10話
私の名前は、セラ。
王都とは、また別の、活気あふれる商業都市で、裕福な商人の三女として、私は生まれた。
私は、昔から、父が商談の土産に買ってきてくれる、絵本の中に出てくる「騎士様」の物語が、大好きだった。
誰よりも強く、気高く、そして、どんなに弱い者にも、優しく手を差し伸べる。
私は、そんな、おとぎ話の中の騎士に、ずっと、憧れていた。
私も、いつか、こんな風になれたら、と。
だが、私は女で、絵本の中の彼は、男だった。
どれだけ願っても、どれだけ剣の素振りを真似しても、私が「彼」になれるはずはなかった。
それに、お父様は、厳格な人だった。将来は、家の利益のために、他の有力な商家の男性と結婚するのが、お前の務めだ、と。
(嫌だ…私の人生は、私だけのものだ…)
そう、心の中で、必死に抵抗しながら生きてきた、ある日。
私は、十二歳になり、教会で、覚醒の儀式を受けた。
(なんだろう…正直、なんでもいい)
うちは、母方が、優秀な魔術師の家系だった。だから、私に発現するのは、きっと、火か、水か、風か。そのどれかの系統の、ありふれたスキルだろう。そんなものが覚醒したところで、私の人生が、何か変わるというのだろうか…。
しかし、神が私に与えた特性は、あまりにも、意外なものだった。
『魔剣士』
まさか、騎士の家系でもない、ただの商人の娘の私に、このスキルが発現するなんて…。
武器に、魔力を付与する「エンチャント」。それにより、鉄をも断ち切る、絶大な力を得る、強力無比のスキル。
お父様は、その結果を聞いて、少しだけ、残念そうな顔をした。
「淑女なら、もっと、お淑やかな特性のほうが、嫁ぎ先で喜ばれただろうに…」と。
だが、私は、このエンチャントの力に、別の可能性を見出した。
(この力は、何も、武器にだけ、使えるものではないんじゃないだろうか?)
それから、私は、ある一つの目標に向かって、来る日も、来る日も、家族の目を盗んで、スキルの訓練を、独りで、秘密裏に行った。
そして、覚醒の儀式から、4年後。
私は、いつも私の味方をしてくれる、優しい母に、ダメ元で、私の本当の願いを、伝えてみた。
「お母さま、私…私…王都の、魔術学院に行っては、ダメでしょうか?」
母は、驚くことなく、ただ、優しく微笑んだ。
「あら…セラ。貴女はもう、家庭教師から、十分すぎるほどの学問も、作法も納めているでしょう?魔術学院は、戦うための力や、知識を身に着ける場所…。なぜ、今さら、あそこに行きたいの?」
「それは…私は…自分の道は、自分で決めたいのです…。お父様が言うように、どこかの男性の元へ、ただ嫁ぐだけが、私の人生だとは、思えません…」
母は、私のその言葉に、少しだけ、驚いた顔をしたが、すぐに、いつもの優しい表情に戻った。
「そう…。貴女が、そう決めたのなら、私は止めないわ。お父様には、私から上手く伝えておくから、貴女は、貴女がしたいことを、しなさい」
あまりにも、意外だった。
母は、驚くほど、すんなりと、私の、無茶な要望を受け入れてくれたのだった。
二人の姉たちのように、どこかの名家に嫁がせるわけでもなく、この私を、自由にさせてくれるというのだ。
私は、その日のうちに、急いで、最低限の荷物を纏め、王都に向かう、始発の馬車に乗り込んだ。
(ありがとう、お母様)
(ごめんなさい、お父様)
私は…私が、どこまでやれるのか、この力で、試してみたいのです。
王都につき、魔術学院に着いた、まさに、その日だった。
子犬のように、不安げな瞳をした一人の男の子が、街の大きな案内看板の前で、途方に暮れて、呻いている。
私は、思わず、声をかけていた。
「…迷子?」
少年は、勢いよく、こちらを向いた。
「す、すいません、魔術学院という場所を探していまして!」
…もし、私に、弟がいたとしたら、こんな感じだったのだろうか…。
放っておけない。護ってあげたくなるような、そんな、不思議な魅力を持った子。
