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<32>

 [うわくっそ強そう……orz ヤルだけやってみるよ]

 

 勇者の忘れ形見とも言える色褪せたスマートホン。

 

 バックライトに照らされディスプレイに表示された「めぃる」を読み、老魔法使いは苦笑を浮かべた。

 

 思い返すのは、勇者と過ごした日々。

 破天荒で我儘な青年。だけど、繊細で意地っ張りな少年のような純朴な心を持った親友。

 

 彼と過ごした短くも濃密だった激動の日々……。

 

 恐らく“そう”なのだろう……。

 

 「これが運命だと言うなら……なんとも皮肉なものじゃ……」

 

 浮かべた笑みを消し。天を仰ぐ老魔法使いの胸中は複雑な思いで満たされる。

 

 ―――どうして“彼”なのか?

 

 スマートホンを慣れない手つきでワイプして、アプリを開く。

 

 自身の知る、この世界とは異なるテクノロジーで作られた“端末ターミナル


 組み込まれたアプリは……“デウス・エクス・マキーナ”と称される、秘跡の(サクラメント)産物(ギフト)

 

 アプリを開くと同時に無数の呪紋(ルーン)が無機質に流れる。


 電子を霊子に、魔力を電力に。電荷を魔化して押し通す。

 

 ―――全ては予定(プログラム)調和の元に(コンプリート)帰す。

 

 静かに起動した魔法仕掛けの禍津神は、決められたルールに従い“世界”に干渉する。

 

 アプリの起動を見届けた老人は、ソレが正しく動作していることを見て取り僅かに口角を歪ませる。

 

 目線の先にあるスマートホンには……現在進行形でダンジョンアタックに挑む少年の姿が写っていた。

 

 

 ――――

 ―――

 ――


 豪奢な館の豪華な部屋に踏み込んだオレは、館の主にしては見窄らしい男と対峙していた。

 

 「―――……――! ……―――!!」


 光を返さない死んだような目とは対照的に、愉悦に歪んだ口からは、ぼそぼそと呟くように呪文が唱えられ。骨のように細い指先で、見慣れたようで見慣れない図形が宙に描かれる。

  

 ―――真下、斜め下、逆斜め下。

 ―――宙に刻まれた文字は“Th(スリサズ)

 ―――続けて、斜め下、逆斜め下。鏡写しに、くの字を描くように斜め下、逆斜め下。

 ―――続けて刻まれた文字は“ing(イングズ)

 ―――斜め上から斜め下。真下から真上に矢印を描き。

 ―――最後に刻まれた文字は“T(テイワズ)

 

 文字が示す意味は棘、豊穣、勝利。意訳された答えは……稲妻っ!?

 

 オレはとっさに剣を手放し、横に転がる。それとほぼ同時に、耳をつんざく轟音共に、オレの視界は焼きつくされた。

 

 声が小さくて呪文がよく聞こえなかったが、紫電の蕪矢(ライトニングボルト)って感じか?

 

 キーンと煩わしい耳鳴りと、狂った平衡感覚に惑わされ。致命的な隙を晒すも追撃はない。

 

 「――!―……!――!!」

 

 どうやらコイツもレイスと同じタイプらしい。

 好都合といえば好都合だが……ムカつく。

 

 短気は損気だと人は云う。そう父さんは教えてくれたが……今、ココでは間違いだ。だからオレは敢えて怒号を挙げ立ち上がる。


 「うぉおおお! なめてんじゃねーぞっ!!」

 

 霞む視界の向うに捕らえた。ミイラに等しい程、病的に痩躯な妖術師(ノスフェラトゥ)っぽい男を、オレは睨みつける。

 

 ―――心が折れたら負けだ。

 

 爺さんが言っていたが、こいつは魔眼(チャームアイ)持ちだ。

 気を緩めたら心を絡めとられ操られてしまう。

 

 そうなったら鬼の砦の時よりヤバイ。

 

 可能な限り目線を合わせないように立ち回り、ムカつきやイラつく心の憤りを、迷わず怒りに昇華して抵抗(レジスト)する。

 

 ―――気合で負けたら終わりだ。

 

 逸らした視線が、床に転がった焦げた剣に止まる。

 

 爺さんが言っていた通り、魔法にもある程度、物理法則が通用するってことは本当らしい。

 

 ……と言っても、避雷針に使えそうなのはもう無い。ついでに、武器も無い。

 

 見た目は機敏に動く即身成仏だが、どうやらコイツはアンデットじゃないらしい。

 試しに使った回復魔法も、普通に回復させただけだった。

 

 そうなると、オレが使えるのは……いつものしょぼい火の魔法しかない。

 

 爺さんから貰ったメールに書かれた、大量の呪文も無意味だった。

 なぜなら全く意味が理解できなかったからだ……解せぬ。

 

 どうやら、オレの謎の翻訳っぽい能力は……迷宮内でのみ有効らしい。

 

 つまりオレが新しく魔法を覚えようと思ったら、モンスターの使ってくる魔法を見様見真似(ラーニング)するしかない。

 

 しかし、奴の声は小さく。何を言ってるかよく聞こえないので不可能だ。

 

 残された手段は一つだが……。 


 ゴーレムみたいに削り切れと? 相手がぶっ放して来る魔法を避けながら?

 



 ―――無理ゲー過ぎるだろ!?





 ちなみに、チャームアイの抵抗難易度は、24時間起きっぱなしでクソ眠いのを我慢するのと同じくらいです。



 ―――余裕でしょ?


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