執務室で5
ジグの手が淡く光った、次の瞬間――
そこに立っていたのは、髪の色も、瞳の色も、輪郭さえも異なる――見知らぬ男性の姿があった。
誰もが息を呑む中、かすれた声が零れた。
「……えっ?!」
ティリアだった。
思わず一歩踏み出し、鼻先をくい、と動かす。
「うそ……? あ……いや、でも……匂いは、ジグ、様……?!」
彼女の戸惑い混じりの呟きに、男性はわずかに口元を緩める。
そして、再び手を掲げると、魔力を解いた。
光が解ける。
そこに現れたのは、見慣れた、穏やかな笑みを浮かべるジグの姿だった。
「……ジグ。今のは?」
レイナルトの問いに、ジグは静かに頭を下げる。
「……恐れながら。
変身魔法、です」
レイナルトは絶句した。
「……認識阻害を起こさせるもの、ではないんだな?」
「……はい」
「そうか……。
そのような魔法、今まで、聞いたことがないぞ?」
「はい。
私も、長く旅をしてきましたが、聞いたことは、ありません」
ジグは淡々とした口調で答えた。
その声には、積み重ねられてきた時間が滲んでいた。
「幾度となく、これで危機を乗り越えてまいりました。
ただし……ティリアさんのおっしゃるとおり、匂いまでは変えられません。
ですので、獣人の皆さんには効きませんが」
ジグは、わずかに苦笑すると、ギルノードへと視線を向ける。
「団長。
……よろしいでしょうか?」
ギルノードは、無言で頷いた。
それを合図に、ジグはイリシャとリゼアへと向き直る。
「……では、お二人とも。
少々、失礼いたします」
差し出された手から、再び光が溢れる。
淡い輝きが収まったとき、そこに立っていたのは――
二人とは、似ても似つかぬ、精悍な雰囲気を纏った女性が立っていた。
「え……? リ、リゼアよね……?」
二人は、お互いを見て、目を瞬かせる。
「う、うん。
えっと……本当に……イリシャ……?」
ジグは、目を細めると、穏やかに問いかける。
「さすがに、性別を変えるのは、お二人には無理があるかと思いましたので。
……いかがでしょうか?」
その言葉に、ギルノードの朗らかな笑い声が室内に響く。
「ははは!
すごいな、ジグ!
二人だと……全く、わからん!」
「まあ……。
素敵よ、二人とも」
微笑みながら鏡を渡すエフィの言葉に、イリシャは、照れたように視線を逸らす。
「……お姉さま……っ」
リゼアは鏡を覗き込むと、小さく息を吸い、前を向いた。
「本当に……すごい魔法。
これなら、誰も……私たちだって、分からないね」
二人の瞳に、強い光が宿った。




