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クリパ飯 ~オードブル~

李人氏(葦部李人)・・・御曹司。

私(桂藤さん)・・・・・運転手。

俺(幕洲)・・・・・・・ピザ屋の配達担当。

娘・・・・・・・・・・・桂藤家長女。

サンタクロース・・・・・こんな日に働く人筆頭。

唐揚げ・・・・・・・・・チキンの代わり。

 さて、読者の皆様はクリスマスはいかがお過ごし(になった)だろうか?


_人人人人人人人人人人_

> いや、べつに…… <

 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄


 あっそうでしたか……今回出るの早いな。

 かく言う私は仕事である。

 なお、便宜上「クリスマス」と呼称しているが、今日は正確には「クリスマス・イブ」となる。今年は24日が休日、25日が平日なのでイブでもいいからパーティをして当日は何でもない日として過ごす算段のご家庭が多いのではないだろうか。つまり今日の私は、「クリスマス」なのに家族といないお仕事パパというわけだ。

「休んでいただいても良かったのですが……」

 とは、後部座席の李人氏のお言葉である。「クリスマスは本来、家族と過ごすべきです」と、私に家族と過ごす時間を与えてくれるつもりであったらしい。何より、クリスマス及びイブはどこの飲食店も大忙しだ。いつものようにひょいと寄ってひょいと買うなんて軽食三昧ができないであろうから、という打算が入っているのはご愛嬌。

「子どもたちが、それぞれ別のパーティに誘われていましてね。なら、自宅では特に何もなくて良いかと。料理を用意する手間が省けたと、家内は喜んでいますよ」

「そういうことでしたか。寂しいですか?」

「いえいえ。そういう年頃になったのかと思うだけですよ」

「そうですね。彼氏の一人でもできる年頃に――」

「……」

「桂藤さん? どうされました?」


_人人人人人人人人人人_

> いや、べつに…… <

 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄


 ハンドルがミシリと鳴る音を聞いた私である。


 *


 クリスマスなんだからケーキやチキンを食ってればいいと思うのだが、なかなかどうしてピザにも需要があるらしい。少なくとも、俺がバイトしているピザマッドはメニューにピザとオードブルのクリスマスセットが存在し、今日はその注文だらけで忙しいのは事実だ。

 俺は幕洲(まくす)

 走り屋『野良(ワイルド)スピード狂のメガマックス』として名を馳せたのも昔の話。今は老舗のピザ屋『ピザマッド』で働く、しがないピザの配達人だ。

 早く家に帰ろうとして渋滞する車の間を、バイクで悠然とすり抜ける。横目で窓越しに見たが、ほとんどの車が包装した箱を助手席に置いていた。もしかしたら、彼らの帰る家は、バイクに積んでいるピザの届け先と同じかもしれない。

 店長は「クリスマスぐらい休めばいいのに」などとぬかしていたが、俺がいなきゃ回らない状況じゃないか。妙な気を回す前に、もう少し店を回す方法について考えた方がいい。それに、俺には休んでまですることはない。

 幼い妹がいる。稼がなければならない。

 これだけ言えば、たいていの人間は察してくれるから楽だ。

 それでも妹と居てやれよ、と言われることもある。だが俺が居なくても、妹はいつものように友達とよろしくやっているだろう。クリスマスなのに親の帰りが遅い子どもを集めて、町内会主催のパーティに預けてきてあるからな。あいつだって、家にいるよりバイクに乗っている時間の方が長い俺より、そっちの方が楽しいはずだ。俺は何の心配もなく、バイクを走らせることだけ考えていればいい。昔のようにとはいかないが。あの頃の俺が今の俺を見たら、きっといい顔はしないだろうな。

 くだらない感傷はここまでだ。さて、次の配達先は。

「……」

 さて、次の配達先は。

「…………」

 俺が疲れ目なのでなければ、何度見ても、次の配達先は気乗りしない場所だ。

 だが、オーダーを受けた以上は遂行しなければならない。それが客商売だからな。たとえ、それが赤い帽子と衣装を身に付け、顔を覆うほどのヒゲをつけることを強いられる仕事だとしても。

