8話
翌日
僕は、実力査定試験の舞台となる森林の入り口で、パートナーであるはずのセラが来るのを、ただ、じっと待っていた。
他のペアは、とうの昔に、指定された開始地点へと散らばっていっている。ここに残っているのは、僕と、時間管理役の講師だけだった。
(本当に、来てくれるんだろうか…。ただ、僕を慰めるだけの、その場限りの言葉だったってことも…)
魔剣士という、特別な特性を持つ彼女が、わざわざ僕のような、魔術の才能もない「ただの剣士」を選ぶ理由なんて、どこにもないじゃないか…。
(なら、この試験、やはり、最初から一人で受けるべきだったんだろうか…)
隣で、懐中時計を眺めていた講師が、無情にも、口を開いた。
「…あと五分だ。五分経ったら、君も出発してもらう」
「わかりました…」
僕は、覚悟を決めた。
こうなったら、一人でやるしかないんだ。
もし、森の中で他のペアに見つかったら、不利な二対一で戦うしかない。
幸い、あの入学試験の時と同じで、この空間には、不死の術式がかけられていると聞いている。死ぬことはない。ならば、いっそのこと、思いっきり勝負に出て、砕け散るしかない。
僕は、そう思い、親方から譲り受けた、新しい相棒の柄を、強く、強く握りしめた。
その、時だった。
まるで、すぐ耳元で囁かれたかのように、どこからともなく、凛とした声が聞こえてきた。
「…お待たせ」
その声に、僕だけでなく、隣にいた講師すらも、驚いて声がする方を、勢いよく向いた。
講師ほどの熟練者ですら、全く気配に気づけなかったというのか…。
「セラッ!本当に、来てくれたんだねっ!」
そこには、いつの間に現れたのか、漆黒の髪を風に揺らしながら、セラが、静かに立っていた。
僕が、彼女が来ないと諦めかけていた、その不安な考えを、まるで見透かすかのように、彼女は、少しだけ、呆れたように言った。
「…女の子は、朝の準備に、時間がかかる生き物なんだよ」
その、あまりにも堂々とした、悪びれない一言。
僕の心配など、どこ吹く風といった様子の彼女を見て、僕は、なんだか、力が抜けていくのを感じた。
講師は、セラの、まるで瞬間移動したかのような、常識外れの登場に驚いていたが、すぐに咳払いをして、毅然とした態度に戻り、彼女に説明を求めた。
「君が、アルス君のパートナーを務める、ということで良いのかね?」
セラは、講師の、値踏みするような視線を、真っ直ぐに見つめ返しながら、静かに、しかし、はっきりと答えた。
「セラです。何か、問題でも?」
講師は、セラの全身に、鋭い視線を走らせた。
「君は…我が学院の生徒ではないね?その服も、制服ではなく、私服のようだ…」
僕は、その言葉に、驚愕した。
「えぇ…!?セラって、うちの生徒じゃないの!?…って事は、今回の試験のパートナーには、なれないんじゃ…」
せっかく、来てくれたのに。これじゃあ、結局、僕一人で試験を受けることになるのか…。
不安がる僕を見て、セラは、クスっと、楽しそうに笑いかけた。
「…大丈夫だよ。ね?先生。…確か、この学院の設立当初、まだ優秀な術師が、今ほど集まっていなかった時代に、作られた特別なルールがあったよね?」
なんだ、そのルールって…。
僕が、きょとんとしていると、講師は、信じられない、というように、目を丸くしながらセラに質問した。
「…なぜ、それを知っている…。それは、学院の、ごく一部の者しか知らない、古い歴史書にしか記されていないルールだぞ…。それも、もう、十年以上も前の…」
セラは、動揺する講師を見ながら、まるで、答えを知っているテストの問題を、確認するかのように、静かに聞いた。
「別に、そのルールが『廃止になった』とは、どこにも書いていない、と聞いたけど」
