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「―――……! ―――!?」
「させねーよっ!」
爺さんから聞いた話だが、この世界のおける魔法に代償は存在しないそうだ。
儀式魔法や禁呪の類には、触媒が必要となるらしいが、原則的に魔法は、無手で使い放題らしい。
ただし、無条件と言うわけではなく。
発声による呪文詠唱。
宙に……世界に描いた呪紋の刻印。
最後に、魔術行使の宣誓を発音する。
この三行程の手順は必須で、その内訳を語るなら。
決められた文法で、単語を並べ、それを口に出すことで世界に散らばる魔力元素……魔素に働きかけ宙に集める。
続いて、体内にある魔力元素……妖素を使い、土台であり発射台ともなる方陣を描き、指向性を定める。
最後に、上記二点を結実させ、魔法式の終了と実行を示す……命令文を口にして、手順にミスがなければ魔法が発動する事となり。
これまで疑問だった点も、これらの説明で解消された。
移動しながら魔法を唱えても意味が無いのは、動くとせっかく集めたマナが無駄になるからであり。
連続して魔法を使えないのも、魔法を使うと一時的に周囲の魔力が枯渇するからであり。
魔法を使った後、移動したらすぐにまた魔法が使えるのも、そのためだった。
また、魔力が枯渇すると言っても、周囲には溢れてるわけだから時間経過で充填されるので問題はない。
しかし、逆に言えば。その場から動かなければ……動けなければ、その場所で魔法は、一定時間は誰にも使えないことになる。
「――hfsら!? hjxぃckf! jscgっ!?」
「だが、断る!」
「jdxじゅじゅじゅっ!?」
プロレス好きで、喧嘩になると容赦なく関節を決めてくるクソッタレな妹の得意技であり。悪友の残念なイケメン曰く……「それは、ご褒美」……と称された。顎が逞しい王者の業。
背後から相手の左足に自分の左足をかけ、自分の左腕を相手の右脇の下に通して首の後ろに巻きつけ、相手の上半身を捻って決める。
―――肋骨折り。
死に損ないだったら、痛覚もなく無意味だったが……コイツは生き物だ。
しかも見た目通り、骨と皮で筋肉なんてありゃしない。
さらに、この世界の魔法は、原則的に“他者”にのみ効果がある。
自分で自分に魔法をかける事は至難とされ、回復魔法は当然ながら強化魔法なども、一対一では無意味となる。
しかしだからと言って、人から変じた化物が接近戦に弱いなんてことはない。
防御魔法は、外からの攻撃に対して干渉する魔法であるがため。
予めこの魔法を唱えておけば、物理攻撃の殆どを、無効化できる。
もちろん無効化と言っても限度は有るし、防げる威力に限界も有るので、無敵と言うには程遠い……が、それでも物理主体の戦士にとっては、非常に厄介な相手となるだろう。
……かと言って、魔法攻撃も有効ではない。
優れた術者ならば、魔力操作によってオドを動かし、向けられた魔法に干渉することで、指向性を拡散させて抵抗する事が可能だからだ。
おかげでオレのファイアショットは、かすり傷すらも負わせることは出来なかった。
―――絶望した!
しかしおかげで、魔法でどうにかしようと考える事を諦めることが出来た。
やぶれかぶれとなったオレは、せめてムカつく面を一発ぶん殴って、スカッとした後。操られる前に自害してやろうと考えた。
そう思って、相手の余裕の隙を付き突進。全力で駆け寄った……が、疲労からか足が縺れてコケてしまった。
コケたとしても、勢いは止まらず。無様にも、オレは余裕そうに嗤うノスフェラトゥに抱きつくようにして倒れこんだ。
―――そう、抱きつくことが出来た。
防御魔法は、外部からの“攻撃”
つまり、斬撃や衝撃、圧力などから身を守る力場のようなモノを創りだす魔法だ。
攻撃と看做されない接触。つまり、ただ触れるだけの動作を止める力なんて無い。
もちろん、ぶつかったダメージや、地面に押しつぶしたダメージも無い。
しかし、触れること……掴むことは出来た。
―――その時、オレに電流走る……!
慌ててオレを引き離そうとしてくるノスフェラトゥの腕を掴み。スルッと背後に周り“関節技”をかける。
人間の身体構造的に曲がらない方に、無理矢理動かし固定する。ノスフェラトゥ歪んだ顔が、愉悦から苦痛に変わる。
―――これは……イケるッ!
こうしてオレは、生まれて初めて……心から、兄を兄とも思わぬ愚妹に感謝したのだった。
外部からの干渉を全てシャットアウトすると、窒息します。
さらに目も見えませんし、匂いも嗅げず、触感も0となれば不都合が多すぎるので、大抵の防御魔法は似た感じの仕様となってます。
もちろん、対抗策もありますが、人外に効果の薄い関節技は一般的では無く。したがって対抗策を準備してる魔術師はいません。
知る人ぞ知る裏ワザって感じです。
だからこの世界では、魔術師殺し=関節技マスターが成立するのです。
銃弾? 無意味ですが何か?




