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☆124
項目 魔杖(ワンド)
正式には“呪歌の杖(ガルドル・ガンド)”と呼ばれる。
咒紋魔術(ウィザードリィ)の発動体であり、魔術行使の補助を行うために創られた杖の総称。
“杖”と称されているが、必ずしも棒状とは限らない。稀にだが、剣や弓、銃などを模した形状の物もある。
グランドリア歴1012年。現在においては、“ガンド”とは“長銃(ライフル)”を指す言葉となり、“魔杖”は主に“ワンド”と呼ばれるようになった。
また、魔杖は主に妖術(ソーサリィ)を人の身でも行使できるように体系付けた霊術(ウィッチクラフト)の産物であり。
グランドリア歴783年に錬金術(アルケミー)と巫術(セイズ)に分けられた後は、錬金術のカテゴリーに含まれるようになった。
補助効果(アシスト)について
内側に仕込まれた魔術回路(サーキット)によって詳細は異なるが、特定の魔法属性(アトリビュート)に干渉するモノが多い。
一例として、火、炎、焔を含む。赤系統の魔術(イグニス)を 強化(エンハンス)する……“洋紅色の杖(カーマインスタッフ)”が挙げられる。
形状は1m弱の棒状。尖端に紅玉が埋め込まれた白磁の杖で、表面には火蜥蜴の這いずる姿が彫刻されている。
彼の杖は術者(ユーザー)の唱えたる中級下位の“火よ弾けよ”を、上級下位の“炎よ舞い踊れ”に匹敵する威力にまで引き上げる事が出来る。
ただし、欠点として反属性である。水、氷、凍など、青系統の魔術(アクア)の行使が不可能になる。
また、変わった例としては、“理力の帯(メギンギョルド)”が挙げられる。
形状は燐光を放つ、2m強の帯状の紐で、編み込まれた、何らかの文字にも見える独特の文様が特徴となる。
これは広義では魔杖に含まれるが、厳密には蟲術(エレメンツ)と符術(トウヴァ)を融合させた魔具(アーティファクト)で、着用者の膂力を倍加させる能力が有る。
モデルとなった神器(オリジン)の“雷神の力帯(メギンギョルズ)”と違い。コマンドワードを唱えないと効果を発揮せず。さらに効果時間も存在するが、強力な代物であることに変わりはない。
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「……わけわからん」
爺さんの勧めに従い、該当する項目を読んでみたが……専門用語が多すぎだろ!?
手元の杖は、妙にテカテカした光沢有る黒……いや、青か?
黒に限りなく近い、蒼い髑髏が飾られた。金糸と銀糸で彩られた布が巻かれた。茶褐色の70㎝程の棒だ。どうみても例文の杖とは別物だ。
強度は高く。ためしに軽く力を入れたが折れるどころか、曲がる気配すらしない。
爺さんが言うには、この手のマジックアイテムは、状態維持の魔法が掛けられてるのが普通らしい。
「―――火を放てっ!」
杖先の髑髏で図形を描き、いつもの魔法を唱えてみたが……う~ん? 変化はなさそうだ。
「―――治癒せよっ!」
不発……か。
やっぱり対象がいないと効果の確かめようがない。
どうする? 一度戻って、ゴブリン辺りで試してみるか?
いや、後で良いか。
爺さんに教わった通りに所属の書き換えも終わらせ、貴重品を抱え落ちしても問題なくなったからな……。
杖にオレの生き血を垂らし、一時間掛けて染み込ませるだけの簡単なお仕事です。
詳しい理屈は知らないが、こうすることで所有権を書き換えることができるらしい。
うん、グロいし痛いし悪趣味だが……効果は絶大で、コレをやっておくとリポップ先が、オレの手元……自室になるのだから、ヤらない理由はない。
しかも、ボスの場合。その出現の抑制にもなるから、ヤらなきゃ損ってレベルじゃない。
ただし残念なことに、無制限では無い。
一度に“所有”出来るのは、七個までらしい。
ここで言う所有は、専用って意味で、血で鑑札を付与したモノを指す。
無制限なら、ありとあらゆる武具を蒐集してコンプリートを目指すところだが……出来無いモノはしょうがない。
なんで七個なのかは知らない。気孔の数と呼応してるとかなんとか言っていたが……今はどうでも良い。
現在オレがタグ付けしてるのは3つ。
スマートフォン
紋章入の剣……爺さん曰く、フォトレイ都市泊の紋章の入った鋼鉄の剣
そして今、手に入れた魔杖の三個だ。
剣の方は、さっきロストしたから、そろそろ自室にリポップしている頃だろうが、取りに戻るのも面倒だな……。
先が気になるし、次の階層を見てからにするか?
魔杖に関しても、特殊効果は不明でも、頑丈だから棍棒代わりになるはずだ。
歩いて戻るより、死に戻った方が手っ取り早い。
―――何か色々と間違ってる気もするが……今更だろう。
今のオレがどんな表情をしてるか分からないし、知りたくもないが、妹が見たら笑うだろうな……。
――ーいや、泣くか?
まあいいさ、どの道この迷宮を踏破して、攻略しないことには還れない。
だったら、無茶でも無謀でも、先に進むしか無い!
―――さあ! 往くぞっ!!
気勢を上げ、オレは亡霊館の裏口を抜け。次の階層であるB9階に足を踏み入れたのだった。