「一体、誰から、そんな話を…。…まぁ、良い。確かに、そのルールは、今も有効だ。…昔、こういった試験や訓練を実施する際に、我が学院の生徒だけでは、人数が不足した場合、臨時枠として、外部の術師の参加を依頼していたことがある。…今回は、その特別ルールを採用するとしよう」
セラは、僕を見て、悪戯っぽく、片目をつぶって、微笑んだ。
「良かったね、アルス」
セラ…一体、君は、何者なんだ…。
講師は、僕たちのことを、これ以上、深く追求するのを諦めたように、続けて、試験の説明をした。
「では、制限時間は、日没までだ。それまでに、この森の中で遭遇した、他の敵ペアから、腕章を奪い、講堂まで戻ってきたまえ。健闘を祈る」
そう言って、講師は、まるで、僕たちという厄介事から、逃げるかのように、足早に講堂の方角へと去っていった。
後に残されたのは、僕と、謎だらけの、僕のパートナーだけだった。
「さぁ、行こうか、アルス」
セラは、何の迷いもなく、鬱蒼とした森林へと、すっと足を進めた。
「う、うん」
僕も、彼女に遅れを取らないように、慌ててその後を追っていく。
二人で、しばらくの間、森の中を、ただ無言で進んでいく。
聞こえるのは、風で木々の葉が擦れる音と、自分たちの足音だけ。
(こういう時って、何か話したほうが、いいんだろうか…)
でも、何を話せばいいんだ。最近知り合ったばかりの、謎の女の子と…。
「…アルスって、友達、いるの?」
唐突に、しかし、ごく自然に、彼女は声をかけてくる。
「い、いるよ」
「ふーん、どんな人?名前は?」
どこか、興味なさげに、ただ、確認するように、セラは聞いてくる。
「とても、優しくて、頼りになる、最高の友人だよ。フレデリックって言うんだ」
「へぇ…フレデリックがねぇ…」
僕の答えに、セラは、なぜか、とても満足げに、そう呟いた。
なんだろう…この反応。もしかして…。
「セラ…君は、もしかして、フレデリックの…」
そうだ、繋がった。
彼女は、僕に関する、学園の内部の噂を知っていた。
僕が、パートナー探しに困っているという、苦境も知っていた。
そして、僕の名前も、なぜか知っていた。
どこから、どう考えても、その情報の出所は…
「ふふん」
僕の推理を、肯定するかのように、セラも、楽しそうに肩で笑う。
「彼女さん、なんだねっ!」
「…へ?」
なぜだろう。セラが、まるで、予想外の攻撃でも食らったかのように、肩透かしを食らったような、間の抜けた顔をした。
「ぇ…ごめん、もしかして、違ったの?」
セラは、一瞬、困惑したような顔で、僕の顔と、森の木々とを、交互に見比べた後、慌てて答えた。
「ち、違うよ!別に、あいつの彼女ってわけじゃ…」
そうか…。これは、つまり…。
「ってことは、フレデリックの事が、好きってことだね。それで、今回の試験で僕を助けることを、報酬として、フレデリックの友人である僕に、フレデリックを紹介して欲しい………そういう事で、合ってるね?」
なんて、完璧な名推理だろう…。
すごいぞ、僕。あれほど謎めいた女性だったのに、一瞬で、セラの人物像の解像度が、ぐんと上がった気がする。
「……合ってないよ。あいつとは、ただの、知人だよ…」
なんだろう…この、歯切れの悪い否定の仕方は。
これは、もしかして…。
「照れ隠し?」
僕のその一言に、セラは、深いため息をついて、手で顔を押さえた。
「なぜ、私が、照れないといけないんだ…」
…なるほど、思春期の、複雑な女性の心、か…。
図星のことを、ストレートに言うのは、不味かっただろうか…。
「ご、ごめん」
思わず、謝ってしまった。
「…いいよ、別に…」
俯いてしまった彼女の横顔は、どこか、物憂げに見える。
これが、恋する乙女の悩み、というやつなのだろうか…。
「こ、今度、セラの事、レナに紹介しようか?」
