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―――手応えはあった。
ならば何が足りない? 努力か? 才能か? 根性か?
いやいや、違う……もっとこう、根本的な手順が間違ってる気がする。
さあ思い出せ……。
心の棚をひっくり返し、思い浮かべろ……。
オレが見た魔法らしきモノは二種類。
一つは、幾度と無く身に受け、火傷からの衰弱死をもたらしてくれた……インプのファイアショット。
もう一つは、現在進行形で唱えられている、ゴブシャーマンのヒーリングの二つだ。
ぐぎゃぐぎゃとくぐもった声で有りながら、妙に甲高いと言う耳障りな発音で、それでも、一定の韻を踏んだ呪文が唱えられる。
杖を振りかざすと、杖の先端に燐光が灯る。
続けて杖を一定の拍子で振り回すと、中空に魔法陣が展開され。
方陣を描き終えて、ぐぎゃあ! と……吠えるように、締めの言葉を叫んだと同時に、光る刻印は淡く輝き霧散する。
そして、何処かで、何かが、動いたような気配がして、術の対象……オレの身体に、何かが、作用する。
痛みが消え、傷が塞がり、曇っていた意識が晴れ、体力、活力、気力が回復していくのが分かる。
空腹すら改善される万能な回復魔法だが、流石に潰された手首、足首が生えてくる程ではないようだ。
それでもめがっさ強力で、いんちき臭いほど便利であることには変わらない……これゲームだったら弱体化の修正必死って感じだよな……。
………うん、体調が改善された事で、思考がクリアになり、わずかに余裕が生まれる。
どうせまたすぐに、拷問が再開されるから、グズグズはしていられない。
―――さあ、今の手順を振り返ろう。
呪文は完璧に真似できてるはずだ。
実際に、唱えれば何かが、動く感覚はする。
だが、ゴブシャーマンのように、魔法陣が展開される事は無い。
杖……発動体が必須なのか?
いや、インプは杖なんて持ってはいない。
口から吐き出すように撃たれた火弾も、口内に魔法陣が展開されていたから、特殊能力ではなく、ゴブシャーマンと同系統の“魔法”のはずだ。
だったら杖の有無は無関係である可能性が高い。
だったらオレの場合、なぜ魔法陣が展開されないのか?
……身振り手振りが必須なのか?
いや、インプは特にオカシナ動作はしていない……違いはどこだ?
いやいやいや、違う。逆だ……同じ所……共通点は何だ?
杖から放たれるのと、口から放たれるのでは、雲泥の差がある。
しかし、呪文らしきモノを唱え、魔法陣のようなものが展開されてから、魔法効果が発現する。この手順は共通している。
魔法陣を展開。
中空に描かれる魔法円と文字。
―――描かれる?
もしかして、唱えただけで自動展開されるのではなく……手動で描く必要があるのか!
ゴブシャーマンは杖で、インプは……恐らく“舌”で魔法陣を描いているのでは無いか?
方陣の図形と書き順を思い出せ……まずは真円を描き……。
―――斜め上、真下、斜め上。
―――宙に刻む文字は“yr”
言葉の意味は……文字の意味は……死と再生。
インプの方は……たしか二文字で……そうコレだ……それを意訳して……。
「我は人生を呪う、火よ、嗤え―――」
続けて腕を振り、空中に文字を描く……いや、理に銘を刻むっ!
―――斜め上、真下、斜め上。
―――宙に刻む文字は“yr”
―――続けて、くの字を描くように斜め下、逆斜め下。
―――最後に刻む文字は“ken”
言葉の意味は篝火……二文字繋がれば……灯火と弓……。
ああ、なんとなく理解した……してしまった。
これが真理。
オレの中の、何かが、欠け……オレの知っている常識は死んだ。
描かれた方陣を見て、嫌らしい笑いを浮かべたまま固まるゴブシャーマンを睨みつけ、締めの言葉を叫ぶ。
「―――火を放てっ!」
淡い光を残し、描いた方陣と文字は溶けて消え、赤い閃光が目を覆い尽くし、汚い花火が炸裂した。
……やったか?
主人公は凡才です。
逸般人でもではなく、普通に一般人です。
可もなく不可もなく……凡人に出来ることなら、努力すれば普通に出来ます。
例え異世界であっても、異世界人の凡人が出来ることなら、努力すれば普通に出来ます。
―――ある意味、異常です。
“万能の凡才” それが、この主人公の特徴であり、強みです。




