3 非リア充 絆を深める の巻
今回も前回よりほんのちょっと長くなります。
正直に言えば誤差の範囲内です。
二行改行は場面変換なんですけど分かりますかね?
感想くれたらうれしいなー 壁|・_・)チラッ
さてさて、ステイタス確認後もなんやかんやありまして、夕食の時間です。なんやかんやというのは、国側との話し合いとか交渉とか。王下評議会という政務を司る人達と話し合った。なんか難しいことばかりでちんぷんかんぷんだった。オレが勇者じゃないことがどうこう言ってたけど、頭脳労働はオレの専門外なので二人とロクロウさんに任してボーっとしてた。お前の事だろ!、て田那珂にバレて怒られた。三白眼が恐かった。
ロクロウさんはオレ達のお目付け役みたいなものらしい。なんでも、あの召喚魔法陣を描いたのはロクロウさんらしく、最後まで責任をもって面倒をみたいらしい。魔王討伐にもついていきたいそうだ。ロクロウさんとても善い人。
ロクロウさんはかなり偉い地位なので、結構な無理を通したらしい。小さい頃は神童と呼ばれていて、貧乏貴族の末っ子ながらも実力で今の地位まで昇りつめたそうだ。しかもハンサムでまだ独身。さぞおモテになるのでしょうと皮肉を言ったら、「仕事が忙しく、王城の執務室に籠りっきりなので出逢いが全くありません。それに今は皆様が第一ですので色恋沙汰に現を抜かしている暇はありません」と返された。ロクロウさん物凄く善い人。
話し合いの大事なところだけ話すと、あの時田那珂が言った五つの約束についてちゃんと文書にして契約魔法をかけた。ロクロウさんがかけたのだから大丈夫だろう。
オレは二人と同じ、つまり勇者とほぼ同格として扱われるらしい。今後オレを無下にするような真似をすれば、他国に亡命でも何でもしてやるって三人が啖呵を切っていた。最初は渋い顔をしている人もいたが、オレの魔法適性がAランクというのが効いたらしい。三人というのは、ロクロウさんも含めてだ。もうロクロウさんに惚れても良いんじゃないかな?
オレ達が住むのは王宮の離れらしい。そこで魔王討伐のための戦闘訓練や魔法理論や世界情勢等をお勉強するとのことだ。魔法を教えてくれるのはもちろんロクロウさん。ただ噂によると、ロクロウさんはかなりのスパルタらしい。暇だったから抜け出して、近くにいたメイドさんとお話していたらを教えてくれた。モノホンのメイドさんはスカートも長かったし、結構地味だった。だがそれも悪くない、いやむしろグッドだ!
とまあ、なんやかんやがなんやかんやでして、夕食です。
なんでも国王さんやその家族、国の重役と一緒に食べるのだとか。もんのすごいプレッシャー。あれ、多分だけど洋食だよね。オレ、テーブルマナーとかからっきしなんだけど。
田那珂に聞くと無言で首を振った。奈川木は「和食なら大丈夫ですが、洋食はちょっと……」とのことだ。うわーん。助けてロクえもーん!
「皆様は異世界の方なので、誰もそのような事は気に致しませんよ。それでも不安で御座いましたら、私を御覧下さい」
なーんだ。じゃあ麺をすする時とか、スープを飲む時とかに音をたてても構わないんだ。
「それは……少しならば問題は……」
ロクえもん!?
あ、お食事の用意が出来ましたのでお席に御案内します、だって? ようし、こうなったら日本式食事作法を見せてやらー!
後で聞いた話だが奈川木曰く、日本でも音をたてて食べるのはあまりよろしくないとのことらしい。先に言ってちょ……。
ごちそうさまでした。いやあ、美味しかった。
オレは離れにある私室のベッドに大の字になる。
え? 食事の描写? ないよ。普通にオレは定食屋でメシ食う時と同じ感じだったよ。ガタイの良いオッサンに「若ぇの、良い食いっぷりだな!」ってガハガハ笑いながら誉められた。そんなオッサンは王国騎士軍団の棟梁らしい。それと王妃と王女は美人、王子はイケメンだった。国王さんの遺伝子が全く仕事していなかった。
食事に関しては思っていたのと違かった。保存魔法というのがあるから、チーズとか味噌とかハムとか梅干しみたいな保存食はあまり普及していないみたいだ。そのせいか料理も、素材の新鮮さを生かして食材本来の味を引き立たせ、さらにスパイス等で風味や刺激を加えたものが多かった。熟成された旨味が恋しくなりそう。
この部屋も一流ホテルのスイートルームとまではいかないが、中々に広々としていて豪華だ。なんか自分には罰当たりな気がして落ち着かない。少し眠ろうかな?
