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スマートフォンを通して覗く風景を老魔術師は胡乱な目で見ていた。
少年の前には、聖騎士が背を向けて、先導するように歩いている。
否、実際に主の元へと少年を先導しているだが、ソレを老魔術師が知る由もない。
老魔術師に分かるのは、戦闘状態にあった番人……聖騎士と、少年が突如戦いを止め、しばらく話し合い。
どこかに歩き出した聖騎士の後を、少年がついていく光景だけだ。
「……どういうことじゃ?」
老魔術師は疑問を漏らし、手元のスマートフォンから、机に広げた年季の入った書に目を向け直した。
その書物は辞典であり、歴史書であり、人物録でもある。
老魔術師と聖騎士に面識は無い。
だが、聖騎士の身にまとう鎧に刻まれた紋章に覚えが有った。
魔王の手で滅ぼされた聖王国。そこに構える貴族院に登録された、とある貴族の紋章に酷似していたからだ。
その貴族は、老魔術師と直接の繋がりはない。
ましてや、すでに滅び去った王国の貴族である。それは最早なんの意味も持たない。
しかし、その貴族が……“英雄”の名を冠していれば話は変わる。
ページをめくる老魔術師の手が止まる。
そこに記載された図画に記された紋章と、スマートフォン越しに垣間見る聖騎士の紋章は一致する。
さらに言えば、その聖騎士の鎧にも特徴があり、ソレは英雄が愛用していた神器と特徴が一致していた。
しかし本来、ソレはありえない。
なぜならばソノ英雄は、すでに此の世にはいないからだ。
聖王国陥落前。連合軍による魔王軍統治下にある旧帝國の都市奪還作戦に参加し……激しい撤退戦の中、魔将を道連れに戦死したからである。
だが、スマートフォンに映る光景。
少年と共にいる聖騎士は、どう考えても死したはずの英雄、本人に思えてならない。
迷宮に誘致されるのは魔物だけである。
より正確に言うならば、魔力機関を体内に持つモノのみ“契約”が可能となる。
普通の人間は魔力機関を持たず。持つものは一部の亜人やモンスターだけである。
書に記載され、歴史に名を残した英雄は人間である。
なのに何故、迷宮にいるのか?
それ以前の問題として、迷宮の中にラビリンスがあること自体が異常なのである。
ココに来て想定外の状況に老魔術師は、激しく困惑する。
自分の理論は正しい。
自分の計画に間違いはない。
想定外の自体にも対応できるように、事前準備もしていた。
しかし、現状はそれらの予想全てを覆した。
それは“迷宮”に対する“認識”の違い……。
魔王の思う迷宮と……。
人類の思う迷宮と実像の差であり……。
老魔術師の……人類と人外との“限界”の差であった。




