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川里俊生シリーズ  作者: 川里隼生


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くじたろうと新聞記者後編

2008年8月25日午前11時31分。長崎駅。川里は特別驚かなかった。駅の0番ホームでああいう物を見るのは8年前から川里の常識になっている。この世の物かどうかの確認方法も知っている。カメラのシャッターを押せばいい。列車と客は写らなかった。


正午。誰にも見られないはずなのに、写真は撮られた。あれか?あの人はマニアって奴か?


午後12時29分。川里は会社に戻り、内閣支持率調査の記事を書いた。嘘偽り無く書いた。上司の罠があるとも知らずに。

「綾鷹ってなに?」

「はい?選択肢にあったのでそのままアンケートを実施したのですが?」

「誰のイタズラだ?こんなのボツ!」

大変なことになった。他にはあの列車と客しか書くネタがない。川里は藁にもすがる思いで記事を書いた。写真は使わなかった。


午後12時51分。文教町の西浦上中学校に来てみた。つまらない。サッカーボールだけおみやげにもらって科学館にでも行くか。


午後1時2分。記事を編集部に回し、川里は早退した。あんな記事は載らない確率の方が高いだろう。帰り際に上司から白紙の辞表を渡された。どこまでも嫌な奴だ。


午後8時26分。長崎駅の0番ホームに登りのクジーザー270が来た。疲れた。寝た。起きた。元の世界の二日市駅を過ぎていた。満天の星空とは口が裂けても言えない雨だった。


2008年8月26日朝。川里のアパートに新聞が届けられた。1面の記事は市内の中学校からサッカーボールが盗まれた事件のことだった。もっと伝えるべきことがありそうなものなのに。しかし、考えてみれば川里のようなひねくれた者は新聞記者に向いていないのかもしれない。昨日渡された紙に必要事項を明記して長崎新聞社へ送った。


2108年9月1日。今日から2学期だ。昨日は宿題で大変だった。学校でみんなに見せびらかすためだけにサッカーボールも持って行った。すがすがしい秋晴れだ。


2008年9月7日。川里が無職になって13日目。川里は中央橋にいた。家賃を払えなかったので、今朝アパートを追い出された。龍踊りの練習をしている人が川里を追い越して行った。その後ろを中日みたいなドラゴンがついて行っているのが川里には見えた。しばらく立ち直れないだろうが、川里は希望を失わないだろう。今も右手はタウンワークをしっかりと持っているのだから。

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