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夜はまだ明けない  作者: 藤丸
本編
3/4

そうして夜は明けた 前編

 久しぶりに会って話がしたい。

 そんなメールが届いたのは麗らかなとある日の放課後のことだった。メールの送り主は晃で受け取ったのは真太郎だった。真太郎は少し考えてから行くことに決めた。

「あれ、真太郎。出かけるの?」

「うん、ちょっと中学時代の同級生が会って話したいって言ってて」

 真太郎の言葉に納得したのか穂彦は「気を付けて、行ってらっしゃい」と言って手を振った。



「それで? どうしたの、今更会って話したいなんて」

 真太郎と晃は学校近くにある喫茶店のテーブル席で向かい合って座っていた。

「うん、まぁちょっと……最近さ夜噛連の奴らが近くを徘徊してるんだけど心当たりってある?」

 『夜噛連』というのは中学時代に晃と真太郎が所属していた組織の名前である。

 まぁ、僕は中二の時に穂彦と会って色々あって抜けた。晃は結局、中三まで所属してリーダーにまで上り詰めて抜けたというのは不良の間では有名な話だった。

「僕は心当たりがないけど、君には何かあるの?」

「あるというか、大有り…」

 ははは…と苦笑いする晃は続けて「鵜沼って憶えてる?」と言った。

 鵜沼連次、僕たちの二つ下の後輩で晃の圧倒的な力に陶酔していた人間だったはずだ。晃本人に鵜沼に陶酔されていた自覚があったかは別としてあの二人をなんだかんだで近くで見ていた僕はそう記憶している。

「何となくは」

「最近夜噛連のリーダーが鵜沼になったらしくて、夜噛連の奴らが徘徊してるのも鵜沼の指示なんだって」

 なんてことないように話す晃に一つ疑問が芽生える。いくら何でも元リーダーとはいえ夜噛連の内情に詳しすぎやしないか、と。怪訝そうに見つめる真太郎に晃は苦笑いをしながら答えた。

「実は櫛田さんが教えてくれて…」

 晃は真太郎に夜噛連のメンバーの一人である櫛田蟻都とのメールの画面を見せてきた。櫛田さんは僕と晃の二つ上の先輩に当たる人で背はあるが体格が良いわけではなく、頭の良い参謀のような人間だ。

「櫛田さんは櫛田さんで何でそんなに教えてくれるんだ…」

「何か面白そうだから、だって」

 晃も過去に同じことを思って聞いたことがあったのか櫛田さんらしい相変わらず意図の分からない回答が返ってきた。

「で、話は終わり?」

「いや、もう一つある。この手紙が今日、うちの高校に届いた」

 晃はあまり上手いとは言えない字で果し状と書かれた手紙をテーブルの上に置いた。真太郎は果し状を手に取って読み始める。

「『夜を噛み千切る我ら、新たなる長を添えて汚点を潰しに行く』……どういうこと? 汚点って晃のことを指して言ってるの?」

 果し状の内容を解読すれば『夜を噛み千切る我ら』というのは『夜噛連』のことで、『新たなる長』というのが『鵜沼』のこと。最後に『汚点』がおそらく『晃』のことを指している。

「多分ね。それで、もう一枚あるでしょ?」

「あぁほんとだ」

 晃に言われて真太郎は下に重なってるもう一枚の果し状の内容を読む。

「『裏切り者は許さない』……なるほど。確かに僕は夜噛連からすれば裏切り者として見られててもおかしくはない、か…」

 僕は視線を窓の外にずらした。雨が降っていたあの日、傘を差し出して疲弊し切った心を救ってくれた穂彦に着いて行くと決めた中学二年生のあの日の出来事を真太郎は今でも昨日のことのように憶えていた。しかし、穂彦に着いて行くということは同時に夜噛連への裏切りに当たることでもだった。

「日付も決まっててね、ほらここ。二週間後の夕方にあの廃工場でするみたい」

 晃は果し状の端の方に他の字に比べて小さな字で書かれた文字を指差して言った。

「……我らってことはさ、夜噛連の全員ってことじゃないの?」

「そうだと思う」

 なんてこともないようにヘラリと答えた晃の必要のない覚悟を決めたような表情に違和感を覚えた。

「晃さ、一人で行こうとしてるよね? 一人で行くつもりじゃなくても元夜噛連の僕だけしか連れて行くつもりしかないよね?」

「……」

 その沈黙が肯定だった。

「君は昔、仲間同士の信頼だとか絆だとか信じてたでしょ? 今の君が仲間だと思う人たちはそんなに頼りないの?」

「分かってるよ! 自分がどんだけ無謀なことを考えてるのかくらい分かってる! でも…! もう、誰かを巻き込んで守り切れないのは…!!」

 そう言って晃は真太郎の左手に視線をやってから思い出したくないものでもあるのか頭を抱えた。

「そんなのは仲間じゃない! そんなものはただ見下してるだけだ!」

 真太郎の声に気圧された晃が押し黙った。真太郎は尚も話を続ける。

「君のその仲間に対する考え方は間違ってる。自分より弱いから守らないといけない。そうやって守られるだけの相手を絶対に仲間とは呼ばないし、僕は守ってばっかのやつに仲間なんて呼ばれたくない。仲間だから信頼するんじゃない、信頼してるから仲間なんだ」