「…奇遇ね。私も、ちょうどそこに行くところなの。良かったら、一緒に行く?」
私が、できるだけ優しく声をかけると、彼は、ぽかんとした顔で、ただ、ぼーっと私の顔を見ていた。
「私の顔に、何か付いているかな?」
そう聞くと、彼は、慌てて、ぶんぶんと首を横に振った。
「すっ!すいません!あまりにも、その…昔読んだ絵本の中の騎士様が、そのまま出てきたようなお姿に見えてっ!」
彼は、そう、答えた。
…ふふっ。よく、出来てるじゃないか。私の、このスキルは…。
私、セラ、という、この身体そのものに、強力なエンチャントを掛けることで、声も、口調も、顔も、背格好も、全くの別人に「擬態」する。
魔術は、イメージが全て。そう言われる理由が、よくわかる。
今の彼には、私は、私が、ずっと、ずっと憧れ続けた、あの絵本の中の騎士、「フレデリック」にしか、見えていないんだろう。
その純粋な瞳を見ていると、少しだけ、胸が痛んだ。
私は彼を魔術学院に案内し、そこで別れた。
そして、ここからが、一番の問題点だ…。
私は、私自身を「フレデリック」という架空の男性として登録し、その希少なスキルである「魔剣士」を掲げて、特別推薦枠に応募し、それが、見事に通ってしまったのだ。
私の、この擬態が、もし、これから会う、学園の講師に見破られてしまえば、そこで、私の挑戦は、全て終わりだ。
緊張に震える足で、特別推薦枠の面談室へと、一人、案内される。
そこに、この学院の理事長が、重厚な椅子に、深く腰かけていた。
「…君が、『フレデリック』くんか」
「…はい」
「『魔剣士』のスキルを持っている、とあるが…」
「はい。良ければ、今、ここで、その証明を致しましょうか?」
私は、父の書斎のコレクションから、勝手に拝借してきた、儀礼用の、ただの美しいだけの細剣の柄に、そっと手をかける。
もちろん、理事長には、この細剣が、分厚い戦闘用の剣にしか、見えていないだろう。
私の、この姿も…。
「…いや、その必要はない。見せなくても、今、この瞬間にも、君の実力は、十分に実証されているだろうからな」
「…え?」
一体、何を言っているんだ…?まさか、この距離で、私の擬態が、見破られている?
「…よく出来た、変身魔術だ。…おそらく、魔人族との実戦経験がない、今の講師たちでは、君の擬態を見破ることは、まず敵わないだろう。…それに、この私ですら、これだけ近くで、よくよく観察しないと、その魔力の揺らぎの違和感に、気づくことはできない。…並大抵ではない、鍛錬の賜物といったところか」
私は、恐る恐る、聞いた。
「…面接試験は…どうなるのでしょうか?」
理事長は、その厳つい顔を、にっこりと、人の良さそうに笑った。
「無論、合格だ。…もし、ここまで来る途中で、他の誰かに、君の正体が見破られていたら、また考えたがね」
私は、その言葉に、心の底から、安堵した。
「ありがとうございます」
「さて、特別推薦枠の面談も、君で最後だ。…私は、これから、一般枠の子らの試験を見に行くが、君は、どうする?」
私も、ついていくことにした。
アルスが、この後、どうなっているのか、気になって、仕方がなかったからだ。
一般試験会場である、闘技場の観戦席についた私は、すぐに、アルスを見つけた。
どうやら、これから、赤毛の、快活そうな術師の女の子と、実戦形式の試験が始まるようで、彼は、ひどく緊張した面持ちで、そこに立っている。
彼と、ふと、目が合った。
私は、思わず、彼を励ますように、口元を、「が・ん・ば・れ」と、動かしていた。
それが伝わったようで、彼から、ふっと、出ていた緊張感が解けて、自然体となった様子だった。
…なんだろう…あの可愛さは…。子犬か、何かだろうか。
しかし、戦いが始まった瞬間、そのイメージは、完全に覆された。
フレイム・ボルトを、ただの剣で、いともたやすく、叩き落としている。
アルスの身体からは、術師が通常発するはずの、魔素の流れが、ほとんど見えない…。
(まさか、本当に、魔術適性が、ほとんどないのか!?)
