<44>
ダンジョンとラビリンス。
どちらも迷宮を指す言葉だが、その意味合いは大きく異なる。
一般的には、神の手で作られたモノを“ラビリンス”
それ以外のものを“ダンジョン”と呼び分けられているが、それは創造主の違いだけではない。
迷宮の“質”そのモノが違うから、呼び分けられていると言った方が正しい。
ダンジョンが害を与える存在なら、ラビリンスは益を与える存在である。
ラビリンスは神が人に試練を与えるために用意した箱庭であり。
試練の名に相応しいように、挑戦者の成長を促すような仕掛けが施され、さらに踏破者に対する褒美も用意されている充実した迷宮とされている。
実際に、発見されたラビリンスを踏破したモノは、例外なく英雄と成り。歴史に名を刻んでいるのが証左と言えよう。
そんな理由で、ダンジョンとラビリンスは似て非なるものであり。まかり間違っても、ダンジョンの中にラビリンスが有るなどと言うことはありえない。
しかし、老魔術師の見つめる先にある異界から齎された遺物。スマートフォンには、そんなありえない光景が映し出されていた。
―――ココは魔王が造ったダンジョンのはずだ。
―――神託に有ったラビリンスは全て攻略済……ならばラビリンスでは無い?
―――しかし、白磁の宮殿の造りは全て、ラビリンスに酷似している。
―――少年の様子から、何か会話を行っているのは分かるが……。
老魔術師は困惑し、歯噛みする。
遺物と少年と迷宮を、魔力経絡でつなぎ少年周辺の光景をモニタリング出来るように小細工したが、受信出来たのは映像のみだった。
読心術の心得などなく、信用の置ける者に読心術を使える人物はいない。
スマートフォンの通話機能を利用すれば、音声を知る事も可能だが、それには少年の許可が必要だ。
許可を取る事は難しくはないだろうが、ソレだと少年に全てを話す必要が出てくる。
今起きている問題全てを話すには、少年と老魔術師の間にある信頼関係は希薄すぎた。
―――少なくとも、老魔術師はそう、考えている。
老獪な魔術師にとって、人を騙す事に躊躇は無い。
必要ならば国王や精霊。なんなら神すらも欺くことに迷いはない。
しかし、少年は違う。
彼と、彼に連なるモノを偽りたくはない。
ソレは感傷であり。最善手ではなく、自己満足でしか無いのは老魔術師も自覚していた。
だがそれでも、老魔術師にとってソレは、選ばざる得ない選択肢だった。
かくして少年は、魔王の思惑と老魔術師の思惑と、偶然と必然の狭間で綱渡りする事となる。
――――
――
―
「汝は愚者か? 賢者ならば疾く答えよ。
―――朝は四つ足、昼は二足、夜は三つ足で歩むものは何ぞ?」
「……」
どこかで聞いたようなフレーズの後に、何処かで聞いたようなクイズが聞こえてきた。
語り手は……目の前の彫像だろうか?
答えは人間……だよな?
簡単過ぎるよな? ひっかけ問題か?
いや、オレが考えすぎてるだけか?
どう答えるべきだろうか?
―――いっそ、ボケて見るか?
ないな。それで死に戻ったら笑うに笑えん。
う~む、どうしよう?




