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精霊たちと話せるので、転生先で聖女になりました  作者: 高梨美奈子


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深夜の語らい

ほどなくして皆が退出し、室内にはジグとギルノードだけが残された。

静けさが戻った執務室で、ギルノードはソファーにもたれ腕を組むと、低く息を吐いた。


「……あれほど潜入に反対していたお前が、イリシャとリゼアの名を出した時は、正直驚いたぞ」


ジグは小さく肩をすくめる。


「……はい。驚かせてしまい、申し訳ありませんでした。

呪いが解け、魔力が戻ってきたからこそ、口にできた提案です。

以前は……私一人でも厳しかったですから」


「そうか」


ギルノードは短く頷いた。


「しかし、一体いつあのような魔法を覚えた……? 

――ああ、いや、詮索はよそう」


短い沈黙のあと、彼は柔らかく微笑む。


「本当に良かったな、ジグ」


「はい……ありがとうございます」


ジグは目を伏せ、左腕を撫でる。


「今でも……信じられません。

まだ、夢の中にいるようで」


「……そうか。

ああ……そうだな。俺もだ」


ギルノードはつと立ち上がると、背後の扉を開いた。

棚の奥から酒瓶を取り出すと、グラスを二つ満たし、一つをジグの前へと置く。


「……団長、これは?」


ギルノードは正面に腰を下ろし、杯を掲げると、静かに告げた。


「……ジグレンツァ・ファルグレイスに、乾杯」


ジグの目が大きく見開かれる。


「なっ……! い、ま……なんと……!」


ギルノードは答えず、杯をあおった。


「ジグ・ダボットは、もういない。

今、俺の目の前にいるのは――ジグレンツァ・ファルグレイスだ」


「それ、は……」


言葉にならない声が喉から漏れ、ジグの瞳から、はらはらと涙がこぼれ落ちる。

彼女は思わず俯いた。


「……お前は、このゼンウェール行きを最後に、隊商から身を引くんだそうだな?」


はっと顔を上げたジグに、彼は微笑み、立ち上がる。

ギルノードの声は静かだった。


「ならば……」


その手が、そっと彼女の肩に置かれた。


「戻って来い、ジグ。

皆が、待っている」


ジグは再び、視線を落とす。


「……何を……。

私の、腕は……」


「知っている」


ギルノードは頷く。


「だから何だ? 

俺たちは待つ。方法も探す。

一人で探すより、大勢で探した方がいいだろう?」


その声音には、迷いがなかった。


「きっと方法はある。……必ず、見つかるさ」


堰を切ったように、ジグの涙が止まらなくなる。


「団、長……っ……!」


「お前の知識、経験、そのすべてが武器だ」


ギルノードは静かに続ける。


「それを俺に、俺たちに託せ。お前の未来を預けろ。

――参謀となれ、ジグ」


そう言うと彼は執務机へ向かい、一本の短剣を取り出した。


「……それは……っ!」


見間違えるはずがなかった。

辺境伯軍の紋章を刻んだ短剣。


かつて、彼女自身が佩いていたもの。


ギルノードが刀身を抜く。

長い時を経てもなお、鈍らぬ輝き。

それは、彼女の手を離れた後も、大切に扱われてきた証。


手入れされ続けていた刃は、”戻ると、信じていた”という、無言の証明だった。


「あ……あ……なんて……」


ジグは右手で顔を覆った。

そして崩れ落ちるように跪くと、右手を胸に当てる。

その肩は、小刻みに震えていた。


ギルノードは静かに、その刀身を彼女の前に掲げる。


「ギルノード・クラヴィスの名において命じる。

ジグレンツァ・ファルグレイスを、我が辺境伯軍副団長、参謀として任ず」


「……あ、りがたき……幸せ……」


滂沱の涙の中で、ジグは深く頭を垂れ、言葉を絞り出す。


「我、()()()()()()()()()()()()()は……。

この身朽ちるまで、辺境伯軍に心からの忠誠を、誓います」


キン――と澄んだ音を立て、刀身が鞘に収められる。

ギルノードは短剣を、ジグへと差し出した。


「これは仮だ、ジグ。

この身分が、お前を助けることもあるだろう。必ず戻れ。

正式な任命は、皆の前で行う。忘れるな」


ジグの瞳に、光が宿る。


「はい……必ず」


『鋼の鷹』――。

その二つ名のとおり、彼女は再び、大空へ舞い上がる翼を広げたのだった。



――そして、早朝。

隊商主、マスター・ジグは、見慣れぬ女性二人と共に、朝靄の中へと消えて行った。

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― 新着の感想 ―
ギルノード様が男前すぎて・・・脳内で悶えております。素敵っ!! ジグ様が戻ってくるのを、待っていた、のではなく、「信じていた」というところに泣きました。 大好きなエピソードです。
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