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無才剣士と、偽りの友人  作者: ブヒ太郎
第一部

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13/20

13話

僕は、緊張した面持ちで、一人、闘技場へと上がった。

観客席からの、好奇と、侮蔑と、そして、憐憫が入り混じった、無数の視線が、僕の背中に突き刺さる。

目の前には、レナと、そのパートナーであるミュウさんが、すでに、僕のことを、じっと見ていた。

レナは、まるで、僕を値踏みするかのように、その口を開いた。


「少しは、魔術らしいこと、使えるようになったのかしら?」

「…はは、まったく」

僕は、力なく、そう答えるしかなかった。

レナは、心の底から、呆れた、というように、嘆息した。

「…よく、それで、まだ、この学院に居たいって思えるわね…。居たって、惨めな思いをするだけで、辛いだけじゃないの?」

…そうかもしれない…。

彼女の言う通り、なのかもしれない…。


「…そうかもね…。でも、まだ、ここに居られるうちは、居ようと思うんだ…」


レナは、僕のその、あまりにもか細い抵抗に、一瞬だけ、憐れむような顔をした。

「そ…。なら、別に、止めはしないわ。…ただし、ここは、実力がものを言う世界。…あたしは、あんたに、もう、加減なんか出来ない。…意味は、わかるわよね…?それに、あんたの、あの無茶苦茶な剣の動きは、もう、この三ヶ月で、研究し尽くした。だから、今回は、入学試験の時みたいな、油断なんか、ありえない。…言ってる意味、わかるよね?」

あぁ…わかるよ…。

そうだね。レナも、あの敗北から、必死に、訓練を重ねてきたんだろう…。

前回みたいな、まぐれ勝ちは、もう、二度と起きないだろう…。


「アルスさん…でしたでしょうか?そんなに、怯えなくても、大丈夫ですよ。痛みは、一瞬ですから。すぐに、意識を奪って、差し上げます」


ミュウさんは、まるで、泣きじゃくる赤子をあやすような、優しい表情で、その手から、パチパチと、小さな電撃を放ってみせた。

…これで、苦しまずに、楽にしてあげますよ。

そういう、意味なのだろうか?

…怖い。

…どうして、僕が、こんな目に、合わなければならないんだろうか…。

…冷静に考えれば、術師二人を相手に、たった一人で、一矢報いるなんて、どうあがいたって、無理に決まってるじゃないか…。

…でも, とにかく、やれるだけのことは、やらないと…。

僕は、震える手で、剣の柄に、そっと、触れた。

(どうか…僕に、立ち向かう、勇気を…)


レナは、そんな僕の、あまりにも情けない姿を見て、追い打ちをかけるように、言った。

「…そんなに怯えているようじゃ、あの、フレデリック様のご友人に、相応しくないわよ、ア・ル・ス」


…今、なんて、言ったんだ?この女は?

僕の、心の奥底で、どす黒い、冷たい感情が、ゆっくりと、広がっていく。


「今、なんて言ったんだい?レナ…」


ミュウさんは、僕のその変化に気づかず、ただ、憐れむような視線で、レナに告げた。

「…もう、やめて差し上げましょう。そんな風に、煽ってあげたところで、彼の中に渦巻く恐怖が、怒りで消えるわけでもないでしょうし…」

煽って、あげた?

なんだ?なんなんだ?

僕を馬鹿にして、何が、そんなに面白いんだ?

そんなに、僕が、フレデリックの隣に立つに、相応しくないとでも、そう、言いたいのか?


レナは、僕を、哀れな虫けらでも見るかのように、見つめながら言った。

「そうね…。ごめんね、アルス。すぐに、終わらせてあげるわよ」

…今度は、良い人気取りか、この女は…。

…いいよ。

見せてやろうじゃないか。

僕の、本当の、全力を。

ただの「無才」が、どこまで、君たちのような「天才」に、喰らいつけるかってところを、その身に、教えてやる。


僕は、完全に、剣の柄を、握りしめた。

講師が、僕らの、その張り詰めた会話を見届けたような、絶妙なタイミングで、開始の鐘を、高らかに鳴らした。


すぐさま、ミュウさんが、僕に向けて、その手に持つ杖を、突き出した。

「一瞬で終わらせます!――ライトニング・ボルトッ!」

その前置きは、慈悲の表れのつもりか?

