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7 非リア充 頑固親父を見学する の巻

 近頃、何故だか飴にはまっている。

 最近食べた中だとロマンス製菓の千歳鶴甘酒ソフトキャンディが美味しかった。

 食べていると酒の匂いがすると言われた。

 運転中に食べたらどう思われるかなあ?

「さっきは恥ずかしい所を見せちまったな」

「いえいえ、久しぶりの“オーオカ裁き”が見られたので僥倖でした。全くお変わりありませんね」

「からかうな。あんなの殺気もだしてねぇただの見せかけだ。なのにビビりやがって。ったく、嘆かわしい。うちの娘はああいった男にゃやれんな」

「本当にエチゾウさんは丸くなりましたね。性格も体も」

「余計なお世話だ。女房が出ていってからは、これでも痩せたんだ……」

「単なる友人とのちょっと長めの旅行じゃないですか。そんな大袈裟な」

「娼館の女しか知らないお前に愛する妻を持つ者の気持ちが分かるか!」

「その言い方は語弊がありますね。あくまで欲求不満解消の為、ビジネスでしか女性と関係を持つ事を自分に許していないだけです」

「相変わらず馬鹿が付く程真面目だなあ。お前の顔と立場なら、その気になれば近くの女に手ぇ出せるだろう? わざわざ娼婦に金払うよりも、恋人つくったらどうだ?」

「私に部下や侍女を手籠めにしろと? これは奥さんに報告ですね。あなたが邪な考えを持っていると」

「そ、そういう意味じゃないだろ! 俺が悪かったよ……」


 ロクロウさんと、愛娘を抱っこしたオッサンが和やかに話をしている。爽やかインテリハンサムとガチムチ親バカ愛妻家の談笑……なんだか異様な光景だ。

 それにしても、二人は知り合いだったんだ。片や王宮魔法師のトップ、片や冒険者ギルドのトップ。肩書きで接点はありそうだけど、どうやら雰囲気からして二人はそういうのを抜きにした関係のようだ。ロクロウさんのプライベートかあ……気になる!

 それにしてもお二人……オレ達のこと忘れてません?


「ああ、すまねぇ。ちょいと話しこんじまった。話はロクロウから聞いている。オレがギルマスのエチゾウ・オーオカだ。見ての通り、礼儀とかはどうも苦手でな。失礼は承知で宜しくたのむ、勇者様方」


 オレがわざとらしく咳をすると二人が気づいて謝ってきた。

 そこに奈川木がおずおずと切り出す。


「あのう、お二人はどのような関係なんでしょうか?」

「そうだな、冒険者時代のパーティーメンバーだな」

「「「ええっ!?」」」


 三人揃って声を上げた。

 いやはや、ロクロウさんって元冒険者だったんだ。知らなかった。ロクロウさんはあまり自分のこと話したがらないからなあ。これはたくさん聞き出すチャンスかも?


「あれ、ロクロウ、お前話してなかったのか?」

「聞かれませんでしたし、話す意味も無いので」

「オレはロクロウさんの冒険者時代のこと興味津々だけどなあ。エチゾウさん、ロクロウさんの昔話をしてくれませんか?」

「あ、私も聞きたいです!」

「俺も聞きたい!」

「そ、そんな事より社会科見学を……!」

「よし! 俺がロクロウの冒険者時代の武勇伝を余す所無く語ってやるぜ!」


 その後はロクロウさんの過去についてとても盛り上がった。普段ニコニコ笑い顔を崩さないロクロウさんが顔を赤くしたり、照れたり、落ち込んだり、エチゾウさんを睨んだりと百面相をするのを見るのは面白かった。

 ロクロウさんが貧乏貴族の末っ子というのは聞いていたが、十一才の時に家出をしてそのまま冒険者になったのには驚いた。流石神童、凄い行動力だ。その後にエチゾウさん達と出逢い、パーティーを組んで旅をして様々な死線を乗り越えたとか。そして、その時の異名が“白麒麟”だったらしい。ぷぷぷ、中二臭い。彼方くん好みだな。