スヤスヤスヤ…………なんか花の良い香りがする。スヤスヤスヤ…………明日の朝食って何時だっけ? スヤスヤスヤ…………眠れん。布団がフカフカ過ぎる!
貧乏症を呪いながら、オレは近くの水差しでコップに水を注ぎくいっと一息に煽る。
水差しの中の水は直ぐに元通りになった。
……寂しい。
いや、今のなし! なし! 何も言ってないヨ! 異世界生活一日目からホームシックとか洒落にならないから!
でも、あの充実してなかった退屈な毎日がもう二度と戻ってこないと思うと、少しだけ、ほんの少しだけ、ほんの米粒大だけ惜しい気もする。
あ~あ。暇だし田那珂の部屋にでも遊びに行こうかな。クッションは沢山あるから枕投げも出来るし。見回りの先生も来ないし。
コンコンコン。たーなーかくーん、あーそーぼー! たしか『二回ノックはトイレ』って何処かで聞いた覚えがある。
「どうした、オダケン?」
ガチャリと高価そうな扉を開けて、田那珂が顔を出した。
オレは即座に枕を構える。
「枕投げしよ!」
「修学旅行で興奮した小学生かよ。寝ろよ」
「目が冴えちゃた。田那珂は何してたの? えっちぃテレビでも観ようとしてたの?」
「中学生かよ。大概そういうのは失敗するもんだろ」
「なに? もしかして経験が……あ、睨まないでくださいよ。涙がちょちょぎれるじゃないですかあ」
「……まあ、入れ」
「おじゃましゃーす」
田那珂の部屋もオレのと間取りは大体同じのようだ。でも匂いが違う。
オレは近くのソファーにボスンとダイブする。
「さて、どうする? 早速枕投げでもする? それとも少しお話する?」
「枕投げは確定かよ。てか、他人の部屋で寛ぎすぎだ。少しは遠慮しろ」
「オレだって時と場所は選んでるよ」
「さっきの夕食、お前おかわりし過ぎだ。こっちまで恥ずかしかったぞ!」
「いやあ、だって美味しかったからさ~。国王さんもたくさん食べて良いって言ってたし。なら甘えちゃうしかないよねえ?」
「ほんっとにお前は……」
「アハハハハー」
田那珂は額に手をあててため息をつく。
オレは苦笑いでそれを見ていた。
「そういえば田那珂ってさ、オレが思ってたのと全然違うよね?」
「彼方でいい。そう聞かれても、お前がどう思っていたかなんて俺には分からん」
「那珂ちゃんは?」
「許さん」
「カワイイと思うのに……じゃあ彼方くん。彼方くんは全然不良っぽくないよねってこと。なんで?」
「言いたくない」
「家庭内とかに複雑な事情でもあるの?」
「そうじゃないけど……。言ったら絶対笑うから。だから言いたくない」
「笑わないよ」
「ニヤニヤしながら言われても説得力は皆無だ」
「そこをなんとか!」
オレが両手を合わせて上目遣いでお願いしていると、コンコンコンと控えめなノックが響いた。
『あの、彼方くん。私だけど、少しだけ良いかな?』
「奈川木だね」
「ああ、そうみたいだな。ちょっと待ってろ」
彼方くんが扉を開け、奈川木が静静と入って来た。
「あれ、オダケンくんもいたのですか?」
「うん。どうやらオレはお邪魔のようだけど居座らせてもらうよ。場合によっちゃ、事の顛末まで見せてもらうよ」
「アホか」
彼方くんがオレにデコピンしてきた。痛い。
「お二人は何をしてたのですか?」
「枕投げの前にちょっと話をね。彼方くんが不良になった契機について洗いざらい吐いてもらおうと思ってんだが、こいつぁ口が堅いのなんのってんで中々白状しちゃあくれねぇってんですよ」
「それは私も知りたいです。彼方くん……良ければ私にも教えてくれませんか? 彼方くんに何があったのか」
奈川木が真剣な眼差しで彼方くんを見つめている。オレも一緒になってじいっと見つめる。あれれ、なんだかオレと奈川木のノリが違くない?
