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「危なかった……骨と皮のスネ左衛門のくせに力強すぎだろ!? バケモノが!」
あ、いや、うん、そうだね。化物だったね。
一応元は人間だったらしいが、今のそいつは、人の道を外れ、人を超える代わりに魔に墜ちた正真正銘の化け者だ……。
―――だからコレ、殺人じゃないよな?
せ、正当防衛は余裕で成立するし、それ以前に、ココには警察もいないからオレが捕まる心配はない……。
あ、いや違う!? そう言う問題でもない!
人を殺すこと事態が問題なのであって、法的機関の有無は問題じゃない。
それにこの世界にも、法的機関くらい有るはずだ……あ、でも爺さんは言ってたなダンジョン内。……と言うか、町の外など、人の手の及ばぬ場所は全て無法地帯だと。
それにバケモノに人権なんて無い!
オーガやオークも人型をしたバケモノでしかないはずだっ!
―――止めよう。
この辺りを考えだしたらドツボにはまりそうだ……。
ここにいるのは人外の怪物。人類の仇敵を倒すことは善いことだ! そう思え!!
勢いに任せ、部屋に飾ってあった調度品の中から、高そうな壺選んで手に取り。オレは、意識を失い倒れたノスフェラトゥの後頭部に叩きつけた。
ガシャンと壺が割れ、鈍い音と何かが砕け潰れた感触を手に残し、床に赤いシミが広がった。
罪悪感と言うか、なんとも言えない微妙なわだかまりを引きずりながら、オレは思考を無理矢理に切り替える。
「……中ボス撃破っ! え~と、お? コレか?」
懐からスマートホンを取り出し、既読メールから、チェックを入れ保護しているメールに添付してある画像を開く。
え~と、ロストする前に、ボスの血を使って五芒星を床に描いて……。
「おお! やっぱすげー!?」
ボス部屋の床に現れたお馴染みの魔法陣と、ノスフェラトゥの血で描いた五芒星が連鎖的に反応を返し、部屋全体が七色の彩光に包まれる。
「これか?」
爺さんが言うには、階層を支配するボスは、他のモンスターと仕様が違うらしい。
身も蓋もなく、ざっくばらんに言うと……ドロップ品があるそうだ。
ただし、倒しただけでは駄目で。
撃破した後、その血を使って五芒星を描き。その上にボスの残骸を載せることで、消滅ではなく再変され。それがドロップ品になる。
もっとも、ゴーレムみたいに“血”が存在しないボスや、2F……じゃなくて、オレの自室があったB7のようにボスが不在の場合。ドロップ品も無しとなるらしい。
それってどうよ? と思わなくもないが、そういうものなら仕方がない。
中ボスが全部ゴーレムの迷宮なんてあったら最悪じゃね?
そんあこんなとグダグダ考えてたら、光の洪水が収まり。オレの目の前には棒杖が転がっていた。
髑髏とケバケバしい装飾が付いた悪趣味な杖で、正直触りたくないが……ぐずぐずしているとロストするから、オレは迷いながらも床から拾い上げ、手に構えた。
[なんか出た。分かるなら詳細希望。なう]
とりあえず、写メを撮って爺さんにメールしてみる。
[それは魔杖じゃな。詳しいことは、手に取って解析せんとワシにもわからん]
[ダメじゃん!? ……また、何かあったらメールする]
[把握。ワシも健闘を祈っておるぞ。それと、魔杖については24番目に送ったメールの21章124項目の魔具の欄を参照するが良い]
[……了承]
え~と? 何処だ?
長文&件数が多すぎて、まだ全部に目を通して無いんだよな……。
それに、文字は読めても意味が分からない箇所が色々あってイミフなのが困る。
例えば、役に立つようで立たないファイアショットに該当する記述なんてこれだし……。
魔法銘 “火を放て”
呪文 “我は人生を呪う、火よ嗤え”
呪紋 添付された写メ6番と12番を参照
解説 火の弾丸を射出する
備考 子供の火遊びレベルの魔法。練習には最適
呪文に書かれた“我は人生を呪う、火よ嗤え”を読んでも。
“われはじんせいをのろう、ひよわらえ”としか読めない。
どこをどう読んでも“エゴ・ビィビル・イムプレカティオ・フォティア・イルジンテス”とは読めない。
添付された写真に映る、くの字似た図形を見ても、実際に魔法で使われた時と違って、意味は浮かんで来ない。
発音自体は「我は人生を呪う、火よ嗤え」で良い。
しかし、同時に「エゴ・ビィビル・イムプレカティオ・フォティア・イルジンテス」と聞こえなくてはならない……っぽい。
―――わけわからん。
爺さん曰く、これは“認識”の問題らしい。
単語に込められた意味を識り、言の刃を持って世界に願望を刻む事で、魔法は発現する……らしいが、オレには意味不明だ。
オレの感覚的には「我は人生を呪う、火よ嗤え」と叫ぶと同時に、脳内で「エゴ・ビィビル・イムプレカティオ・フォティア・イルジンテス」と翻訳・意訳される感じなんだが……説明が難しい。
“強敵”と書いて“とも”と読む! ……って感じかね? 違うか?
まあとにかくハッキリしてるのは、副音声的な部分を読み取れない以上、正しい詠唱は出来無いって事だ。
―――ちくしょーめ!




