ジグの訪問5
カナの手のひらに現れた精霊石を見て、ディオリアは思わず目を見開いた。
『……カナ、それは……?
とても、強い力を感じるけど……?』
カナは一度、深く息を吸った。
そして、その石が自分のもとへ至るまでの経緯を、静かに話し始めた。
エリアスから託された日のこと。
聖環の塔。
そして――精霊祝祭の祈り。
「……聖環の塔で、生まれた……?
そんなことが……あったのですね」
エフィが、静かに言う。
カナは頷いた。
「はい。
この石が、今ここに現れたのは……きっと、助けてくれるのだと思います。
でしょう? ディオリア」
ディオリアは頷いた。
「うん。そうだね。
力だけじゃない。その石から、強い意志も感じるよ」
「よかった……!」
カナは微笑むと、まっすぐにジグを見つめる。
「ジグ様。
ディオリアも、精霊石も力を貸してくれる……。
これで、きっと……大丈夫です!
私も、全力を尽くします」
その言葉を聞いた瞬間、ジグの瞳から、静かに涙が溢れ落ちた。
「ああ……これは、夢、なのでしょうか……?」
震える声で、ジグは言う。
「呪いを、解けると……思える日が来るなんて……」
彼女は、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「隊商に加わったのは……隊商ならば、旅の中で解呪師に出会えるかもしれないと、思ったからです。
噂を聞けば、どこへでも行きました」
震える声で、ジグは語り始めた。
「実際、数え切れないほどの解呪師に会いました。
けれど……解ける者は、一人としていませんでした」
記憶を辿るように、視線を伏せる。
「評判を聞きつけ、藁にもすがる思いで面会にこぎつけても……。
見ただけで腰を抜かす者。
あるいは、金を積めば治ると、高い金子を要求するだけの……詐欺師」
ジグは苦笑する。
「もう……疲れ果てていました。
諦めていたのです。
それなのに……」
彼女は、ゆっくりと膝を折り、跪いた。
右手で涙を拭うと、深く、深く頭を下げた。
「苦痛を伴う? ……大いに結構です。
魔力など、枯渇しても構いません。
この身が、呪いから解き放たれるのであれば……何も、求めるものはありません」
必死に声を振り絞る。
「……お願いします。
聖女様、ディオリア様……どうか、どうか……っ……」
その真摯な声に、ディオリアは静かに頷いた。
『任せて、ジグ。
僕も……全力を尽くすよ』
そしてふわりと舞い上がったディオリアは、カナの肩へと降り立つ。
『……エフィ。お願いがあるんだけど。
ここは、声が響く。
ジグのために……どこか、他の部屋はないかな?』
エフィは顔を上げた。
「はい。遮音の魔術が効くお部屋は……」
その時。
低い声が、扉の方から響いた。
「――俺の部屋を使え、ジグ」
一同は、ハッとして振り向く。
扉の傍に立っていたのは、ギルノードとレイナルトだった。
「だ、団長……っ?」
ジグの声が震える。
「お父様……?!」
エフィも、驚きに目を見開いた。
ギルノードは、にやりと口角を上げると、レイナルトに視線を向ける。
「ほう。
誰も、俺たちの気配に気づかなかったようだぞ?」
レイナルトは、申し訳なさそうに眉を下げる。
「すまない。ジグに用があった。
……立ち聞きするつもりは、なかったのだが」
「……そういうことだ。ま、冗談はさておき……」
ギルノードは一歩、部屋へと足を踏み入れると、カナの前で、深く頭を下げた。
「……なっ……! ギ、ギルノード様……っ?!」
驚くカナに、ギルノードは真剣な眼差しを向ける。
「カナ様。
私からも、お願い申し上げる」
ギルノードの声は、重かった。
「彼女の呪いは……俺の責任だ。
あなたのお力に縋りたい。
どうか、呪いを消してやってくれ。
できる協力なら、何でもする。
……お願いだ……頼む」
その言葉に、ジグの瞳から、再び涙が溢れた。
「……団長……っ!
あなたと……いう人は……っ!」
絞り出すようにこぼれたその一言が、静かな部屋に、深く染み渡っていった。