 ロクロウさんの故郷は十年前に魔力活性の影響で今は廃墟となっているらしい。その時の唯一の生き残りを養子にしているんだとか。女の子なんだとか。疑惑の目、じぃぃぃぃ。

 魔力活性というのは原因不明の魔物の局地的な大量発生のことだ。その土地の魔素量と魔法脈の周期が関係しているとかなんとか、詳しいことはまだ分かっていない。そうロクロウさんの授業で習った。

 まだまだ話を聞いていたかったが、残念ながら予定していた時間がきたので次の目的地に向かうことになった。

 結局、冒険者組合本部では少しも社会科見学らしきことをしなかった。ロクロウさんはギルドの仕組みや職員の仕事を説明したかったようだが、ほとんどが自分の過去の話になってしまったため、説明役をギルマスとはいえエチゾウさんにしたことを悔やんでいたようだ。

 次は王室御用達の武具工房をお邪魔する予定だ。オレたちの鎧や武器を作るために採寸を取っておきたいのだとか。

 さあ行かふ、と張り切ってギルドをでたら、キリリアさんと馬車がスタンバっていました。本当に運転手役だけのようです。色々とお話ししたいのになあ……。趣味とか、好きなものとか、好みの男性のタイプとか、スリーサイズとか。


「私の顔に何かついていますか?」

「あ、すいません。ちょっと見惚れてました」

「そうですか」


 キリリアさんのことを考えていたら、無意識にじっと見ていたようだ。咄嗟に、自分でも恥ずかしいと思う言い訳をしちまった……。オレはひどく赤面した。でもキリリアさんの無表情は変わらない。あの、もう少し照れるとか反応があっても……。そんなにオレの魅力値低いですかねえ……?

 ちょっと、チュウマ隊長さん!? なんでオレを憐れみの目で見てるんですか? やめて! 肩を組まないで! 同情しないで! 涙がでちゃう!



「初代リヴィア国王、リヴィア・サネンヴィーの好きな動物は、オダケン様?」

「……アルパカ?」

「蛇です」


 半ば八つ当たりのようにロクロウさんから超難問を出され、着々とペナルティを増やしながらも工房に到着。ここまで長かったぜ……グフ。

 キリリアさんはオレ達を降ろすとすぐに行ってしまった。仕事熱心……。

 ふう、とにかく気をとり直して工房見学だ。偏見だけど、工房はギルドと違って暑苦しいオッサンしかいなさそう。まあ、楽しみだけど。オレは剣を打つところを見てみたいなあ。

 オレ達は工房へと入っていった。中には武器や防具が整然と並んでいる。どうやらここは売り場のようだ。お、この剣中々の業物ですねえ。ジャンキーさんが目をキラキラと輝かせ、ヨダレを垂らしている。苦労人さん、出番ですよ!


「この工房は魔王戦争の英雄であり初代国王リヴィア・サネンヴィーの刀“界刀蘭魔尾龍”を打った刀匠、カッターナ・ツクリテーナ氏が開いたものなのです。その技法は現在まで受け継がれており、現工房主のガンコウ・ヤージ氏が唯一の継承者です」


 へえ~。要するに、初代国王さんがお気に入りだった歴史があって剣を打つのが凄い上手ってことね。

 そんなことよりも、オレはカウンターにいる美少女が気になるのだが。


「あの、ようこそいらっしゃいませ、勇者様方。ガンコウ・ヤージの孫、タタラ・ヤージが皆様を御案内させていただきます。ガンコウは只今作業場で待機しております」


 苦労人さんがジャンキーさんを羽交い締めにしてるのを尻目に工房の奥、作業場へとタタラさんの案内でオレ達は向かった。

 ドタドタと慌てた様子で奥から人が走ってきた。何事だろう?


