5 非リア充 チートを手に入れる の巻
カミサマ再登場。
久しぶりのゴメリーヌ。
あれ、ゴメリーヌの元ネタってなんだっけ?
何処かで聞いた覚えがあるんだよなあ。
ロクロウさんの魔法の授業、通称『マックイーン先生のゴブリンでも分かる魔法理論学講座』という全然通称になってないのが始まって数日が経ち、異世界の生活に慣れてきた今日この頃。オレは授業の合間のお昼休み、グデーンとリラックスなクマの如く力を抜いて机に突っ伏していた。たまごじゃないんです。リオじゃなくてエックスの方です。
「難しすぎだろ……! 頭がパンク寸前だ! もうおしまいだあ!」
初日は魔法の実践で彼方くんがぶっ倒れたりして楽しかったけど、二日目からはガッチガチの座学なんて聞いてないよ!
もう最初から意味ワカンナイ。ええと、この世界にある物は全て元素と魔素から構成されていて、この魔素の物体間におけるやり取り時に発生するエネルギーが魔力で、それを媒介にして起こした事象が魔法、それを体系化したのが魔術だっけ? 科学の授業かよ!
他にも魔法には対属性、つまり炎と水や光と闇といったものは、お互いに干渉しあって同時に使用が出来ないとか。でも間に他の特定の属性魔法を挟めば使用が可能で、その属性を緩衝属性と呼ぶとか。そうやって、環状に属性を繋げた魔法を全属性もしくは無属性魔法と言うのだとか。しかし、全ての属性を使わなくても全属性と呼んだりするとか。ああ、頭がオーバーヒートしそうだ。
しかもゴブリンでも分かるなんてうたっているけど、新人やベテランの魔法学者問わずに授業を見学しに来るんだよな。新人は自分の勉強の為、ベテランは自分の魔法大学での授業の参考にする為。それほど高度な内容を分かりやすくロクロウさんは教えているらしい。看板に偽り有りなのか無しなのか良く分からない。もう何も分からない。
オレは耳から煙を出しながら弱音を吐いた。本当に魔法で煙をだしている。ちょっと楽しい。
「学校のつまんねぇ授業に比べたら、こっちの方が断然面白いだろ。あとそれ魔力の無駄遣いだ」
「彼方くんは中二病だからねえ。オレは頭使うこと全般苦手なの。それに実技は得意だし。感覚派? 天才肌って言うのかな? ビヨンド・ザ・ネバーエンド様にはわからな……あうっ!」
「その名で呼ぶな」
彼方くんにデコピンされた。最近オレの扱い雑じゃない?
「はいはい、喧嘩しない。仲良くお弁当でも食べましょう」
奈川木が三人分のお弁当を取り出した。
オレ達が授業を受けているのは魔法研究棟という離れとは別の建物なのだ。そのため、授業のある日は厨房の皆さんが美味しいお弁当を用意してくれる。何で異世界に来ても学生生活続いてんだろう? まあ、こっちのは楽しいんだけどね。アハハハハ。
オレはエビフライみたいなおかずを摘まむ。うん、このエビフリャーうみゃー。
オレはお弁当を一気呵勢にたいらげた。見事完食。
「ふう、ごちそうさまでした」
「オダケン食うの速いな……」
「よく噛んで食べなきゃ、めっ! ですよ」
「はーい。んじゃ、ちょいとオレは食後の一服してきますんで」
「一服? ですか?」
「こいつの事だ。タバコな訳ない。大方昼寝か何かだろう」
「Exactry!」
オレは研究棟を出て、つい先日見つけた王宮の中でもとりわけ人のいないちいさな裏庭へ向かった。静かで花は綺麗だし、日向ぼっこにもお昼寝にも最適な独りになれる穴場なのだ。
実は授業中に大切なことに気づいたのでそれの検証をしたいのだ。お昼寝ではない。彼方くん、まだまだ甘いね!
大切なことというのは、オレはカミサマから特典もらってねえんじゃね? ってことだ。異世界転移後も、なんか色々忙しかったのでコッテリ忘れていたのだ。あの魔法適性が特典じゃないことを祈る。
という訳で四阿でごろんと横になりながら、久しぶりのステイタスオープン。ちなみに四阿の数え方は一宇、二宇です。しってた?
うんうん。順調に各パラメータが伸びている。特にAGIなんか凄い。AGI型最強説はこの世界で通用するかなあ? あれ、特典らしきスキルがない。
オレはメニューをじいっくりと読み込む。何処かに、何処かに特典に関する項目があるはずだ! ん、一ヶ所だけ点滅している欄がある。ええと、『プレゼントを受けとる』。コレだあ!