僕は、君たちの成長の度合いを図るための、実験動物か何かか?


高速で、空間を切り裂き、飛んでくる雷撃の矢。

僕は、ただ、静かに、身を翻すことで、それを、紙一重で、躱した。


「…っ!?外した!?」


避けられるのが、そんなに、意外だったのか。ミュウさんは、信じられない、というように、驚愕の顔を浮かべる。


「…ミュウさん、だったっけ?『痛みは一瞬』…そうだね。安心してよ。僕も、嗜虐趣味は、特に持ってないんだ。だから、ただ、君の首を落として、終わりにしてあげるよ。試合が終わった時には、ほら、不思議。元通り、ってね」


僕は、にっこりと、完璧な笑顔を浮かべながら、ゆっくりと、彼女に向かって、歩いていった。

ミュウさんは、何か、決して、見てはいけないような、モノを見てしまったかのような表情を浮かべている。


「フレイム・ボルトッ!」


僕のその異常な前進を止めようと、すぐさま、レナから、炎の矢が飛んでくる。

三ヶ月前よりも、その弾速は、比べ物にならないくらい、速くなっていたが…。


「成長しているのは、君たち、天才だけじゃぁ、ないんだよ」


僕は、そう言いながら、飛来する炎の矢を、ただ、一瞥するだけで、その軌道を見切り、剣で、いともたやすく、叩き落とした。


「甘いのよ!!」


何が、甘いというのか?