 俺はバイクで公民館に乗り付けた。

 妹を放り込んだパーティが開かれているのもここだ。


 どうしてこうなった。

 どうしてこうなった。本当に。


「こんなの全然クリスマスじゃない!」

 俺の目の前でギャン泣きする子ども。俺のせいか。いや、俺が泣かしたのではない。

 そもそも、強面で泣かれるという第一関門は、ヒゲで顔の大部分を隠すという裏ワザで突破した。これは妹に気づかれないよう、通常よりもヒゲを盛ったのが功を奏した。だって隠すだろう。ごちそうを運んできたサンタが身内だったなんて、サンタを信じる子どもにとってはショッキングな出来事に違いない。それは避けたかった。

 その一心でやけくそになり「Ho-Ho-Ho!」と老け声で笑いながら挨拶したらそれなりに子ども受けは良かった。サンタさんだと喜んで群がってきた。子どもの相手は苦手だが、正直、悪い気はしなかった。泣き出したのは、俺が持ってきたピザの箱を開けてからだ。

 店長、子ども泣かすなよ。

 それは冗談として、いったい何故このガキは泣いているのか。それがわからない。ピザの具に嫌いなものがあったか? 親が恋しくなったか? 俺が本物のサンタではないと気付いたか? 最後のだったらコトだ。お前ッ、ここには俺の妹もいるんだぞッ。

「すみません、さっきまで全然こんな素振りなかったのに……」

 俺をここまで手引きした女性(高校生ぐらいだろうか。おそらく有志で今日のクリスマス会を手伝いに来ているのだろう)も戸惑っている。俺が来る前まで、こんなワガママを言うようなことはなかったと。暗に俺のせいだと言われている気がするのはきっと俺の被害妄想だ。

 しかし、困った。いったいどうやって泣き止ませればいいんだ。このままではグズリが他の子どもにも伝染してしまう。個人的には、排除するしかないと思うのだが、さすがに子ども相手にそれはない。俺はいったい、どうすれば――

「あの」

 それは、天の助けと呼べるような、優しい声色ではなかった。

 声を発したのは、それまでこちらに絡んでくることはなかった、おそらくは有志の女子高生。

「ちょっと、任せて貰って良いですか」

 ダメだと言う者は、誰もいなかった。

 その女は、俺の持ってきたピザを切り始めた。

 うちのピザは、ピザカッターの刃が通るようなヤワなピザじゃない。包丁を使って、6ピースに切り分ける。そのピザを、クリスマスツリーに見えるように重ねた。

「おお……」

 気のせいでなければ、それは俺の口から漏れた声だった。素直に感心していた。

 だが、それだけでは終わらなかった。彼女は、ピザの中心を円くくり抜き、リースのような形状にした。くり抜いた部分とフライドポテトを組み合わせ、雪だるまにした。

 俺は、黙ってそれを見ていた。

 泣いていた子どももいつしか泣き止み、食い入るようにその作業を見つめている。パーティが再開され、お役御免になった後、こっそり聞いてみた。

「結局、食べ物がクリスマスっぽくないのが嫌だったのか?」

「そう単純でもありませんよ」

 ……単純だと。

「それより、次の配達はいいんですか」

 言われてみれば確かにそうだ。泣く子を黙らせるという大仕事を終えてすっかり気が抜けてしまったが、ピザを待っている家庭が他にもある。本家ほどではないが、今日この赤い衣装を着ている者は例外なく忙しいのだ。

 ばいばい、と見送られ俺はバイクに跨る。気分が良いときはエンジンを景気よくふかすのだが、今日は控えた。せっかく泣き止んだ子どもがびっくりしたじゃないかと、あの女に小言を言われる気がした。


 *


 最初に言っておくと、私はパリピではない。

 母の手前、今日は友達とパーティしていることになっているだけだ。

 母は私をフツーに友達とパーティしてインスタ映えする写真を撮りまくっている女子だと思っている。本当はインターネットに個人情報を晒すなど愚の骨頂と考える女だと知ったらさぞガッカリするだろう。


