<26>
迷路には、いくつか攻略法がある。
その中でも最も有名なのが左手法だろう。やり方も単純で、左側の壁に沿ってひたすらに歩くだけである。
原理的に、出入り口が迷宮の“外側”に付いていないと駄目だが、動く壁などイレギュラーがない限り。最悪でも出発地点に戻って来る事が出来るため、有用性は高い。
この迷宮の場合。動く壁などの存在は確認出来ていないが……階段が存在するため、左手法の効果が薄いのが残念だ。
しかし、意味はある。
左手法。どうして“左手”なのか?
原理的に右手でも成立するのに、なぜ左手法と呼ばれているのか?
コレにはちゃんと理由がある。
分かれ道に立った時、前情報も無く、思案する余裕もない状態で、咄嗟に選しかない場合。殆どの人が本能的に左を選ぶからだ。
また、迷宮の早解きにもコツがある。
それは逆走法だ。
出口から入り口を目指して逆走する方法である。
順路を逆に辿ることで袋小路を回避しやすくなり、普通に解くよりも早く正解ルートを見つけることが出来るのだ。
ただし。コレにも条件がある。
ランダムで生成された迷路だと、出口と入口が逆になるだけなので全く意味が無い。
人が意図的に、出口に辿り着きにくく設計した迷路でのみ効果を発揮するのだ。
そして、現在オレがいる迷宮は……鬼の城塞は、明らかに人の手が入っている。
―――本当に“人”かどうかは、些細な問題だ。
重要なのは……“入口から出口に向かって、侵攻し難くいように設計されている”と言うことだ。
さらに左手の法則が突破の後押しをしてくれる。
法則を前提に迷路を設計するならば……左手側に罠を仕掛けるのが常法だろう。
コレがゲームなら、罠の代わりに行き止まりと宝箱が設置されている可能性が高いが……いずれにせよ、入り口に向けて爆走するオレには関係の無い話だ。
侵入者を撃退しようとする城塞設計者の思惑をオレは裏切った。
外側からの侵入を前提とした罠や仕掛けも、内側からは丸見えだ。引っかかるわけがない。
そもそも城塞と言うものは、外から攻めにくく。内からは攻めやすく作られてるのが当たり前。
ココは刑務所とかじゃ無いのだから、内側からの脱出者への備えなんて有るわけもない。
そんな理由でオレは、散発的に出会うゴブリンやオークの間隙を掻い潜り、時には蹴散らして、3Fから脱出。
城塞を挟んで反対側のエリアに有った階段を駆け上がり、4Fへの到達を果たしたのだった……。
―――
――
―
4Fについてからの攻略は早かった。
予想通りと言うか、5F、6Fと階層を登る度に攻略の難易度が下がったからだ。
出てくる敵も、6Fまで来ると、オークやオーガは完全に姿を消し。ゴブリンすらもめったに見かけない。
遭遇するのは、コボルトや血吸い蝙蝠。
巨大な灰色鼠やはぐれ狼などがメインとなった。
蝙蝠も鼠も狼も、群れを成していたら勝ち目は無かった。特に狼など、群れていたら絶望しか残らない。
だが、幸いな事に、遭遇するのは常に少数であり。
さらに、これまでの相手とは違って、大抵の場合は遭遇して戦いになっても、仲間が一人でも殺られ、劣勢を感じ取るとすぐに逃げ出すようになった。
おかげで5Fと6Fの攻略は、その日の内にあっさりと終わった。
強敵と思われる―――
5Fボスの忌避すべき人狼
6Fボスの赤毛の犬頭
―――の二体も、4Fボスと同様、出落ちで終わった。
卑怯? 知らんがな。
真っ向勝負じゃキツイからしょうがない。それに地の利を活かして何が悪い?
そんなことより……もうすぐだ!
6Fに出てくる敵の種類から考えて、恐らく7Fが地上に繋がって可能性が高い!
つまり、この階層を攻略すれば、とりあえず外には出られる事になるっ!!
外に出たところで、何が解決すると決まったわけではないが、進展はあるはずだ。
見捨てざる得なかった城塞に囚われた人たちも、外に出て人里に辿り着ければ救援を呼べるかもしれない……。
全ては可能性だが……少なくともこんな場所に留まるよりは良い……って、はあああっ!?
7Fに上り。おそらくはボス部屋であろう場所に出たオレの目の前には……壁があった。
ボスがいたであろう広い部屋、その半分以上が瓦礫に埋もれ、“入口”が完全に塞がっている。
ボス部屋の出入口……ダンジョンの外に向かう唯一の道は、土砂と瓦礫で完全に埋まっていた……。




