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「全くもってむちゃしおるのぉ……」
いくぶんか慣れた手つきでスマホを操作し、老魔術師は通話を終えると、深々と溜息をついた。
若者の愚痴に付きうのは苦痛ではあったが、昔を思い出せ愉しくも有った。
―――だが老魔術師は思う。
迷宮の作り方は何種類もあるが、自然銅や朽ちた建物などを基礎に作られるのが圧倒的に多い。
それはなぜかと言えば、迷宮を組めるほどの広大な空間を確保しようとすれば、それだけでかなりの労力を必要とする。
ならば、最初からある程度形になったモノ利用するのが、賢いやり方だと言える。
万魔殿も、その例に習い。
滅んだ国の廃坑跡地を流用して創られた事に間違いはない。
しかし、内部の構成が大きく異なる。
廃坑跡地に、城砦や館などがあるはずが無いからだ。
だが説明は付けれる。
迷宮に配置される魔物は、迷宮の創造主と契約を結んだ魔物だけだ。
その契約が合意だろうと強制だろうと関係ないが、契約なくして誘致する事は不可能だ。
もちろん、外から侵入した魔物や動物、虫などが住み着くこともあるが……それは例外である。
誘致され配置された魔物は、特定の手段を取らないかぎり死ぬこともなければ、同士討ちすることもない。
そのため、契約をせずに入り込んだ魔物は、単なる侵入者と看做され。例え同族であろうと敵対を避ける事は不可能であり、死ねばそこでお終い。
だからこそ創造主は、わざわざ魔物と契約を交わし、迷宮へと誘致するのだ。
そして、その誘致の対象に“群れ”が含まれることも珍しくはなく。
契約内容によっては、群れどころか、拠点まるごと誘致することも不可能ではないだろう。
ましてや製作者が、彼の魔王であるならば、そのくらい出来ても不思議ではない。
ただ気にかかることは、種類が多すぎる事だ。
迷宮の存在意義は様々だ。
貴重な宝物を隠すため。
戦略上の拠点として。
瘴気をバラマキ、土壌改良するため。など、いくつも理由がある。
しかし、万魔殿はそのドレにも当てはまらない。
貴重な宝物。主に神器の類になるが、これらは魔族には扱えず。それでいて、強力な力を持つ兵器である。人の手に渡さないように、魔族が隠すのも当然だろう。
次に戦略上の拠点としての扱いだ。要所を迷宮化することで、難攻不落の拠点とする事ができる。
最後に挙げられるのが、最も厄介で、迷宮を放置できない理由でも有る。
魔王が撃たれた今。攻め入る理由がないので、戦略上の拠点としての価値は無い。
同様に、神器も使う相手がいないため、わざわざ危険を犯して攻略する必要は無い。単純に力を求め挑戦するモノもそれなりにいるが、それとこれは別だ。
放置できるなら、奇特で蛮勇を振るう個人に攻略を任せても良かった。
だが迷宮には副作用がある。それは、周辺地域の瘴気汚染だ。
具体的に言うと、放置された迷宮は拡大する。
迷宮から漏れ出す瘴気が、辺りをゆっくりと汚染していき。周辺の生物や植物、土壌を飲み込み始める。
それは緩やかで、被害も気分が悪くなる程度の軽いものだが、ある一定の濃度を超えた瞬間。その地域一帯が迷宮化してしまうのだ。
当然ながら、その瞬間。内部に居たものは全て強制的に迷宮に取り込まれ、殆どの生物は死亡する。
運良く生き残れても、高濃度の瘴気の影響で、動物は魔物に、人は魔人に変容してしまう。
かといって、死んだほうがマシかといえば、それも違う。
迷宮に取り込まれて死亡した場合。多くはアンデット化するからだ。
これらの現象は、迷宮が拡大する時に起きる現象で、普通に迷宮を探索する分には問題はない。死んでも普通に死ぬだけである。
―――老魔術師は考える。
しかし何れにせよ、ここ迄、多種多様な魔物を誘致する理由にはならない。
そうなるとやはりここは……。
だがそうなれば、上層部の崩壊も、自己や偶然ではなく……仕組まれた……!?
思い悩む老魔術師の耳に電子音が届く。
[何か神殿っぽいところに出たんだけど……なう]
着信した少年からのメールを読み、怪訝そうな顔を浮かべる老魔術師。
スマホをワイプして、監視画面に切り替え、少年の周りを映し出す。
「……なんと! これはっ!? ラ、ラビリンスじゃと!?」
目を見開き、驚きに止まる老魔術師の目線の先にあるスマートホンには、白磁を基調とした神聖な雰囲気の宮殿らしき場所の庭園風景が広がっていた。