僕の提案に、セラは、不思議そうにこちらを見た。
「…なぜ、あの子に、私を?」
「ほ、ほら…やっぱり、同性同士の方が、色々と、恋愛の相談とか、しやすいかと思って…」
セラは、僕の言葉に、ふと考え込む。
「相談相手、か…」
「どうかな?」
「…別に、その相談相手、アルスが引き受けたって、構わないんじゃないか?」
「ぼ、僕が…?」
…フレデリックの、女性の好みなんか、僕には、見当もつかないぞ…。
「…だめ?」
潤んだ瞳で、上目遣いに、僕の顔を覗き込んでくるセラ。
「わ、わかったよ…。僕で良ければ、相談に乗るよ」
「…そう。良かった」
僕のその答えに、セラは、心の底から、安堵したような表情をした。
…頑張るよ、セラ。
君の、その切ない恋が成就するために。
そして、僕の、友人である、フレデリックの幸せのためにも…。
僕は、一人、心の中で、固く、そう誓うのだった。
僕らは、本格的に、試験の舞台である森林へと、足を踏み入れた。
なかなか、対戦相手となる他のペアが見つからない。
既に、空の太陽は真上に昇り、昼を過ぎた頃だろうか…。
やはり、この広大な森林エリアだと、そう簡単には遭遇しないものなのだろうか…。
「なかなか相手が見つからないね…。そろそろ、お昼ご飯にでもする?」
セラも、そろそろお腹が減る頃だろう…。僕は、腰の袋から、持参していた干し肉とパンを取り出そうとした。
「…そう?相手には、私達、とっくに見つかってるみたいだけど」
僕は、そのセラの言葉に、息を呑んだ。
咄嗟に、周囲を見渡す。
しかし、木漏れ日が差し込む、静かな森林の光景が、僕の目の前に広がっているだけだった。
「だ、誰も、居ないみたいだけど…」
セラは、そんな僕の様子を、少しだけ、呆れたように見つめた。
「そっか…。アルスは、術式適性が、ほとんど無いんだもんね…」
そう言って、セラは、腰に差した優美な細剣を、静かに、しかし、流れるような動作で抜き放つと、何もないはずの、空間の一点に、その切っ先を向けた。
「隠れてないで、出ておいでよ」
一体、何を言っているんだ…?そう思った、まさに、その瞬間だった。
セラが剣を向けた空間が、まるで陽炎のように、ぐにゃりと歪む。
「あーぁ…。見つかっちゃったか…」
その歪みの中から、大柄で、屈強な体格の男性と…
「アルス君と組むくらいの人だから、索敵や感知系の術式なんか、持ってないと思ってたんだけどなぁ…」
飄々とした、掴みどころのない態度の女性が、まるで、最初からそこにいたかのように、姿を現した。
僕は、その、あまりにも常識外れな光景に、思わず声をあげる。
「い、いつから、そこに…」
セラが、僕の代わりに、冷静に答えた。
「君たちが、僕たちを見つけてから。…だから、五分くらい前からだよ」
女性は、その答えに、楽しそうに嗤った。
「なんだ、最初から、全部バレてたのか。残念」
男性の方は、セラの、その底知れない実力を警戒するように、鋭い視線で問いかけてきた。
「なら、なぜ、俺たちを泳がせていたんだ?あんた」
セラは、そんな彼らに、まるで、子供をあやすかのように、不敵に微笑んでみせた。
「折角の、友人との、楽しい散歩だったんだ。君たちが、邪魔をしない限りは、こちらも、放っておこうと思ったんだよ」
その、あまりにも余裕に満ちた言葉に、相手は、すぐに臨戦態勢に入った。
「余裕かましやがって…」
「アルス君と、わざわざ組むあたり、余程の芸達者か、あるいは、ただの自信過剰か…」
そんな、一触即発の二人を見て、僕の背中に、緊張の汗が走る。
しかし、僕を他所目に、セラは、ただ、楽しそうに言った。
「さぁ…どっちだろうね?」
その言葉が、戦いの合図だった。
男性の方は、腰から、戦闘用と思われる、ずしりと重い鉄槌を取り出した。
