっております。突然ですが、桂藤の娘です。

 いまさっき、父が述べたルールは「コンプガチャ」と呼ばれる手口でして、不当景品類及び不当表示防止法にバリバリ抵触します。賢明なる読者の皆様におかれましてはゆめゆめ真似されることのなきようお願いします。

 そして父へ。子どもが課金やってるか不安で探りを入れてきたのに、課金の何が悪いのか、悪い課金とは何なのか、そういうことがまったく下調べできていなかった貴方の目は――


┏━━━━━━━━━━━━┓

┃  ふ し あ な 確 定   ┃

┗━━━━━━━━━━━━┛

 


 お、えっ……おう。


 娘に叱られてしまった。とてもつらい。とてつもない。

 心を入れ替えて、私は李人氏にある提案をした。

「坊ちゃん。ここはひとつ、ゴールを決めませんか」

「ゴールを……?」

 李人氏が生業としている投資も、投資対象から「何ができれば達成なのか」を提示されてから可否を判断するだろう。中華まんガチャも同様に、何を手に入れればクリアなのか条件を設定しなければならない。お遊び(ゲーム)ならば当然のことだ。際限なく「中華まんであれば何でも」なんて言い出したら、万が一にも段ボール肉まんなんぞに当たったとき地獄を見る。正直どうかな、アレ。

 なので。

「最もレアな中華まんを手に入れたとき、それをもって中華まんマラソンを終えます」

「その、最もレアな中華まんとは?」

「その中華まんとは……」


 それは、桜まん。


 おそらくは徐々に暖かくなっているであろう時節、桜の花が咲き始める初春。ちょうどその頃に発売される、桜をイメージした薄いピンク色の中華まん。それが桜まんである。

 そして桜をイメージするだけのことはあって、桜まんは、儚い。

 桜の花が咲いているのであれば中華まんの売り上げが見込めるファイナルシーズンである。なのに、あえてそこから新発売となる桜まん。だからといって延長戦があるわけでもなく、もう上着脱いでもいいねという頃には、ずっと居座っていた肉まんあんまんと一緒に撤去される。儚い。

「なるほど……それは確かに、最後の中華まんに相応しいですね」

「はい。ちょっとかわいそうでもあります」

「“終わりの始まり”の化身、か」

 なんだそれは。

「わかりました。中華まんゲーム、そのルールで乗らせていただきます」

「かしこまりました」

 軽口を続けようとしたが、安堵の思いが勝ちそれ以上何も言えなかった。

 こうして私は、李人氏に一日一まんのログインボーナスで課金要素はほぼ無しの健全なゲームをプレゼンすることに成功した。歯止めをかけてなかったら、コンビニ一軒分くらいは買い占めに走っていたのではないかと思う。良かったよ、そんなちゃんと金を置いて去るギャングのような真似をする羽目にならなくて。

 ということで、ベンツ飯『中華まん』篇。桜まんを手に入れるまで続きますので、読者の皆様におかれましては、評価ポイントをポチッとやって作者のやる気に投資をお願いいたします。と、最近流行りの露骨なポイント稼ぎに走る私である。









 とはいえ、親愛なる読者の皆様に、来年の春まで待ってねと言うのは忍びない。作者だって中華まんばっかり続けたら毎日毎日同じことをずっと繰り返しているんじゃねえのかと錯覚して気が狂う。なので今回は特別に、未来を先取りして、桜まんを食する李人氏に感想を伺ってみたいと思う。

 サマータイムなんちゃらが流行ってるみたいだし。夏と時間はどうして相性が良いんでしょうな。

 ということで、心して、お聞きいただきたい。


 どうです坊ちゃん、桜まんは。特別感がありますか!?







_人人人人人人人人人人_

> いや、べつに…… <

 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄

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