 いきなり何言ってるんだこいつはとお思いの読者の皆様、お久しぶりです。桂藤の娘です。いつも父が御迷惑をかけております。ひらに御容赦を。


 まあそんな父ではあるが、母ほど私に幻想を持っているわけではないので、今日の本当の行き先は一応伝えてある。何があるかわからないから、お迎えという手段も確保しておきたかったから。

「さっきはありがとうね」

 そう声をかけてきたのは、私を今日のパーティに誘い、共にボランティアに励む友人。反射的に「いや、べつに……」と答えそうになったが、そう連発すると読者の皆様もうんざりすることだろう。呑みこんだ。

「普段、手のかからない子だから、ああなっちゃうと参っちゃってねー。ほんと助かった」

「どういたしまして」

「子どもの扱いに慣れてる?」

「……とは、思わないけど」

「じゃあシンパシーだね。あんたも手のかからない子っぽいし」

「私の何がわかると言うのか」

 と、軽口を返しつつ。それでも言われてみれば、という思いがないわけではない。手のかからない子と醒めたクソガキは紙一重の存在だというし。私にもお利口さんの素養があったということだ。

 私は、あの子が泣いたのはピザが嫌だったからだとは思っていない。

 日頃からお利口さんでいて、クリスマスの今日だって家族が一緒に居てくれなくて、そうやって積もり積もったものが溢れてしまったのがたまたま今日だったのだろう。

 そういう時、どうすればいいのか。私はそれを母から学んだ。

 母はよく、うさちゃんリンゴを作って「はいよ」と私に差し出したものだ。原因を解明しようと手を尽くして何の成果も得られなかった父が、泣き止んだ私を「解せぬ」と眺めていた姿もおぼろげに覚えている。

 何でもいいから、泣いた原因など理解してくれなくてもいいから、誰かが自分のために骨を折ってくれていることが実感できれば、クソガキ、もとい、お利口さんは「それで手打ちにしてやろう」と泣き止むのだ。お利口さんは「そういうもの」だと理解できるからお利口さんなのだ。

 ……あるいは、あの顔を念入りに隠し過ぎなサンタクロースに何か不穏なものを感じ取ったのか。

 その後は大した問題も起こらず、親御さんのお迎えが来る時間となった。順次解散していく子どもたちを全員お見送りしたら、ボランティアへの従事は終了。できれば早く帰りたいが、あと女の子ひとりだけなかなか迎えに来ない。

 奇しくも、その子もなんとなく「お利口さん」だとうすうす感じていた子だった。

「……連絡して、どこか、お店で待とうか」

 さっき、溢れてしまった子がいたばかりだったし、感化されて時間差で泣き出すかもしれない。そう思って気遣ってみたのだが、女の子は半ば予想通り「べつに」と答えた。もう半分、予想してなかったのは「わがままはもう言ったから、大丈夫」と言ったこと。

 わがまま? ああ、そういえば――と、思い当たったところで、迎えが来た。

 バリバリのやべーバイクだったので110番しかけたが、ちゃんとしたお迎えだった。申し訳ない。


 *


 その女と一緒にいた妹が証言してくれたおかげで、警察を呼ばれずに済んだ。バイクに乗っている最中ならいくらでも振りきる自信があるが、地に足が着いている今は無理だ。

 ついでに、妹の見ていないところでヒゲをつけて、さっきのサンタであることも説明した。誤解したことを誠実に謝ってくれたので根に持ってはいない。代わりに、聞きたいと思っていることはあった。