 晃は自分が夜噛連のリーダーだった頃を思い出して「うん、そうだね…」と呟いた。

「……自分が強いから周りを守らなきゃいけないって思いがずっと心の中にあった。っていうか、先輩なんてボクよりも強いんだからボクが守れるわけがないや」

 会った時からずっと強張っていた表情が少しだけ緩んだ。

「まずは先輩たちに声かけてみる」

「僕の方も穂彦を通して全体に声掛けてみるよ」

「「二週間後の夕方、廃工場で」」

 二人の揃った声はどこかへ出かけるかのような軽やかさだった。

 喫茶店で二人が話しているのを観察している人間がいるとも知らずに。



 約束の二週間後の夕方、とある廃工場に多くの高校の制服を纏った青年たちが多く集まっていた。そこに居る全員が厳しい顔をしていた。夏之助は何が何だか分からないまま連れて来られて、今もなおよく分かっていない。何故こんなにも人を集めてここに来なくてはならないのかを。

「ちゃ〜んと、来たみたいで安心したぜ。結局、理想を掲げて叶えられずに逃げ出した腰抜けの晃と組織裏切って抜けた真太郎。しかも、お仲間まで連れて来てる。弱い奴は群れるってか?」

 廃工場の奥から現れたのは一人の男でその背後には大勢の人間が立っている。頭をスキンヘッドにしている男は白の分厚いパーカーを着ていて、ピアスも沢山付いていて、どこか不気味な目をしていた。

「仲間を連れて来てるって話なら鵜沼もだよね? わざわざ、果し状を渡して来たってことはよっぽどボクと真太郎を許せないみたいだ」

 鵜沼と呼んだ男の言葉に返答したのは晃で、男も何事もなく会話を続けている。男と晃の間には何か関係があるのだろうか。

「裏切り者には制裁を、それが今の組織のルールだからな」

「夜噛連の人間を学校の周りを巡回させていたのはボクらにその制裁をするため?」

 晃の問いに鵜沼は一度だけ目を細めてから「あぁ、そうだ」と答えた。

「裏切り者には制裁を…そのつもりだったが、予定が狂った」

 ポツリと呟くように言った鵜沼の声にやや過敏に反応したのは今井あつ子という女で胸の前で両手をしっかり握りながらしきりに鵜沼を何度も見る。

「裏切り者が案外近くに居たらしい」

「…ッガ!?」

 鵜沼は呟くと同時に近くに居た櫛田の頭を鷲掴んで地面に叩き付けた。それは公開処刑のようなものだった。

「なぁ…櫛田。お前、情報漏らしただろ? てか、わざとだよな? お前がそう簡単にそんなヘマをするとは思えない」

「…さぁ? どうだったかな」

 櫛田は嘲笑うように言うと、もう一度地面に頭を叩き付けられた。額から流れる血が痛々しい。

「悪いな。どうやら掃除が終わり切ってなかったみたいだ」

 黒く澱んだままの瞳で笑う鵜沼はそう言って意識のない櫛田の襟首を掴んで引き摺って晃たちに背を向けて歩き始めた。「また今度、会おう」とだけ言って。

 鵜沼に続いて仲間が踵を返していく中で、あつ子は振り返る直前に晃をはっきりと視界に捉えた。



◇◆◇



 ___計画が破綻した。

「どうしよう…蟻都くん」

 荒い呼吸が響き、錆びた鉄のような匂いが纏わりつく部屋であつ子は泣きそうな声で絞り出すように言った。

「あつ子ちゃん……あつ子ちゃんだけでも逃げて」

 体の至る所から血を流して倒れる櫛田とあつ子以外に誰も居ない部屋で櫛田はあつ子の震える手を握って諭すように言う。

 あつ子よりも一回りほど大きい蟻都の手は普段よりも冷たくて、落ち着けそうになくて。あつ子は怖くなって両手で蟻都の手を握った。

「蟻都くんは、どうするの?」

「僕は残るよ。あつ子ちゃん、ここを出たら晃くんと真太郎くんにちゃんと言おう。ちゃんと言って協力してもらおう」

 即答だった。

 あつ子はその言葉にますます目に涙を浮かべた。

 櫛田は握っていたあつ子の手を離すと「行って」とその瞳にあつ子への愛おしみを浮かべながら微笑んで言った。


 櫛田はつい先ほどまで微かに手に残った熱を逃さないように手を握りしめたが、冷たい気温のせいか簡単に熱は逃げ去ってしまった。また手を開いて掌を眺めた櫛田はまた手を握りしめ、瞼を落とした。



「い、今井さん??」

「鵜沼を止められなかった私にも非があると思う」

 昨日の今日、突然朝に晃の元に駆け込むようにやって来た今井あつ子が始めた独白を聞きながら晃は困惑していた。

「私と蟻都くんは夜噛連を潰したかった。そのために蟻都くんが上芭くんたちに色々情報を撒いて夜噛連を壊させる方向に持っていこうとしていたんだけど、昨日ので完全に計画が鵜沼にバレた。だから…」

「分かった」

 泣かないように唇を噛むあつ子の言葉を遮るように言った晃は続けて「ボクたちが夜噛連を壊すよ」と言った。



◇◆◇



「えーっと、夜噛連を潰すってことで良い?」

 真太郎の言葉に目を瞬かせた穂彦は再度確認するように問うた。

「うん。再結成できないくらい完全に」

 流石に真正面から目を合わせるのは自信が無いのかやや伏目がちにちゃんと本音を言う真太郎を見て穂彦は口元を弛めて「分かった」と言った。

「荒鷲も動くんだよね、確か」

「晃も潰したいって言ってたから、動くと思う」

 視線を彷徨わせながら真太郎は答えると、穂彦は「おっけい」と気の抜けるような返事をした。

「オレが全体の指揮を執る」

 そうして夜噛連を壊すための作戦が始まった。

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