それで、この、国内最高峰の魔術学院の入学を、目指したというのか…。
なんて、無謀なことを…。
私は、その戦いから、目が離せなくなった。
その時だった。彼の、あの古い剣が、相手の術師が、魔力で強化していたであろう杖とぶつかり、甲高い音を立てて、折れてしまう。
(これは…さすがに、もう、無理かもしれない…)
そう思ったが、彼は、諦めずに、さらに、そこから、前に、突っ込んだ。
術師の子に、彼が、何を言ったのであろうか…。
彼女の身体を包む魔素のオーラが、酷く、怯えたように、揺らめいていた。
一瞬で、アルスが、彼女に詰め寄った、その時だった。
彼の身体の、すぐ近くで、まばゆい光と共に、炎の爆発が起きた。
私は、その瞬間、自然と、身体が動いていた。
観戦席から、身を乗り出すように飛び出し、いち早く、彼の元へと。
しかし、爆発に巻き込まれ、倒れると思いきや、さらに意外な行動に出た、アルス。
焼け爛れ、ボロボロになったはずの手で、術師の、か細い首を、鷲掴みに締め上げていた。
そして、その手に握られた、折れた剣を、無慈悲に、振り上げた。
その時の、アルスの目は、私が、先ほどまで見ていた、大人しく、優しい子犬のような彼とは、全くの別物だった。
まるで、何か、得体のしれないものに、憑依でもされているかのような、異様な気配。
このままだと、彼は、なんの躊躇もなく、目の前の術師の首を、切り落とすだろう。
いくら、この闘技場に、不死の術がかかっているとはいえど、そんなことをしたら、彼女の心は、二度と、元には戻らない。
彼に接近した私は、慌てて、その武器を握っていた手を、力強く、抑えた。
「やめて、アルス」
「フレデリック」になっている、私のこの言葉が、今の彼に、どのように変換されて、伝わっているのか、不安だった。
だが、うまく伝わったようで、アルスの、あの、人間離れした瞳が、ゆっくりと、私を見た。
その時、講師が、試合終了を、高らかに宣言した。
講師が、アルスを、どこか、他人事のように、評価する。
「才覚はないが、覚悟はある、とのことだったが…。まさに、その通りだったな、アルスくん」
その、あまりにも呑気な言葉に、私は、苛立ちを覚えた。
あれは、本当に、「覚悟」と、呼べるものなのだろうか。
あれは、追い詰められ、苦しんだ者が、最後に、無意識に引き出せる、魂の力、そのものなんじゃないのだろうか…。
この講師には、彼の、その悲痛な叫びが、聞こえなかったのだろうか。
私はそれから、彼の動向が気になって仕方なかった。
あの試合の後、私は「フレデリック」として、アルスと、あの赤毛の術師…レナを、喫茶店に誘った。
試合の興奮が冷めやらぬ中、レナは悔しそうに、それでもどこかアルスの実力を認めたように彼と話している。
そして、アルスは、だ。
あれほどの戦いを見せた後だというのに、彼は、まるで怯えた子犬のように、「まぐれだよ」と、か細い声で繰り返すばかり。
(どちらが、本当の彼なの…?)