「大変だ、タタラちゃん! 親方が自分が出しっぱなしにしていたハンマーに足の小指ぶつけて、今日はもう仕事しないって言い出した!」

「またなの、あのガンコジジイ!? もう勇者様方来ちゃったよ!」


 なんかとんでもない会話が聞こえてくるのだが……。大丈夫かな、この工房。


「ガンコウ・ヤージ氏は昔ながらの職人気質な方で、気に入らない事があるとすぐに臍を曲げて仕事を放り出すのです。腕は確かなのでこの癖さえなければ、国が援助しなくてもやっていけるのですが……」


 国が注文しないと潰れちゃうから御用達なんだ……。文化保護の目的でもあるんだね。

 おや、奥の作業場の方から口論が聞こえてきたぞ。


「ちょっと、おじいちゃん! 仕事しないってどういう事よ!」

「どうもこうもなか。気分がのらないけん、良い仕事も出来せん。じゃけん仕事せん」

「もう勇者様方来てんのよ! そんな事言ってる場合じゃないの!」

「ほんなごとやかましい孫娘ばい。そげん性格のせいで、男が寄り付かないんじゃなかと? はぁ、結婚も遠いばい」

「余計なお世話よ! いいもん、コーくんがウチのこともらってくれるもん!」

「タ、タタラちゃん!?」

「コークス、貴様ぁぁぁぁああああ!!  ワシはおまえらを認めてなか!!」

「お、親方ぁ!? 落ち着いてください!」

「何よ! 言ってる事無茶苦茶じゃない! 結婚して欲しいのか、欲しくないのかどっちよ! もうボケ始めたの!?」

「お願いだから、タタラちゃんも不必要に親方を煽らないで!」


 うわあ、なんか凄いカオスな事になってる……。オレ帰って良いかな?

 ガンコウさんが刃物を振り回し始めたので、護衛の人達が即座に無力化に向かった。しかしガンコウさんもかなりの武人なようでジャンキーさんが昂ってしまい、混乱に混乱を極めたその状況を収めるのに一時間近くかかった。オレ達客だよね、何この待遇?

 ガンコウさんのご乱心のため、さっさと採寸だけして次に行くことになった。もう、予定が狂いまくりだ。ロクロウさんの笑顔も若干やつれている。


「お騒がせして申し訳なか。勇者様方の鎧はワシが責任を持って仕上げるけん、安心して良か」

「その事なんですが、まだ彼らは戦闘訓練を始めておりませんので、鍛練用の丈夫で軽めの物を作っていただきたいのですが」

「ばってん断るばい。ワシは勇者様らを見ておったらインスピレーションが湧いてきたけん、今は創作意欲に溢れとるばい。じゃけん最高の逸品を仕上げるつもりばい」

「いや、ですから戦闘スタイルも決めないうちから鎧を作るのは時期尚早なのですよ」

「そんなもん後から調整すれば良か」

「いや、ですから……」


 ロクロウさんは渋っていた。ガンコウさんの言うことも一理ある。だが、それにロクロウさんが素直に頷けない理由を、オレはなんとなくだが察していた。

 ガンコウさんが作りたがっているものはおそらく一点物だろう。替えはきかないので、細かい調整をする際には迅速な対応が必要不可欠だ。だが、ガンコウさんは昔ながらの職人気質。その日の気分と仕事が直結している。つまり、ロクロウさんは今すぐ仕事をして欲しい時にガンコウさんが仕事をしてくれない事を危惧しているのだ。


「あの……親方は本当に頑固なので、言う事聞いてくれないと思いますよ……」

「……そうですか……」


 弟子のたしか……コークスさんだったっけ? がそっとロクロウさんに耳打ちしていた。

 ロクロウさんは深く深くため息を吐いた。


「お主らには迷惑をかけたばい。お詫びといっちゃなんだが、昼餉食っていくと良か」

「いや、この後も予定が……」

「すいません。親方は頑固なんです。本当にごめんなさい」


 結局、タタラさんの手料理をご馳走してもらうことになった。キリリアさんや護衛の人達とも一緒になって食べた。なにげにこの世界に来て初めて食べる家庭料理だ。なんだか、ほっとする美味しさだった。こりゃあ、タタラさんは良いお嫁さんになりそうだ。


 数日後、王宮に大層立派な全身鎧が届いた。魔法収納式で一瞬で着脱が可能、待機中は腕輪になるらしい。王国史上最高傑作だとか。お値段は王宮の宝物庫の一割分のお宝に匹敵したとか。

 ガンコウ・ヤージのモデルはクレヨンしんちゃんの鬼瓦築造。

 全然似ていないのは、九州弁だからと信じたい。

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