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「……と、そう言った経緯であります」
「八百万の國からの希人であり、魔王の庭に囚われた哀れな名無しよ」
「いや、オレ……僕の名前は……」
「答える必要はない。主様は、少年の真名を問いているのではない。
この迷宮に誘致された駒としての名……つまり、役割が無いと仰せられているのである」
「然り。
運命に偶然はなく、ありとあらゆる事象は全て必然であるが定常。
種火がなくば火は起こらず。火がなくば煙も立たぬが道理よ。
然らば煙が見え、火が見えぬなら。それは見えておらぬだけに過ぎぬ。
心得よ。原因因果宿命命運。流転する時の流れに身を任せ同化するのは逃げである」
「……?」
「少年よ。主様は、ただの偶然にみえても、ソコには必ず理由があり。ソレを裏を考えず運命だと諦めるな。と仰せられているのである」
「……めっちゃ分かりにくいんだけど?」
「神族とはそういうものである」
「さっき、普通に話そうとしてたみたいだけど?」
「……それを問いてはならぬ! 主様にも体面と言うものがあると察するが良い」
「……把握した」
女神が素の痴態を晒してから、状況を理解した後。真顔に成って手を振ると、部屋の惨状は夢幻の如く消え失せ。
聖騎士もまた、何事もなかったかのように仕切り直した。
整然とした謁見の間のような場所で超然佇む女神は、正しく女神としか例えようがない。
凛とした声で静かに語られる言葉も、朗々と響き渡り。聞き違えること無く耳に優しく入ってくるようで、実に心地よい。
だが、足元から感じる感触と、僅かに身じろぎしただけで、何かが崩れるような音が鳴った。
どうやら、部屋を一瞬で片付けたのではなく。幻影か何かで誤魔化してるだけのようだ。
その証拠に、すまし顔で淡々と語る女神をよく見ると、ほっぺたに食べカスらしきモノが付いていた。残念過ぎる……。
「……」
「……」
「……」
そして、その事にオレが気づいたことに、聖騎士も気づき。すっとさり気なく、女神の口元を拭いた。
吹かれた女神も、それで失態に気づき、しばし、沈黙が訪れた。
だが、さすがと言うか何というか……顔色一つ変えず。何事もなかったかのように女神は言葉を続ける。
「繋がれた鎖を断ち切るには、祖の呪縛を断ち切るに等しき難事よ。
下克上を成しえるには、機と実と和が無くばありえぬこと。
然るに三の要。一つ足りとも満たさず汝の前に道はない。
歩む道を誤りたもうなら、引き返すが最善の道とならぬが必定。
心せよ、汝が歩む道は茨成り」
「……?」
「今のままでは、元の世界に帰るのは難しいので諦めなさい。と、主様は仰せられている」
「冗談じゃない! 諦めろと言われて諦めるなら、オレはとっくに心が折れて廃人になってるさ!!
それに……難しいって、ことは、不可能じゃないって事だよな?
―――だったら、オレは帰ることを絶対に諦めない。諦めるものかっ!!」
「天命を受け入れず、定命を逆しし不死者は唾棄すべき存在。
なれど、悲運と嘆かず。試練と為して歩みつづけしモノは好ましきこといとあはれ
身を魔に囚われし妾なれど、心魂は自由成り。
汝に祝福は非ず。されど、和と機は与えよう。
―――残る一の要。実を成すが答えとならん」
「……えーと、助言はする。……ってこと?」
「少し違うが、まあ大きく間違ってはおらぬ。
本来なら祝福か加護を与えられるところなのだが……残念だろうがソレは諦めよ」
「良くわからないけど、帰る手助けをしてくれるなら十分さ!」
こうして、女神との会談も終わり。
オレがここから帰るために必要な、具体的な事を聞こうとしたが……。
「しばし待て、不埒者に諌を与える。
糸に繋がれし魔と異なりしモノ……堪えて答えに応えよ」
「……え? うわっ!?」
突如女神が、オレを指差し。クイッと招くように指を曲げる。
すると、オレの懐から何かが飛び出し……女神の手に収まった。
ソレは……オレのスマートフォンであり。
女神は慣れた手つきでスマートフォンを操り、どこかに電話をかけ始めたのだった。
本来なら女神と人間が直接会話することなんてありえません。
主人公の口調も崩れ。不敬を晒してますが、動揺しているのでお互いに気づいてません。
元々は聖騎士と女神の話を聞いて、主人公は、イエスかノーを答えるだけの予定でした。
残念女神は仕様ですが、それが人前に晒されることは本来有り得ません。
主人公 (イレギュラー)と出会ったことによる事故みたいなものだと思ってください。




