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[もうダメポ……ポスケテ]
[竜の倒し方を添付しておく……頑張るのじゃぞ]
[……orz]
おーあーるぜっととは、どう言う意味じゃろうか?
老魔術師は悩むように首を傾げたが、大した内容ではなかろうと思い直し、スマホに目線を戻した。
眼を見張るほどの財宝の山。その影に身を潜めながら項垂れている少年。
そして、スマホに映る視点の角度を変えると、広間が見え。ソコには赤竜とその仔竜の姿があった。
コレまで観察してきた内容と照らしあわせ、老魔術師は思考を巡らせる。
この階層は、赤竜の巣。
一つ前の階層は、魔人の館。
他にも鬼ヶ砦と獣ヶ原も確認できた。
万魔殿。
魔王の真意は不明だが、推測はできる。
―――ここは、恐らく保養地である……と。
普通の迷宮に出てくるモンスターは単種が多い。
魔法生物、鬼族、悪魔種など、特定の種族でのみ構成されている場合が多い。
しかし、この迷宮は違う。
ここまで多種多様なモンスターを“誘致”している迷宮はかなり珍しい。
モンスターには自意識があり、好き嫌いもハッキリしている。
種が異なれば、迷宮内で同士討ちが起こる確率は高い。
そのため、迷宮に“設置”されたモンスターは、作り手から鑑札付され、役割を与えられる。
モンスターは、そのタグによって敵味方を識別し、襲う相手を選ぶ。
迷宮内では通常ではありえない組み合わせのモンスターが、一丸となって侵入者の前に立ちふさがり。攻略を難しくしていた。
だがしかし、統制の取れた戦術が脅威であるならば……こちらも真似すれば良い。
そうして、冒険者と隊列の概念が生まれ、少数精鋭でのダンジョンアタックが奨励されるようになり。
見事に数多のダンジョンは攻略され、魔王の残した負の遺産は順調に除去されていった。
しかし、万魔殿で躓いた。
紆余曲折を経て、攻略を託された老魔術師は、悩みに悩んだ末に、迷宮の仕様を利用することを考えた。
術式に干渉して、都合が良いように改竄する。
言葉にすれば簡単だが、実行は困難を極めた。
迷宮を構成する魔法装置に組み込まれた術式は、複雑怪奇である。
人類最高峰の叡智を誇る老魔術師にとっても難解極まりない代物であり、解析は遅々として進んでいない。
しかしそれでも、優秀な弟子たちと連携を取り。
積層構造の戦略級魔法陣を組み上げ、貴重な触媒を惜しみなく投入して、迷宮のシステムの乗っ取りを試みたのだ。
だが当然ながら未解明部分も多々ある迷宮の術式を丸々乗っ取るなど不可能であり、それを踏まえ、段階的に目標を定め実行。
本来ならば、迷宮内に“設置”された駒を、手駒に変え。迷宮の防衛機構を逆手に取り、自滅させる予定だった。
しかして、結果はグレー。
介入には成功したものの、改竄できた箇所は僅か一つ。
改竄した内容も、正負を反転させただけのお粗末なものであった……。
―――されど自体は急転する。
そのたったひとつの成功例。それが……異世界人だったからだ。
老魔術師は驚き、後悔し、嘆き……喜んだ。
偶然であれど、この世界に再び“勇者”が舞い降りたからである。
老魔術師に、野心は無い。
老魔術師に、私心も無い。
されど、老魔術師には……残心が有った。
こうして、少年との邂逅は、老魔術師の心に感傷を与え揺り動かす。
それが少年にとって、世界にとって、良いことかどうかは……不明であった。