あの、指が砕けるのも厭わずに突進し、冷たい瞳で相手の喉元を締め上げた、獣のような少年。
そして、今、目の前で、友人の言葉一つ一つに、不安そうに、しかし、嬉しそうに表情を綻ばせる、この無垢な少年。
あまりにも、違いすぎる。
そして、彼は、自分のスキルを、何のてらいもなく、私たちに告白した。
「何の特性もない、ただの『剣士』なんだ」と。
その言葉を聞いた瞬間、私の背筋に、ぞくりとしたものが走った。
魔術の才能もない。特別なスキルもない。それなのに優秀な術師であるレナを完膚なきまでに叩きのめした。
それは、彼が、その身一つで、どれほどの孤独な鍛錬を、血の滲むような努力を、重ねてきたのかを、雄弁に物語っていた。
私が「驚嘆だね」と口にしたのは、決して、お世辞や社交辞令ではなかった。
それは、心の底からの、純粋な畏怖と、尊敬の念だった。
彼が、補欠ではあるが、合格したのを確認した時、私は、自分のことのように、安堵していることに気づいた。
もっと、この子のことを、知りたい。
その強さも、その弱さも、全てを。
入学式の日。
壇上で、私は、用意された、いかにも優等生らしいスピーチを、完璧な「フレデリック」として、淀みなく読み上げていた。
だが、私の目は、聴衆の中にいる、アルスの姿だけを探していた。
彼は、どこか居心地悪そうに、その場に立っている。その孤独な姿を見ていると、胸が、ちくりと痛んだ。
式が終わった後、私は、彼に声をかけた。
本当は、理事長や、他の特待生への挨拶回りがあったけれど、そんなものは、どうでもよかった。
彼が、働き口を探していると聞いた時、私は、思わず「融資しようか」と、口走ってしまっていた。お父様が聞いたら、卒倒するだろう。商人の娘として、あるまじき行為だ。
でも、彼が、お金のことで、これ以上、苦労してほしくない、と、心から思ったのだ。
彼が、はにかみながら、自分の部屋の場所を記した、小さな紙切れを渡してくれた時、私の心臓は、大きく跳ねた。
(これは、違う。私は今、「フレデリック」なんだ)
必死に、自分に言い聞かせる。だが、頬が熱くなるのは、どうしようもなかった。
慌てて取り繕う私の姿は、彼には、どう見えたのだろうか。
その日から、私は、アルスのことを、調べ始めていた。
彼が、学園の古い当直室を借りていること。
彼が、街のはずれにある、「バッカス」という名の、頑固だが腕は一流の鍛冶師の元で、働き始めたこと。
そして、今週末の実力査定で、彼のパートナーが、まだ、誰も見つかっていないということ。
(…馬鹿な子)
なぜ、私に、相談してくれないんだ。
「フレデリック」は、君の、唯一の友人なのだろう?
居ても立ってもいられなくなった私は、その日の夕暮れ、擬態を解き、ただの「セラ」として、彼の働く、街はずれの鍛冶屋へと、向かっていた。
「フレデリック」としてでは、聞けないことがある。
「セラ」として、彼の、本当の顔が見てみたかった。
薪を割る彼の、真剣な横顔。
私が現れた時の、驚いた、無防備な顔。
そのどれもが、新鮮だった。
彼が、私の正体に、全く気づいていないのをいいことに、私は、少しだけ、意地悪な質問をしてみる。
「パートナー、見つかっていないんだってね」と。
彼が、困っているのを知っていて、わざと。
その時の、彼の、狼狽した顔。
そして、彼が、私のことを「フレデリックのことが好きな、恋する乙女」だと、とんでもない勘違いをして、それでも、必死に、私の恋を応援しようとしてくれる、その、お人好しっぷり。
(…可愛い)
心の底から、そう、思った。
そして、同時に、少しだけ、罪悪感が、胸を刺した。
実力査定の、当日。
私は、結局、いてもたってもいられなくなり、「セラ」として、彼の前に現れた。
私が、外部の人間であることを、講師が咎める。当然だ。
だが、それすらも、私の計算の内だった。
我が家の書庫で読み漁った、この学院の、古い、古い規則。それを使えば、私が彼のパートナーになることは、可能なはず。
案の定、私の揺さぶりに、講師は、折れた。
森の中での、アルスの、あの壮大な勘違いには、もはや、笑いを堪えるのが、必死だった。
私が、フレデリック…つまり、私自身に、恋をしている?