「……じゃあ、さっきのあのガ――子どもが泣いたのは」

「いろいろ我慢してたことが溜まってただけだと思います。今日のパーティにすんなり預けられる子って、そういうタイプの子が多いと思いますよ」

 うちの妹もそうなのだろうか。しかし、とんでもなく目端の利く女だ。

「さっきの、ピザにしたあの工夫。よく思いつくもんだな」

「ぶっちゃけるとパクリです。ああいうサービスしてるお店もあるので」

 悪びれずに言うので面食らってしまった。だから「じゃあそっちの店に頼んだら良かったんでは」と、余計なことを口走ってしまったのだろう。

「あー、その手もありましたね」

 俺、店長に殺されるかもしれない。

「でも、どうしてもピザマッドさんのピザがいいって言った子がいまして」

「……」

 心当たりは、あった。

 その女の視線も、そう言っていた。

 ちょっとわからなくなった。今日のパーティにピザとオードブルを運んできたのは俺だ。でもサンタだったので、妹の夢を壊したらまずいと思い俺ということは隠した。だがピザマッドの配達を差し向けたのは妹だ。妹は俺がピザマッドで働いているのを知っている。ということは、つまり――

「ま、そういうことですよ」

 ちょっと待ってくれ。もうまとめに入るのか。俺はまだ考えている途中なんだが。そしてどういうことなんだ。自慢じゃないがバッドボーイだったので難しい話は苦手なんだ。

「アンタも送って行こうか」

 もうちょっと知恵を借りたかったからそう声をかけたが「アシはもう確保してあるので大丈夫です」と断られた。じゃ、と友達と連れ添って妙に機嫌良く帰っていくのを、俺はただ見ていた。

「お兄」

「何だ妹」

「妹を連れているときにああいうナンパはないと思う」

 そういうんじゃねえよ。何だか勘違いされているようなので、勢いよく白い息を吐き出す。俺がガキの頃は、親父がこれをやると「ゴジラだ!」とはしゃいだものだが、妹は興味を示さない。ギャップを感じる。

 不意に、今日一日のことを思い出して「なあ」と、妹に語りかける。

「お前も、今泣きたいなら泣いていいんだぞ」


_人人人人人人人人人人_

> いや、べつに…… <

 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄


 子どもって難しい、と思う俺である。


 *


「あれ、桂藤さん」

 仕事帰りにガードレール下の屋台で一杯やろうと思ったら、先客がいた。いつもおでんをドライブスルーしていくベンツの、運転手の方のおっさんだ。見回したが、ベンツはない。プライベートだろうか。

「ああ、お先しています。今日は、お仕事で?」

「ええ、まあ……」

 どうせ一緒に過ごす彼女もいないし、自棄になって休日出勤をキメてきたのだ。おかげで明日は楽ができそうなので、気分良く呑めそうだなーと思ってやって来たのだが、桂藤さんはどうもそういう気分ではないらしい。

「娘から、迎えに来いと連絡がありましてね。ですが、坊ちゃんの運転手としての仕事の途中だったので、無理だと言ったんですよ」

 そりゃそうだろうなあ。

「そしたら、じゃあ他の人に送って貰う……などと言って電話が切れたのですが、他の人って一体……と、考え出したら、なんというか、こう」

 あー。

 彼氏か何かだと疑っているのか。

「いや、私も仕事を終えて帰ったら、ちゃんと娘も無事に帰っていたんですけどね。ただ、どうやって帰ったのかと聞いても教えてくれず、私もそれ以上踏み込んで聞けず……」

「まあまあ。もう仕事もお役目もないんでしょう。呑みましょう、呑みましょう」

 これはめんどくせー話になるな、と判断した俺は必殺の「まあ呑みましょう」を繰り出した。こちとら彼女などいたこともない身なのに、娘の色恋沙汰の話をされても何ができるわけでもない。さっさとシラフでなくなってしまおう。

「おやじ、桂藤さんを元気づけるためにもさ。クリスマスっぽい具ちょうだい」

「おでんにクリスマスもクリサリスもあるもんか、旦那」

 何でおでん屋台の親父の口からそんな単語(クリサリス)が飛び出すんだよ。蛹の英語訳とかゲームばっかやってる奴しか知らねーよ。

「そんな難しく考えなくていいよ。ほら、チキンとはいかないけど唐揚げとか」

「何だいそりゃ」

「おでんに唐揚げですか?」

 えっ。



 えっ。俺がオチなの。

 あるだろ、おでんに唐揚げ。

メリークリスマス。(大遅刻)

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