早速タッチ。でっかいウィンドウが広がった。一体どんな特典なのかしらん。てか、最初から分かるようにしといてくださいよ。メールを開封しないと意味がないなんて、ダウンロードしただけじゃダメでポケセンで配達員から受け取らないといけない『ふしぎなおくりもの』みたいじゃあないですか! オレは個体値気にしないタイプなんですー!
『久し振りだな、少年』
「あ、カミサマだ。おひさー」
なんか、カミサマとのテレビ電話みたいなのが始まった。
『もう君を生き返らせてから一週間は経っているはずだ。気づかなかったのか? 特典いらないのか?』
「ゴメリーヌ。特典いりますいります。もうそれだけが楽しみってんで家の女房と子供もまだかまだかってせっつきやがってて、はい」
『まあ、構わない。これから特典の説明を始める。特典は説明終了後にスキル欄に自動的に記載され、使用可能になるだろう』
「今すぐ使えないの?」
『きちんと説明を聞いてからだ』
「早送りボタンとかないの」
『これはライブ映像だ』
「ちぇっ、カミサマのいけずぅ!」
『特典あげないよ』
「あっしが悪ぅござんした!」
説明の前にカミサマのお説教まで追加されてしまいました。ああ、オレのお昼休みが削られていくう!
『……という訳だ。何か質問はあるか?』
「何もにゃーです」
『了解した。では、またそのうち会おう』
「ばいばーい」
カミサマの長ーい説明が終わった。また後でステイタス画面で確認出来るのでほとんど聞き流していた。
オレがもらった特典は“マジックボックス”、“アイテムボックス”、“タレントボックス”の三つ。見事に箱ばっかり。あのカミサマって実は箱神様かなんかだったりして。
“マジックボックス”は言わずと知れた、収納魔法。チート主人公の三人に一人が持っているという超便利なアレです。カミサマの説明だと、中に何でも入るみたい。嘘偽りなく何でも入るんだとか。ちなみに、今はバナナの皮が入っている。
“アイテムボックス”は使用するとランダムでアイテムが手に入るんだそうだ。つまり、マリカーのアレです。カミサマとのチュートリアルで使用したら、バナナの皮が出た。
“タレントボックス”は一番よく分からないけど、一番チート。なんでも、絶対絶命の危機に陥った時、その場合に応じた才能が開花するんだとか。つまり、これはアレだ。主人公補正だ。カミサマ曰く、危機とは言っても個人によって大きな違いがあるため発動するタイミングが分からないんだとか。具体例をあげると、自分の命が危ぶまれる危機とトイレで脱糞後紙が無いことに気づいた時の危機では、人によってどちらで発動するか個人差があるということだそうだ。
うん、チートだ。“アイテムボックス”はよく分からんけど、他のは高性能だと思う。でもさあ……なんか期待してたのと違う! “マジックボックス”はあくまで便利なものであってさ、“タレントボックス”は今使えないじゃん! もっとこう、チートで無双みたいなの期待していたのに!
うう~……。カミサマ、どうせなら魔法の世界で物理無双なチートとか、ニコポとかナデポとかくださいよう。そうじゃなくてもラッキースケベとか。ああ、トラブるに遭遇したい! 早くリア充になりたーい!
四阿でゴロゴロしてたら、もうすぐお昼休みが終わってしまうことに気づいた。ロクロウさんは魔法に関してはスパルタで、怒るととても怖い。顔はにこやかなのに目が笑ってないのだ。しかも精神的に責め立ててくるタイプなのだ。オレ、早速の絶対絶命の危機じゃね?
オレは奥歯を噛み締めて走り出した。加速装置はついていない。ええい、AGI特化の底力を見せてやんよ! うおおおおぉぉぉぉ! なってる! オレは今風になってる!
おお、研究棟が見えてきた。もう少し、あと少しで着く。オレは廊下を全力で走り、教室に飛び込んだ。
「ギリちょんセーーーーフ!」
「アウトです」
後ろには怒気を纏わせたロクロウさんがいた。ニコリと微笑まれる。おや、背後に見える不動明王は化身? 影? それともスタンド?
「廊下を走ってはいけません」
「お……お慈悲を……」
「あげません」
「や、優しく殺してね?」
「瀕死で生かします」
ほらほら“タレントボックス”、絶対絶命の危機だよ! お願い仕事して! 彼方くん、奈川木、助けて! 魔法学者の皆さんも助けて! 皆一斉に目を逸らさないで! ロクロウさんはこっちを見ないで!
もうだめだあ…………ガクガクブルブル。
オレはこの日から授業だけは真面目に受けようと決心した。
うっとこの主人公のチートはこれどす。
ピンチになればなるほど強くなるサイヤ人チート。
もう主人公が酷い目にあうこと確定。
“タレントボックス”は自分の危機感に反応するので不意討ちや即死には弱い。
ちなみにこれを極めると、仮面でライダーな太陽の子並の奇跡が起きるようになる。