執務室で4
ジグは、目を丸くしているエフィを見やり、それから、ギルノードへ視線を移した。
その口元に、静かな微笑みが浮かぶ。
「レイナルト殿下とエフィ様の潜入は、ゼンウェールの“内情”を把握するためだと、伺いました」
静かな声音だった。
「……“内情”を把握し、いざという時は、王国が後ろ盾となる……ならば。
より深く、“内情”を探り、確かな証拠を集める必要がある、ですね?」
ジグは、わずかに笑みを深めた。
「イリシャ様とリゼア様。
お二人とも、驚くほどの力を身につけておられるのがわかりました。
こちらで商談に引き付けている間、何かしらを探り出すことは、十分に可能かと」
沈黙が落ちた。
「……お父様……」
エフィが、不安と決意の入り混じった視線を、ギルノードへ向ける。
ギルノードは、すぐには応えなかった。
顎に手を添え、視線だけをジグに向け、短く問う。
「それで?」
「まずは、私と共に、先に隊へ戻っていただきます。
城下で出会った用心棒、という立場であれば、怪しまれません」
そして、静かに続ける。
「その上で、殿下とエフィ様を迎え入れる準備を整えます。
お二人の力であれば、警護という立場にも、周囲を探る立場にも、どちらにも動けます。
……いかがでしょうか?」
ギルノードは、しばし黙考し、やがて口角をわずかに上げた。
「……なるほど。
実戦の経験を積ませる、か……?」
やがて、彼は小さく頷いた。
「エフィ。二人を、呼んでくれ」
静かな室内に、次なる一手が刻まれた。
*
やがて、イリシャとリゼアが部屋へと招き入れられた。
部屋に集う面々に、二人は目を丸くする。
ギルノードとエフィは、一つひとつ、これまでの経緯を語る。
二人は言葉を挟むことなく、ただ耳を傾けていた。
やがて話が終わると、イリシャは驚愕に目を見開いたまま、ゆっくりと息を吐く。
「カナ……あなたって……」
その先の言葉は、声にならなかった。
言葉の続きを探すように口を閉ざし、ただ息を呑む。
驚愕と、理解と、畏敬が入り混じった表情が、そのまま彼女の胸中を物語っていた。
一方、リゼアは、堪えきれずに俯き、肩を震わせる。
溢れた涙が床に落ちる前に、彼女は必死に唇を噛みしめた。
「ジグ様……本当に……良かったです……っ」
「ありがとうございます、リゼア様」
その震える声に、ジグは柔らかく微笑み、短く頷いた。
そして最後に、ジグとギルノードから、潜入についての話が告げられる。
二人は顔を見合わせ、ほんの一瞬だけ視線を交わしたのち――同時に頷いた。
「承知いたしました。お父様、ジグ様」
「私たちの力が、お役に立つのであれば」
その表情には、覚悟を帯びた精悍な影が宿っている。
ジグはその様子に、穏やかに微笑む。
「お二人とも……頼もしい限りです」
彼女はそう言って頷くと、静かに、自らの右手を胸の前へとかざした。
「……それでは、皆様。
改めて……」
室内が、静まり返る。
「私の力を――お見せいたします」
次の瞬間、彼女の手のひらから、ぽわり、と、淡い光が生まれた。