僕は、レナの方を、改めて見やると、ようやく、彼女の言葉の意味を、理解した。

彼女の背後には、無数の、幾何学模様の魔法陣が、宙に、展開されていた。

今から、矢の豪雨を、この場に降らせることを、暗に示していたことが、分かった。


「これなら、いくらあんたでも、全部は叩き落とせないでしょ!」


確かに…。その数は、あまりにも、多い。

いくら僕でも、全てを叩き落とすことは、不可能だろう…。


「終わりですっ!アルスさんっ!ライトニング…」


ミュウさんが、僕にとどめの一撃の狙いを定める、まさに、その前に。

僕は、ある、一点の場所に向かって、全力で、駆けた。

ミュウさんが、僕の動きを警戒して、立ち位置を変えないように、彼女とは、あえて、距離を詰めない、絶妙な立ち位置へ…。

そこは…。


「…アルスッ!あんた!!」


レナが、激昂する理由も、わかる。

その立ち位置とは、ちょうど、僕と彼女の間に、ミュウさんを、挟み込むような、一直線上の場所だったからだ。


「レナ…。君の、その大量の魔術って、単純に、真っ直ぐ、僕に向かって、飛んでくるだけじゃないかな?それなら、僕が、ここにいると…どうなるかな?」


レナと、ミュウさんが、同時に、驚愕の顔になった。

…そうだよね…。


「お友達ごと、僕を、撃てるのかい?レナ」


何故だろう。僕の顔から、笑顔が、まるで、張り付いたかのように、離れない。


「ミュウッ!早く、あたしの背後にっ!」

「あはははははははっ!!!そうは行かないよ!!」


僕は、全力で、今度こそ、彼女たちの元へと、一直線に駆け抜ける。


「雷撃よっ!!」


ミュウさんが、短く、そう唱えた。

その瞬間、彼女の杖の先から、小さな、しかし、極限まで圧縮された雷が生まれ、高速で、僕に向かってきた。

全力で駆けていた僕は、それを、避けることができず、


「っ!?」


見事に、その雷の一撃を、肩に、もらうことになった。


「…やりましたっ!」


肌が焼け、肉が焦げる強烈な感覚と、全身を駆け巡る、痺れるような痛みに、襲われる。

でも…。


「あはっ!!あははははははっ!!!」


簡易詠唱だったからか、その威力は、先ほどのライトニング・ボルトに比べれば、耐えるに、安い…。

僕は、その勢いを殺さず、そのまま、全力で、彼女の元へと、駆けつける。


「嘘ッ…」

ミュウさんの顔に、純粋な恐怖の色が、浮かんだ。

「はははっ!!!」


僕は、嗤いながら、抜き放った剣で…。

ミュウさんの、杖を握っていた右腕を、肩口から、斬り落とした。


「あああああああああああああああ」


ミュウさんの、甲高い絶叫が、闘技場に、響き渡る。

…大丈夫だ…。ここは、不死の魔術が、掛かってるんだから…。


「フヒッ…フヒヒッ…さぁ!唱えてごらんよ!次の魔術を!」


僕は、嗤いながら、斬り落とされた腕を押さえて蹲る、ミュウさんに、そう、聞いた。

彼女は、恐怖と、絶望に、顔を歪ませながら、ただ、僕を、見上げた。

…彼女は、もう、戦えないだろう。

その、完全に折れてしまったメンタルで、魔術の行使など、絶望的なのは、魔術が使えない僕にだって、よく分かった。


「アルスッ!!!!!!!!!」


今度は、レナが、僕の名前を、怒号交じりに叫んだ。

しかし、親友を傷つけられた、その精神的な乱れからか、先程まで、彼女の背後に、無数に展開されていた魔法陣は、蜃気楼のように、掻き消えていた。


「よくもっ!!よくもっ!!!」


ぶるぶると、怒りに震える彼女の杖の先に、今までとは比べ物にならないほどの、膨大な魔力が、凝縮されていく。

怒りに呑まれず、この状況で、再度、術式を編み上げる、そのメンタルは、驚愕に値する…。


「アハ…アハハ…どうだい?自分たちが弄んでいた実験動物に、噛まれた気分は?…さぁ、これは、僕からの、餞別だぁぁぁぁああああ」


僕は、足元に転がっていたミュウさんの、まだ、ぴくぴくと動いている腕を、レナに向けて、無造作に、蹴り飛ばした。


「!?!?!?」


気が動転したのであろう。レナは、咄嗟に、その、親友の腕を、受け取ってしまった。

その瞬間、彼女のメンタルは、完全に崩壊し、先程までの、強烈な魔力の奔流は、嘘のように、掻き消えていた。

その、一瞬の隙を、僕は、見逃さない…。


「…これで、僕の、射程圏内だね。レナ」


僕は、レナの、剣が届く、その距離まで、一気に駆け寄った。


「アルスッ!?待っ…」


レナが、最後に、何かを、言いかける。

だが、僕は、それを、全て、無視した。

ここで、彼女に構えば、もしかしたら、立ち直ったミュウさんが、後ろから、僕を撃ってくるかもしれない。

レナが、また、あのフレイム・バーストで、僕を、焼き払うかもしれない。

だから、僕は…。

レナを、その、か細い胴体を、袈裟斬りに、一閃のもとに、斬り払った。

一瞬で、彼女の、胴体と下半身が、真っ二つに分かれた。


「・・・・・・レナぁぁぁぁぁああああ!!!!」


ミュウさんの、絶叫が、闘技場に、木霊する。

可哀そうに…。


「…さぁ、次は、君の番だよ…。ミュウさん」


僕は、笑顔が張り付いたままの顔で、彼女に、ゆっくりと、振り返った。

「…っ!?た、助け…」


そこで、試合の終わりを告げる、無機質な鐘の音が、闘技場に、響き渡った。


「勝者・・・・・・アルスッ!!!」


審判役の講師が、どこか、怯えたような声で、高らかに、そう、宣言した。

その瞬間、闘技場全体に、温かい光が満ち溢れ、不死の術式が、発動する。

元通りになる、僕ら。

僕の、雷撃に撃たれた、焼け爛れた肩も。

ミュウさんの、失われた右腕も。

真っ二つに分かれていた、レナの身体も。

全てが、まるで、何もなかったかのように、元の姿に、戻っていた。


試合が終わった僕は、すぅっと、頭から血が引いていくのを感じていた。

そして、目の前で、呆然とする二人の姿を見て、いつもの、臆病な「僕」に、戻っていた。


「………大丈夫かい?二人とも?」


僕は、出来る限り、優しい笑顔で、彼女たちに、歩み寄った。

しかし、


「近づかないでっ!!!」


ミュうさんは、まるで、化け物でも見るかのような目で、僕を睨みつけ、完全な、拒絶の姿勢を示した。

一方、レナは…


「・・・・・・・・・」


復元された彼女の身体は、仰向けのまま、ぴくりとも動かなかった。

ただ、その、虚ろな目で、闘技場の、何もない、空を見ているだけだった。


(第13話 完)

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