そして、その恋の相談に、彼が乗ってくれる?
こんなに、面白い喜劇が、他にあるだろうか。
私は、心の底から、このおかしな状況を、楽しんでいた。
だが、その時間は、長くは続かなかった。
敵ペアが現れた、その瞬間。
彼が、剣の柄を、握りしめた、その瞬間。
空気が、変わった。
目の前にいるのは、もう、あの、お人好しで、少し鈍感な、子犬のようなアルスではなかった。
ただ、冷徹に、相手の心の弱点を、的確に、抉り出す、「何か」。
彼の口から紡がれる、氷のように冷たい言葉。
それは、剣で斬るよりも、魔法で焼くよりも、遥かに、残酷に、相手の心を、折っていた。
戦意を喪失し、その場で崩れ落ちる、女魔術師。
私は、その光景を、ただ、呆然と、見つめていた。
そして、心の底から、思った。
(ああ、やはり、この子は、私が、守らなければ)
彼が、その、あまりにも強大で、あまりにも危険な力に、いつか、飲み込まれてしまわないように。
彼が、その優しさを、完全に見失ってしまわないように。
それからアルスと別れた私は、特待生としての義務である、レポートの作成に追われ、急いで自室へと戻っていた。
夕暮れが、窓から差し込む、その直前。なんとかレポートが終わり、私は、それを無事に担当講師に提出した。
自室に戻り、息が詰まるような「フレデリック」の擬態を解き、ただの「セラ」としての私服に着替える。
「…もう、こんな時間か…。アルスは、まだ、働いている頃かな…」
私は、気づけば、自然と、足が、街のはずれにある、あの鍛冶屋のほうに向いていた。
何故だろう。もう少し、彼と、話がしたい。
ただ、そう、思ってしまったからだ。
道中で、ちょうど仕事を終えた帰りなのだろう、アルスと出会った。
私は、慌てて、再び「フレデリック」の姿に擬態すると、ごく自然を装って、彼を、食事に誘ってしまった。
急な食事の誘いだったせいか、アルスは、お金がないからと、遠慮がちだった。
でも、私は、半ば強引に、彼を店へと誘ってしまった。
どうしても、まだ、彼と、色々な話がしてみたい。
その、抑えきれない気持ちが、私を、そうさせた。
レストランで、私は、彼と、色々な話をした。
彼は、将来、鍛冶師を目指す、という新しい夢が見つかったようで、その話をする彼の目は、今まで見たことがないくらい、キラキラと、輝いていた。
その話を、私は、「フレデリック」として、隣で、ただ、聞いていた。
その、彼の、あまりにも嬉しそうな、希望に満ちた笑顔が、私の胸に、少しだけ、棘のように、ちくりと刺さった。
そう…私は、いずれ、騎士団に所属し、宮仕えを目指す立場。
そして、彼が見つけた道は、民間で、人々のために、剣を打つという、鍛冶師の立場。
私たちの道は、いつか、必ず、別れてしまうのだろうか…。
商人の娘「セラ」としてではなく、ただの友人「フレデリック」として、何の壁もなく、真っ直ぐに私を見てくれる、彼。
その、かけがえのない存在を、いつか、手放す日が、来てしまうのだろうか。
私は、彼と、どうにか、このまま、別れずにいられる方法を、他愛もない話をしながら、必死に、模索していた。
いつか、この「フレデリック」という、偽りの姿ではなく、ただの「セラ」として、彼の前に、現れることは、可能なのだろうか?
その時、私は、彼と、今のまま、友人のままで、いられるのだろうか?
…いや、焦ることはない。
学院生活は、まだ、始まったばかりで、まだまだ、長いのだから。
彼との「答え」は、これから、ゆっくりと、見つけていけば、いいのだ…。
私は、そう、自分に言い聞かせながら、目の前で、楽しそうに、新しい夢を語る彼の笑顔を、ただ、見つめていた。
(第10話 完)