「俺は、そっちの女の方をやる。お前は」
「わかったわ。あたしは、アルス君のほうね」
そう言って、女性は、まるで獲物を品定めするかのように、じっと僕の顔を見た。
「レナとの戦い方は、観客席から、よーく見てたわよ…アルス君。…君…剣しか、使えないみたいじゃない」
僕の対策は、入学試験のあの一戦で、すでに見切られている、ということか…。
でも、やるしかないんだ…。
僕は、親方にもらった、新しい相棒の柄に、そっと手をかけた。
その瞬間だった。
僕の心を支配していた、恐怖や、焦りといった、人間らしい感情の全てが、すぅっと、潮が引くように消えていくのが分かった。
代わりに、頭の芯が、氷のように、どこまでも冷えていく。
目の前に立つ、不敵に笑う女魔術師の姿が、ただ、打ち破るべき「障害物」にしか見えなくなった。
僕の指が、まるで、その場所こそが自分の定位置だと知っていたかのように、ごく自然に、しかし、力強く、剣の柄を、完全に握りしめた。
そして、臆病だった「僕」の意識は、その冷たい感覚の、さらに奥深くへと、静かに、沈んでいった。
「…へぇ…君って、そんな顔もできるんだ。剣しか使えないことを指摘されて、内心、ご立腹かな?」
「別に…」
僕は、彼女の挑発には乗らない。ただ、目の前の「的」との距離を、冷静に測るだけだ。
「魔術で殺すか、武器で殺すか。結局は、それしか違いはないじゃないか」
当たり前の事実を、ただ、淡々と告げた。
しかし、その言葉は、彼女の心の、最も触れられたくない部分を、逆撫でしたようだった。
女魔術師の顔が、侮辱されたかのように、怒りで歪んだ。
「魔術は、別に、人を殺めるだけが能じゃない!人の役に立つことだって、たくさん出来るんだ!」
彼女の、心の底からの本音なのだろう。
それが、彼女が、この魔術学院に入った、理由そのものなのかもしれない。
しかし、その、あまりにも純粋で、まっすぐな想いは、今の僕には、格好の「的」にしか見えなかった。
「そうか…そうだね。自分の理想や、自分と同じ理想に共感できない人間を『敵』と呼び、それらを、力で排除していく。そうすることによって、君たちの、理想の世界が体現される…。まさに、『人の役に立って』いると、君と、そこのお仲間の、その狭い、狭い世界では、そう呼べるんだろうね」
どこまでも平坦で、一切の感情が乗らない、僕の声。
その言葉が、一つ、また一つと紡がれるたびに、彼女の顔色から、みるみるうちに、血の気が引いていくのが分かった。
「な、何が言いたいんだ…」
彼女のパートナーである、屈強な男性も、セラの相手をしながら、僕たちの、その異常な会話が耳に届いたようだ。警戒するように、僕の様子を、ちらりと伺っている。
「君たちは、僕が、この学園で孤立しているのを、知っていた。だが、君たちは、僕という、どうでもいい存在に、救いの手を差し伸べることはなかった。それどころか、試験という、この絶好の機会に、わざわざ僕を探し出し、僕のパートナーごと、まとめて始末しようとしてきた…。そうやって、自分たちが気に入らないモノを、徹底的に、排除して、作り上げる、君たちの理想の世界…。本・当・に、『人の役に立って』いると、思うよ」
僕は、そう言いながら、ごく自然な動作で、新しい剣を、鞘から、ゆっくりと、抜き放った。
彼女は、その、あまりにも静かな狂気に、完全に心を折られたようだった。
許しを請うような、懇願するような表情をしながら、か細い声で、言った。
「や、やめてくれ…。あたしたちは、そんなつもりで、君たちを狙ったんじゃ…」
僕は、そんな彼女を、まるで、慈悲深い聖職者のように、優しく、許すように、言った。
