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【17万PV突破!】精霊たちと話せるので、転生先で聖女になりました  作者: 高梨美奈子


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馬車の中で

馬車は、村を出て森の道をゆっくりと進んでいた。

車輪の音と、馬の蹄が草を踏む軽やかなリズム。


揺れる窓の外には、朝霧に霞む木立が続いている。


車内は、ほどよく整った内装に革張りの座席。

向かいに座る青年、エリアスは、静かに窓の外を見ている。


深い青の髪と瞳。年齢は二十代といったところだろう。

その眼差しには、感情の起伏がほとんどない。

無愛想というよりは、必要以上に何も語らない印象だった。


カナは一度、視線を落とし、ためらいながらも口を開いた。


「……あの、王立学院って、やっぱりすごい所なんでしょうか?」


エリアスはほんの少し顔を向けた。


「……すごい、という表現は曖昧ですが。

精霊との契約適性を持つ者、特異な感応力を持つ者、王命によって推薦された者。

選ばれた者たちの学び舎であることは確かです」


それだけを言って、また視線を窓に戻す。


(……ううっ……会話が続かない……)


そう思ったカナだったが、不意に彼が付け加えた。


「あなたのような“聞こえる者”は、特に珍しい」


「……え?」


「王都にも、声を感じる者は稀にいます。

けれど、はっきりと“聞こえる”と証明された例は、何年かに一度あるかないか」


エリアスは淡々と告げる。

その瞳に浮かぶのは――ただ、静かな観察だった。





しばらく沈黙ののち、揺れる馬車の中で、カナはぽつりと口を開いた。


「……でも、不思議ですよね。

精霊と話していると、すごく楽しくて。

とても元気をもらえる気がします」


「……楽しい?」


エリアスが静かに問い返す。


カナはこくりと頷き、どこか嬉しそうな顔で続けた。


「はい。個性がありますよね。

姿も、とっても綺麗なんです。

光が透けて、花びらみたいに舞ったり……」


その瞬間だった。


エリアスの瞳が、大きく見開かれた。


「……姿が、見える?」


馬車の揺れが止まったわけでもないのに、空気がぴたりと凍りついたように感じられた。

カナは驚いて、思わずエリアスを見返す。


「え? 

……はい。普通に。

って、私……何かおかしなことを言いましたか?」


沈黙。

その後、エリアスは小さく息を吐き、低い声で呟いた。


「……それは……ありえない」


「え?」


「いや、失礼。

だが……精霊と“会話”できる者は、何年かに一人いればいい方だ。

だが、それはあくまで、“声を聞き取る”という意味での会話。

言葉を投げても、返答など……」


彼は、口調を取り繕うのも忘れ、

信じられないものを見るような目で、カナを見つめていた。


「まして、姿が“見える”とは……精霊庁でも、ごく一部の聖域でのみ確認された、伝承上の現象だ。

……君は、本当にそれが見えるのか?」


「……はい。見えてます。

ずっと、当たり前のことだと思ってましたけど……」


カナの答えに、エリアスはしばらく言葉を失った。

彼の指先がわずかに震えていた。


「――それは、“視霊(しれい)(さい)”。

……精霊の真形(しんけい)を認識できる、極めて特異な能力だ。

……いや、それ以上かもしれない。

もしかして、精霊の方から名乗ったり、君の名前を呼んだりも?」


「……え?

あ、はい。風の精霊シルヴィアが、カナ、って呼んでくれてますし、

風の子たちも同じように……」


その言葉に、エリアスの顔から血の気が引いていくようだった。


「……王立学園だけで済む話ではないかもしれない。

……いや、これは、陛下への直接報告事項になる可能性すら……」


エリアスは俯くとぶつぶつと呟く。


カナは、少し身を乗り出して聞く。


「あの、それはそんなにすごいことなんですか? 

……私には、友達みたいな感じなんですけど……」


エリアスは返す言葉を見つけられず、ただ深く座席にもたれかかった。


精霊が自ら姿を現し、名を名乗り、言葉を交わす。

その奇跡のような事実が、目の前の少女にとっては日常――


「……精霊たちは、君に何を見ているんだ……?」


彼の声は、風に消されるほどに小さかった。

そして、馬車はそのまま森を抜け、徐々に王都への道を進んでいく。

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