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はじまり

 真夜中の住宅街、部屋の明かりはなく、街灯が光っている。大体の人が夢の中にいる時間帯。

 月明かりしかない狭い路地裏で殺しが行われていた。そこにあるのは引き裂かれた四肢に散らかっている内臓、とそれを満足そうな笑みで見つめている17歳くらいの少女。

 目付きが悪い以外は整っている顔、ストレートの腰ぐらいの黒髪に、フリルの入った黒のスカート、秋だというのに足を大胆に見せている。VネックのTシャツに革ジャンを羽織っている。全身を黒で固めてオシャレだ。だが、返り血が異常に付いている。当然だ、彼女がこんな悲惨なことにしたのだから。

「終わったぞ、ジーラ」

 そう彼女は表情を変えず呟く。だが、誰も来ない。すると急に彼女の顔に笑みが消え、

「また、バラバラにしたの。依頼の内容が見せしめだからって、こんなにすることないでしょ。パラ」

 困ったような声で言う。さっきの声とは少し違う。こちらの方が澄んでいる。

「だって楽しいだろ。それにこれの依頼の報酬は条件盛り盛りの七千万だぞ。相当ヤバイことしたんだな、こいつ。そういうやつはこれぐらいがいいって」

 最初の声と同じだ。表情がまた変わった。返答にあった表情になる。

「まぁ、いいんだけれど」

 澄んだ声の持ち主がため息をつく。

「俺たちは人を殺してもいいんだ、依頼さえ受けてればな。本当に殺し屋って俺らの天職だよな。お前だってこれよりヤバイこと笑いながらやってたことあっただろ」

 そうね、と少し微笑みながらジーラが答える。

「まぁ、楽しいのは否定しないわ。『死神』を見せたときの警察の顔。何回も私、同じ警察署に行ってるのよ、なんで覚えないのかしらね」

 首をかしげる。

「知らねーよ、ただの鳥頭なだけだろ。帰るぞ」

 馬鹿にしたように鼻を鳴らす。死体を背に、暗い路地裏からいくらか明るい歩道に出る。真夜中だというのに、昼間のような輝きを見せる高層ビルの建ち並ぶ街を目指して歩く。

「でも、苦労はするんだから。この前の覚えてる? 違う国に行ったとき」

 あくびをしながらジーラが、否パラが答える。

「いつのだ」

「珍しく飛行機に乗ったときのよ」

 あぁ、と小さく答える。

「まぁ、パラは寝てたから知らないかもしれないけれど。あのあと警察に捕まったのよ、何喋ってるのか全く分からなくて『死神』を見せても反応なしで、知らなかったみたいだったの。このご時世に『死神』知らないなんて、信じられる? おかしいとしか言えないわ」

 首をかしげながら聞く。

「あそこは珍しく治安が良かったろ、この国特別の『死神』なんて最近、世界に知れ始めたんだ。それを考えるとしょうがないんじゃないか? だから依頼の奴は逃げたんだろ、裁きでも俺たちに下して欲しかったんじゃねえの。で、そのあとどうしたんだよ」

 あくびをまたする。

「どうもしないわよ、普通に逃げてきたわ。本当は一発くらい殴りたかったけれど」

 ちっ、と舌打ちした。

「ふーん。俺、疲れたから寝るぞ」

 興味なさそうにパラは言った。そして思い出したように、続ける。

「そうだ、もうそろそろ、そのスカート捨てろよ。汚いだろ」

「……ええ……分かったわ」

 少し悲しそうに言う。

「どんなに気に入ってても捨てろ、また同じようなの買えばいいだろ。もう俺はそれを着るのは嫌だからな。じゃあ、おやすみ」

 言いたいことだけを言って消えたパラに、ジーラは舌打ちをした。

 ジーラは、歩道をゆっくりと、下を向きながら歩き、隣を走りさる車をちらちらと見ている。車に乗りたいわ、疲れた。と呟きながら、前を見るが一番きらびやかで高いビルには、まだまだ、着きそうにはない。ため息をつき、また下を向く。

 毎回、本部のバッド・ハイド社を見ると、眩しすぎる、と思う。あの辺一帯のビルは全て、本部のものであり、殺し屋達と、その他従業員達の寝床となっている。一応、一般人のホテルの役割をしているところもあり、カジノもある。カジノの利用客は増える一方だが、ホテルの方の客は、まったく増えない。最高のおもてなしをうけられるが、少し外を出れば、殺人者に出くわすことが怖くて、カジノ中毒者か、よっぽどのモノ好きでなければ、泊まることはない。噂では犯罪者を社長が匿うためにホテルを作った、らしいが社長をよく知るジーラとしては、それは絶対にないわねと、鼻で笑っている。

 本部に帰ると受付に座っている人を欠伸しながら見た。見たことがない女ね、と思うと名札を見た、案の定、新人だ。

 殺し屋はほとんど、と言っていいほど殺気立っている。殺しが好きなやつが多いからだ。

 パラは殺気立っていない方に入る、殺しは好きだが。

「ねぇ、1506号室の鍵」

 そっと右手を出す。

「は、はい。ただいま」

 緊張して笑顔がひきつっている。これは笑顔かしら? と心の中で嘲笑して、鍵をありがとう、と取る。受付はいつも笑顔で何に対しても怯えてはいけないという、規則が本部にはある。女好きな社長が勝手に考えた意味のない規則だが。

 二人の部屋はいつも散らかっている。片付けができないという訳ではないのだが、忙しいのだ。朝は寝ていて、夜中に仕事をこなす、昼のときもあるが、それでもだ。

「相変わらず、きったないわね、明日にでも家政婦に来てもらいましょう」

 寂しく呟く。

 いつもなら、このまま風呂を沸かすのだが部屋に入った途端、激しい眠気に襲われ、あくびを連発した、のでベッドに直行した。

 パジャマにも着替えず、血のついた服のまま、五分もしないうちに寝息をたてていた。



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