表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

短編小説

タイムカプセル

作者: うわの空

 幼馴染の達也が交通事故で死んだ時、私は上手く泣けなかった。

 その事実を全身で拒絶しようとした。泣いてしまったら、その事実を認めてしまうような気がしていた。


 達也とは、幼稚園に通う前からよく遊んでいた。とにかく仲が良かった。

 中学に入った頃から、付き合いだした。どちらからともなく、気付いたらそういう関係になってた。


 そんな彼が死んだのは、去年。19歳だった。

 私はもう20歳になった。だけど彼は、19歳のままなのだ。永遠に。



 小学校の同級生から電話がかかってきたのは、達也が死んでから半年以上経ったころだった。

 その頃の私は何かがすっぽり抜け落ちていて、ただ食べて動くだけの生き物のようになっていた。


「ねえ、覚えてる?小3の時に学年全員でさ、タイムカプセル埋めたじゃん。…達也君も」

 後半を少し言いにくそうに、同級生は言った。私はと言うと、タイムカプセルのことなんてすっかり忘れていた。何も言わない私に、同級生はおずおずと続ける。

「あれ、明日掘り起こすんだ。さやちゃんも、来るよね?」

「…。」

 正直、行きたくなかった。だけど、達也が一体何を埋めていたのか、気になった。

「分かった。行くよ」

 私は無表情でそう言うと、電話を切った。



 翌日、タイムカプセルはあっさりと見つかった。校庭の桜の木の下に埋めたということを、覚えている人がいたおかげだ。すっかり錆びてしまったおせんべいの缶が、土の中から出てきた。

 中を開けると、ほとんどが皆の作文だった。それぞれ、自分の名前を書いた封筒に入れている。

「さや。これ、さやの。…あと、達也君のも、さやに渡すね」

 同級生が、私の名前と達也の名前が書いてある封筒を渡してくれた。

 私はぎこちない笑顔でお礼を言うと、そのまま家に持ち帰った。



 家に帰ると、まずは自分の封筒を開封した。作文は「将来の自分」というタイトルで書かれていた。

『これを掘りおこす時は、私は20才になってるんだよね。元気かなぁ?』

「…あんまり元気じゃないよ」

 私は手紙を読みながら、ひとりごちた。

 

『将来はお花屋さんになりたいな』なんて書かれている作文を読み終わると、私はしばらく逡巡してから、達也の封筒を手に取った。

 開封すると、私の膝の上に、アルミホイルで出来た輪っかが落ちてきた。

「?」

 とりあえずアルミホイルは放置して、作文を広げる。達也の作文のタイトルも、「将来の自分」だった。もしかしたら、タイトルはこれで統一されていたのかもしれない。

 私は、無表情で、そして無言で、達也の作文を読み始めた。



『おれが今一番気にしている事は、おさななじみのさやのことです。

 さやは、とっても泣き虫です。誰かにちょっといじわるされただけでも、すぐに泣きます。

 だけどおれは、さやの笑ってる顔を見るのが大好きです。

 だからおれは、さやの笑顔をつくれるような大人になりたいと思います。

 将来、おれがいない時でも、さやがいつも笑ってたらいいなと思います。』


 ぽと。

 

 達也の作文に、透明な何かが落ちて、シミを作った。


「…ずるいよ。笑顔を作るって言ってる癖に、泣かすなんてさ」

 私は作文に向かって話しかけた。だけど返事はない。


 彼は死んだのだと言う事を、急激に理解した。

 

 私は達也の作文を握りしめて、声をあげて泣いた。泣き続けた。

 抑え込んでいた半年分の感情が、一気に噴出したみたいだった。

 私は達也の名前を呼び続けた。もうここにはいない、彼の名前を。



『おれがいない時でも、さやがいつも笑ってたらいいなと思います』


 後追いなんて考えは捨てよう。彼がいない世界でも、笑って生きていこう。

 それがきっと、今の私達にとって一番いい「将来」だ。



『ついしん。このタイムカプセルを掘りおこした時に、

 おれはさやにプロポーズしようと思ってます。

 だから、自分で作ったけっこん指輪を、いっしょに入れておきます。』

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 纏まっていて、とても読みやすいと思いました。 [気になる点] もう少し展開があればもっと良かったと思います。
2011/05/27 04:29 退会済み
管理
[良い点] 纏まっていて、とても読みやすいお話だと思いました。 [気になる点] もう少し展開があればもっと良かったと思います。
2011/05/27 04:28 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