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川里俊生シリーズ  作者: 川里隼生


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11/15

川里と石川皇介

2011年1月1日午前0時。新年の沖縄沖。何もない大海原に一隻の木でできた小舟が浮かんでいる。


3月24日午前9時4分。長崎新地ターミナル。先輩にバスの運転を代わってもらい、川里が降りた。やっと休憩時間だ。売店でサンドイッチを買った。


午前9時21分。20分もしないうちに次のバスが来た。今日は川里にとって初めての女の都団地行きを運転する。新年度の持ち場移動を考えての練習だ。


午前9時35分。長崎駅前。ここまでは順調に来ている。しかし、そう簡単な人生を生きる川里ではない。駐車場から軍服姿の老人が飛び出たと思うとバスめがけて突進し、軍刀を抜いた。男が叫ぶ。

男「車を走らせろ!やい!栗田中将のもとに連れて行け!」

川「落ち着いてください!これは女の都団地行きです!」

男「やかましい!ここはどこだ!」

川「長崎駅です!」

男「なんだと?」


午前9時38分。川里が男を奇跡的に落ち着かせることに成功し、キンタイに連絡した。キンタイとはもちろん長崎自動車緊急事件・事故特別対策係の略である。


午前10時11分。バスはキンタイが押収し、新地から新しく発車することになった。川里は場所を移動して男から事情を聞いた。それは到底信じられないものだった。


昭和元年1月1日。東京・中央区で石川皇助いしかわこうすけが産まれた。名前の由来は第一次世界大戦が終わり、軍国主義を善とする日本社会において天皇陛下の手助けになるように、とつけられたらしい。


昭和20年1月1日。石川は20歳になった。ここまでなんとか運で乗り切った石川にも、父や兄と同じ日本海軍充員召集令状、いわゆる赤紙が届いた。もともと忠誠心があった石川は二度と生きては帰らぬ覚悟を決めた。


1月4日。石川など40人ほどの若者が海軍の大本営に集められた。そこで石川は栗田中将のフィリピン防衛大隊配属となった。


1月5日。ろくな訓練もなしに戦地へ向かう船に乗せられた。訓練は「自主的に」船上で行った。背後で栗田中将が軍刀を持っていたが。


1月12日。敵に見つからないよう用心してフィリピンの土を踏んだ。石川は忠誠心はあったが体力に乏しかったので、山中で島内の情報交換役に任命された。上官からは「いざというときに使え」と手榴弾を手渡された。捕虜にはなるな、潔く散れということだろう。


8月13日。昨日の提示連絡以降、伝令が来なくなった。任務解除命令は出ていなかったので、石川は山に居続けた。このときから石川の長い山籠りが始まった。石川は何年も待った。何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も、何年も。




























どれほどの年月が経っただろうか。石川はひとつの大きな決断をした。

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