「…大丈夫だよ。…加害者ってやつは、いつだって、みんな、そうやって言うんだ。『自分たちが正義である』。『自分たちは、本当は被害者なんだ』ってね。そうやって、自分たちの行いを正当化して、弱者を、平気で虐げるんだから。…君も、僕が村で見てきた、あの連中と、全く同じ、同類だ。…だから、気にしなくていい。僕も、これから、何の罪悪感も感じずに、容赦なく、君を叩き伏せられる」
彼女はその場で、糸が切れた人形のように崩れ落ちた。
「やめて…。あたしは、本当に、そんなつもりで君たちを…」
彼女はたぶん、本当に、誰かの役に立つ技術を求めて、この学院に入ったのだろう。
僕みたいに、最初から「居場所」がどこにも無かった奴とは違い、その「居場所」を守るために、必死に頑張ってきたんだろう。
「もうやめてやれよ、アルス」
セラの相手をしていたはずの、屈強な男性が、僕に声をかける。
彼の顔には、怒りよりも、むしろ、目の前で起こった異常な光景への、困惑の色が浮かんでいた。
「こいつが言う通り、別に、俺たちはお前が個人的に嫌いだから、で狙いをつけたわけじゃない」
なるほど…。
「…僕なら、スキルもないし、すぐに倒せるだろう。そう、思ったのかい?」
男性は、僕の、あまりにも的確な指摘に、一瞬、言葉を失った後、やれやれと肩をすくめた。
「お前…その、優しそうな見た目の割に、言うねぇ…。そうだよ。その通りだ」
僕は、その場で崩れ落ち、完全に戦意を喪失した彼女を見ながら、静かに言った。
「なら、今度は、君が僕と戦おう、と。そういうわけかい?」
男性は、その言葉に、わざとらしく、大げさに笑ってみせた。
「ははっ…まさか。アルス一人ならまだしも、その後ろに控えている、あのお嬢さんもいるんだ。流石に、分が悪すぎるぜ…」
そう言い、男性は、僕の後ろに立つセラの方を、ちらりと見た。
セラは、まさに臨戦態態勢。その手に握られた優美な細剣には、まるで生きているかのように、赤い炎が、ゆらゆらと纏わりついていた。
(あれが、魔剣士の特性…。エンチャントか…)
「ほらよ」
男性は、僕の方にそう声をかけると、懐から、何かをこちらに放り投げてきた。
それは、彼らが腕につけていた、二つ分の腕章だった。
「ったく、それ持って、さっさと講堂に帰還しな。俺は、こいつの戦意が復帰したら、また別のペアでも見つけて、そっちに挑むからよ…」
僕は、落ち込む女性の肩を、不器用に、しかし優しく叩く男性の姿を見ながら、ただ、静かに言った。
「…行こう、セラ」
僕らは、講堂方面に向かって、再び、森の中を歩き始めた。
しばらくして、セラが、僕に声をかけた。
「…意外だったよ。まさか、特性の力を使わずに、『説得』だけで、相手の心を折ってしまうなんて…」
「あ、あはは…そうだね。僕も、まさか、あんな事が、自分ですらすら言えるなんて…」
そう、自分でも、驚いていた。
剣の柄を握り、臨戦態勢になった、あの瞬間。
相手が、何を言われるのが一番嫌なのか。どうすれば、その心を、最も効率的に、木っ端微塵にできるのかが、まるで、手に取るように、分かってしまった。
そして、それを、実行に移すのに、何の躊躇も、罪悪感も、なかった。
(これも、『剣士』としての、僕の特性…なんだろうか?)
セラは、僕のそんな内心の葛藤を見透かすかのように、楽しそうに笑いながら言った。
「…私も、アルスとは、ちょっと戦いたくないかもなぁ…。スキルだけの力じゃなくて、手段を選ばずに、勝ちだけを狙ってる感じが、ちょっと、怖かったよ」
「あはは…そうかな…。でも、僕が、セラ相手に、そんな酷い事なんて、絶対に言わないと思うよ」
セラは、その言葉に、悪戯っぽく笑い、
「そうだと、いいね」
僕に、そう言った。
僕は、その言葉に、ただ、曖昧な笑みを返すことしか、できなかった。
(第8話 完)




