くじたろうとバス運転手
2009年2月1日。長崎バスの運転席に、一人の男がいた。男の名は川里俊生。去年の10月に長崎バスに入社した。主に田上から神の島を結ぶ路線を担当している。
2109年1月31日。海の都小学校は土曜日で休みだ。朝早くからゴジラくんが遊びに来た。と言っても発明品を自慢しに来たのだろうが。
ゴジラくんは大きめの目覚まし時計を2つ出した。
く「これは何?」
ゴ「何に見える?」
く「目覚まし時計」
ゴ「残念、これ小型タイムマシン」
悪い予感がする。
川里のバスは宝町に着いた。きょうは曇っている。ここから多くの高校生が乗って来るのだが、みんな黙っている。長崎南高校の生徒たちだ。
僕はマシンを操作していない。操作したのはゴジラくんだ。
く「また誤作動?」
ゴ「またとは何だ!」
ゴジラくんによると、どうやら世界移動が起こったらしい。2人とも無事だが、タイムマシンが壊れてしまった。
バスは南高裏門前に着いた。生徒たちは黙って降りている。マナーがいいとも言えるが、川里にはそれが異常に見えた。
ところで、ここはどこだろう。道行く人がノーリアクションということは、去年の夏に旅行に行ったところだろうか?
なんて考えていると柱にぶつかった。僕らが読めない漢字が書かれていた。
く「みなみ・・・うら・・・」
ゴ「もん・・・」
川里が田上に着いたときだった。いきなりバスの屋根で小さな爆発が起き、パラシュート付きの紙が落ちてきた。
川「犯行予告 破壊して変えろ 60 神の下 東京 大阪 ヒント:鍵の半分は3」
僕らがしばらく坂道を登っていると、バスがあった。
く「お邪魔しまーす」
中に入ると、男が何か読んでいた。
く「どうしました?」
川「わああああ!」
そこまで驚かなくても・・・。
9時24分。川里にとって見覚えのある奴が来た。
(いや、それより今はこれをどうするかだ。多分イタズラだろうが、あいつがいると何かありそうな気がする。いっそ話しかけてみるか)
川「犯行予告」
く「えっ?」
僕は初めてこの人と会話した。どうやら犯行予告があったらしい。ゴジラくんはずっと外でタイムマシンをいじっている。
く「数字の前の破壊しろって?」
川「破壊・・・壊す・・・壊す・・・割る?」
く「割り算ってこと?」
川「ヒントの半分が3なら・・・60÷3=20、言い換えると、3×20=60」
川里にひとつの記憶が蘇った。川里が小学3年生のとき、ニュースであった・・・。
川「有毒ガスじゃない?」
く「えっ何で?」
川「3月20日・・・地下鉄サリン事件があった日だ」
く「ほほう、じゃあ爆弾はどこ?」
川里はしばらく考えてひらめいた。
川「お客様は神様です・・・」
く「は?」
川「大阪に伝わる経営理念だけど・・・神の下・・・あっ!」
そう言うなり川里がイスの下を調べ始めた。
川「あった!あったぞ!」
く「犯人は近くの高校に通っている学生だった。宝町の歩道橋から改造した花火を落としてバスに乗り、イスの下に不審物を仕掛けた。あの人の推理はひとつ間違っていた。仕掛けられたものは、ただの筆箱。みんな黙っているのに耐えられずにやったらしい。」
ああ、ナレーションって疲れる・・・。
川里は普段の仕事に戻った。あの事件は誰にも話していない。きょうも南高の生徒たちは黙っている。




