川里紀行2
2011年6月19日午前7時。川里が起きると、枕元に小学生の漢字練習帳(値札付き店のテープ無し)の1ページが破いて置かれていた。「きづけ くじたろう」と書かれていた。そういえば川里は半年ほどくじたろうと会っていない。最後に見た時はいつもと雰囲気が違うと思った。
川里がリビングのドアを開けると、出した覚えのないコップふたつに牛乳がつがれている。しかもコップが一人でに浮かび、傾いたと思うと牛乳が消えた。どうやらここにいるようだ。さっきの紙とシャーペンを机に置いてみる。案の定ペンは持ち上がり、紙に下手な文字を書いていく。
「こんにちは」
川「久しぶりだな」
「いいや これが9回目」
川「え?」
「今までに6月19日が9回連続できた」
川「そうは思えない」
「覚えてないだけ」
川「どうする?」
「大船渡の人を助ける」
川「・・・危なくない?」
「あぶない」
川「・・・」
午前9時29分。長崎空港。想像していたが、やっぱり後ろに紙が浮いていると周りの視線が気になる。
川「助ければいいんだな?」
「がんばれ」
川「そろそろ姿を見せたらどうだ?」
「目の前にいるけど」
川「いるんだな?」
「ゴジラくんもいる」
川「そうか」
考えたくなかったが、川里の予想は当たったらしい。普通の人間に戻った。10年間の苦しみから解放された。悲しくなった。矛盾しているが、川里の本音だ。ベストアメニティスタジアムで彼らを探したのも、会いたかったからだったのかもしれない。恐らく6月19日が最後なのだ。終わらせたくない。でも迷惑はかけたくない。どっちをとるか、関西空港に到着するまで決められなかった。仙台空港では迷い無く災害時緊急マニュアルという本を買った。
川「さよなら、ありがとう」
以上で「川里俊生シリーズ」完結となります。ありがとうございました。




