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<1>

 「……………」

 

 無言でドアを閉じる。

 

 まて落ち着こう。

 

 ここはオレの部屋。自宅であり自室であり、二階建て一軒家のマイルームだ。

 

 ドアの向こうは板張りの廊下。

 正面の壁には安物の絵画が掛けてあり、隣の部屋には妹が居て、その向こうが一階に降りる階段になっている。

 

 ―――はずだった。

 

 軽く息を呑み、ドアを開ける。

 

 正面に見える壁は、剥き出しの石壁。

 苔が生え、ところどころひび割れた年季の入った壁だ。

 

 右を見る。

 

 妹の部屋のドアは無く、奥にある階段も無く。さらに奥へと続いている。

 

 左を見る。

 

 本来なら行き止まりで、小さな棚に花瓶が置かれ、母の好きな花が飾られているはずだが……何も無い。

 

 何も無いと言うか、壁が無い。代わりに通路が伸びている。

 奥の方は暗くて良く見えない。

 

 「……………」

 

 ドアを閉じる。

 

 「……………」

 

 ドアを開ける。

 

 「……………」

 

 ドアを閉じる。

 

 「……………」

 

 ドアを開ける。

 

 「……………」

 

 ドアを閉じる。

 

 二度見どころか三度見、四度見しても風景は変わらない。

 

 「なんじゃこりゃー?!」

 

 ――――

 ―――

 ――

 

 取り乱し、ひとしきり騒いだ後、呆然として力なく部屋に座り込む。

 

 いつまでそうしてたか、不意に……くきゅぅるる……っと、腹が鳴った。

 

 「夢……じゃねえよな……ははっ……クソがっ!」

 

 壁ドンならぬ床ドンしても反応はない。

 

 いつもなら階下の母親から怒声が飛ぶか、妹から壁ドンされるところだが、全く反応がない。

 

 窓から出ようにも、窓の向こうは壁だ。

 

 蛍光灯をつけてよくよく見てみると、ドアの向こうと同じような、冷たい石壁で塞がれていた。

 

 助けを呼ぼうとスマートホンを起動するも圏外表示で使えない。

 

 状況はさっぱり分からないが、出入り口は一つで、その先に広がるのは未知の道だけだ。

 

 思い当たることは何もないが……寝る前にネットで見た。まとめサイトで話題になっていた、異世界モノの携帯小説が脳裏を過った。

 

 「いやいやいや!? ねーよ!」

 

 勇者として召喚された?

 ゲームの中に入った?

 異世界転生?

 神かくしに遭った?


 ―――幻覚幻聴、オレの気が狂っただけ?

 

 様々な状況を思い浮かべては、仮定と否定を繰り返す。

 

 そうやって思い悩んでると……ぐきゅぅるる……っと、再度、腹が鳴った。

 

 時計を見ると12時を回っていた。

 

 これが夢でも幻覚でもないなら……オレは、いずれ餓死する。

 

 一階に降りれば台所に冷蔵庫が有る。

 降りなくても、隣の部屋に入れば、妹が買い置きしてるお菓子が有る。

 

 だが、オレの部屋に食えるモノは無い……せいぜい、飲みかけのミネラルウォーターが一本、机の上に置いてあるくらいだ。

 

 ドアの向こうがどうなってるのか分からない。

 戻ってこれるかも分からない。

 

 だが、何もしなければ死ぬだけだ。

 

 だったら動けるうちに……今のうちに探索してみるしかない。

 

 「男は度胸! 女は愛嬌! オカマは最強! ってな……!!」

 

 やけくそ混じりに、どこかで聞いた迷言を叫び、己を鼓舞する。

 

 そしてオレは、ペッドボトルの水を飲み干し、ドアを開け。

 未知なる世界へと踏み出したのだった。

 

 

 

 

 ―――その直後。

 

 意気揚々と通廊を曲がったところで、緑の醜悪で矮躯な怪物(ゴブリン)に襲われ……オレは死んだ。



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