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半実態の新モンスター、黒妖犬。
影に溶け込み、物陰から滲み出す様に飛び出し奇襲をかけてくる強敵だ。
半実態が故に、ある一点を除いて物理攻撃無効の特性を持つ、狼に似た影の化物である。
これだけ聞くなら、勇者や戦士でもない、真っ当な人間であるオレに勝ち目など無いように思えるが……ぶっちゃけ雑魚だ。
弱点のある一点。それは牙だ。
そして、相手の攻撃手段も牙を使った噛みつきしか無い。
実体が無いから物理攻撃を受けないなら、実体が無いから物理攻撃も出来無いのが道理だろう。
弱点と攻撃手段が一致しているなら話は早い。
相手の攻撃に合わせて、剣を振ってカウンターするだけで十分撃退できる。
攻撃手段であるの跳びかかりパターンは豊富で、下から横から背後からと、縦横無尽に襲いかかって来るが……動き自体は直進のみと単純だ。
知能が足りないのか、別に理由があるのか分からないが、タイミングをズラしたりなどのフェイントを入れてくる事もなく。愚直な特攻しかしてこない。
死角からの強襲にさえ注意していれば、迎撃も難しくはないのだ。
ついでに言えば、死角からの強襲や待ち伏せも、看破する事は容易だったりする。
影に溶け込んだ状態では、普通の影と区別は付かず、実体が無いので足音もしない。
暗殺者としてものすごく優秀な能力を持っているが……唸り声が全てを台無しにしている残念なモンスターである。
影に潜んでる状態でも、低く唸り。
ご丁寧にも、攻撃するときに、は吠えながら跳びかかって来るのだ。
まあ攻撃時に気勢を上げて叫ぶのは良くある。オレも良く叫んでいるから間違いない。
しかし、奇襲の時にも声を上げるのは……さすがはモンスターって事だろう。痺れもしないし憧れもしないが……感謝はしておこう。
まあそんな理由で、バーゲストは恐るるに足らない。
むしろ、ゴブリンより弱いかもしれん。
だとするとやはり下が出口なんだろうか?
ゲームでは、奥に行けば、行くほど敵が強くなるのが定石だ。
現実的に考えても、雑魚は壁役として前衛に並べるだろうから、浅い階層にザコがいるのもオカシクはないが……。
などと考えていたら、突き当りにドアが有り。
そーっと開けた先は、かなり広い空間。天井の高いダンスホールのような大部屋であった。
大部屋には無数の扉があり。行き先もまた無数にあるようだ。
うわぁ……マッピングが面倒そうだ……などと考えていたら、上から何か白い影が覆いかぶさってきた。咄嗟に盾を掲げるも、ソレを透過して腕が突き抜けてきた。
なん……だと?
白い影が伸ばした手は避けるまもなく、オレの胸を捉えるが、何の衝撃も与えることは無かった。。
アレ? なんの意味が……ぐふっ!?
手とオレの身体が重なった次の瞬間。途端に背筋に悪寒が走り、心の底まで凍らせるような寒気と倦怠感に包まれた。
慌てて、白い影の手から逃れるように床を転がり、オレは詠唱を始める。
姿勢を崩しながらも、目標を目に捉え起き上がると同時に、方陣を描いて締めの言葉を叫ぶ。
「―――火を放てっ!」
放たれた魔法の火は、オレの目線の先にいた青白い人影に直撃するも、怯ませる程度で、大して効いた様子はない。
役立たずの盾を試しに投げつけてみるも、避ける素振りもせず貫通。物理は完全に無効のようだ……。
バーゲストが半実態ならば、こいつは完全な非実体のモンスターか……厄介な。
半透明の体躯を持ち、虚空を写すが如き真っ黒な……眼球自体を塗りつぶしたような漆黒の目をした化物……死霊ってところか?
まあいいさ、効き目が薄くとも、ゴーレムの時のように削って削り切れば良い。
そんな魔法で大丈夫か?
―――大丈夫だ、問題ない。
空を飛んでる分、ゴーレムよりキツイが……なんとか…な…る……嘘だろっ!!?
退路と戦闘区域の把握のため、辺りをサッと見渡して、上を見て、オレは気づいた。気づいてしまった……。
青白い影がひとつ。
青白い影がふたつ…。
青白い影がみっつ……。
青白い影がよっつ………。
青白い影がいつ………………。
綺羅びやかなダンスホール。
色とりどりのドレスとタキシード姿の紳士、淑女だった者達の社交場。
闖入者であるオレの、唖然と見上げる間抜け面を見て、彼らはただ嗤っていた。
―――誰か! 一番良い魔法をプリーズっ!!