「分かったよ! でも絶対笑うなよ!」
「絶対に笑いません」
「まあ、善処はするよ」
あうっ。またデコピンされた。痛いよ!
素知らぬ顔で彼方くんは訥訥と語り出す。
「その……俺は昔、中二病だったんだ。しかも、かなり重度の邪気眼系でさ。それで、その時の俺はめっちゃ意気がっていて、先輩に目をつけられたんだよ。でも俺、じいちゃんの影響で古武術やっててさ、返り討ちにしちまったんだよ。それで俺は更に調子に乗って、また先輩や同級生に目をつけられて喧嘩しての繰り返しでさ。気づいたら学校で番張ってた。それからは他校の奴等と喧嘩して、名が売れちまった。高校に入って変わろうと思ったけど、やっぱ駄目でさ。せめて他人に迷惑掛けないように、こういう格好して独りになってたんだ」
なるほどね。中身は普通のオタクなんだ。だからラノベとか読んでたんだ。最後の発言から察するに、まだ中二病は完治していないみたいだ。期待してたのに全然笑えなかった。
奈川木を見ると、少し気まずそうにしていた。
「ごめんなさい。話の後半は分かったのですが、『チュウニビョウ』と『ジャキガンケイ』というのが分からなくて」
「中二病というのは思春期特有の恥ずかしい言動をとってしまうこと。邪気眼系はその中でも特に恥ずかしくて、漫画やアニメや自作のキャラクターの喋り方や格好を真似してしまうこと、で合ってるよね、彼方くん?」
「俺に聞くなよ!」
彼方くんは顔を真っ赤にしてうつ向いてしまっている。今にも火が出そうだ。
「俺は黒歴史話したんだから、お前らも話せよな!」
「そーいや、奈川木は何か彼方くんに用でもあったの?」
「その……聞きたい事があって」
「へえー。なになに?」
「おい! 無視するな!」
「私、この世界の皆さんの言っている事が分からないんです!」
「「はい?」」
奈川木は深刻な顔で話し出した。
「召喚とか、勇者とか、魔王とか、異世界とか、ステイタスとか、スキルとか、全然分かんないんです。一見中世や近世ヨーロッパの文化に見えても何処か違いますし。科学は未発達なのに上下水道が整っていたりと生活水準が高いですし。魔法と言われてもよく分かりませんし。そもそも魔法なんておかしいじゃないですか! 言葉は悪いですが、この世界が歪んでいるように感じてしまうんです。それでもお二人は理解出来ている様子ですし。私はやっぱり非常識なんでしょうか!? おかしいのは私の方なんでしょうか!?」
奈川木は今にも泣きそうだった。
確かに、オレと彼方くんみたいに事前知識のようなものがあればまだしも、奈川木は普通の趣味嗜好で、サブカルチャーには疎いのだから戸惑うのも無理はない。オレ達はやはり少数派なんだ。
むしろ、今の今まで何も分からないのに気丈に振る舞っていた奈川木は強いと思う。
オレと彼方くんは、どうにか奈川木にも伝わるように説明して慰めた。その後は彼方くんの提案でプチ秘密暴露大会になった。抵抗は無かった。
もしかしたら、皆はいきなり異世界に来て、しかもいつ元の世界に帰れるのか分からない状況で不安だったのかもしれない。もっと本音を言いたかったのかもしれない。
オレが寂しかったのも、オレをよく知る人がいなかったからなのかも。例えば家族とか。
この一夜で、オレ達はお互いに大事な友達になれた気がした。
今回のラストは少ししんみりさせちゃいましたね。
まあ、シリアス回の時は警告タグさんにお仕事をしてもらう予定です。
目指すはデモナータです。
ツンツンヘアーです。
白髪紅眼悪女です。
うわあ、ハードル上げ過ぎた。