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精霊たちと話せるので、転生先で聖女になりました  作者: 高梨美奈子


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執務室で3

彼らを執務室に見送ってから、どれほどの時が過ぎただろうか。

沈黙だけが、ギルノードとレイナルトの間に、澱のように溜まっていた。


――ギイ……ッ。


扉のきしむ音に、ギルノードははっと顔を上げる。


「……エフィ」


呟きに応えるように、エフィは静かに頷き、一礼した。


「レイナルト殿下、お父様……。

……お待たせいたしました」


その一言に、ギルノードの喉が、ひくりと鳴った。

彼はレイナルトと視線を交わし、何も言わぬまま部屋へ足を踏み入れる。


ギルノードの視線は、抗いようもなくソファへと吸い寄せられた。


そこには立ち上がったジグがいた。

抑えきれぬ喜びを湛えた満面の笑みで、彼女は力強く頷く。


「……団長……っ!」


かつて黒く、醜く歪み、呪物と化していた左腕は、今、人の肌の色を取り戻し、確かに“生きた腕”として、そこにあった。


その光景を目にした瞬間、ギルノードは足を止める。


「あ、あ……」


声が、喉で詰まった。

その大きく、武骨な手が顔を覆った。


「そ……うか……! よか……った……っ!!」


続く言葉が見つからない。

やがて、かすかに震える声で、ようやく言葉を紡いだ。


「……カナ、様……ディオリア……様……っ!」


胸の奥から絞り出すように。

その声は、感情を必死に抑えながらも、僅かに揺れていた。


「……心からの、礼を……申し上げる……っ!」


深く。

ただただ深く、深く、頭が下げられる。


そして――。

ぽつり、と。


その瞬間、ギルノードの足元に、一滴の雫が落ちた。

彼はぐい、と親指で顔を拭い、その痕跡を無言のまま拭い去る。


誰も、何も言わなかった。

言葉は、必要なかった。


床にこぼれたその一滴は、絨毯に、音もなく、静かに吸い込まれていった。





「そん、なことが……」


しばしの後。

ソファーに腰を下ろし、腕を組んだまま、ギルノードは彼らの話に耳を傾けていた。

短く吐かれたその言葉には、安堵と、なお消えぬ緊張が混じっている。

室内には、先ほどまで満ちていた奇跡の熱が、淡い余韻となって残っていた。


レイナルトは、静かに視線をカナへと向ける。


「カナ。本当に、身体や魔力に問題は無いんだな?」


案じる色が滲む問いかけに、カナは柔らかな笑みを浮かべ、こくりと頷いた。


「はい、レイナルト様。

先ほどお伝えしたとおり、精霊石が砕けてしまいましたが……。

私自身は、何ともありません」


「そうか……」


レイナルトは小さく息を吐く。


「いや、心配していたからな。

精霊石は……残念だが、その役目を終えたのだろう。

カナに何もないのなら……良かった」


「ありがとうございます、レイナルト様」


その言葉に、カナは穏やかな笑みを返した。


ジグはその様子を見つめ、穏やかに目を細める。

そして、感謝を宿した微笑みをカナに向けた後、視線をギルノードへと移した。


「それで……団長。

呪いが解けたことですが、辺境伯領を離れるまで、周囲には伏せておこうと思います」


ギルノードは頷いた。


「ああ。そうだな。

下手に知られれば、変に勘繰られるからな」


「はい」


ジグもまた、静かに頷く。

そして、一拍の沈黙ののち、言葉を選ぶように続けた。


「それと……ご相談なのですが……」


「何だ」


促すギルノードの声に、ジグはまっすぐに顔を上げた。

その瞳が、わずかに光を帯びる。


「イリシャ様とリゼア様も……。

レイナルト殿下とエフィ様とご一緒に、来ていただくことは……可能でしょうか」


その言葉に、エフィは目を見開き、ギルノードはわずかに眉を上げた。


「……ほう?」


部屋の空気が、静かに張りつめる。


「……理由を、聞こうか」


ジグは、その視線を正面から受け止め、静かに息を吸った。

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