ジグの訪問4
カナは、エフィとティリアへ視線を向けた。
「お二人とも……退出をお願いすることは、できますか?」
その声に、エフィは目を伏せ――やがて、深く頭を下げた。
「……お許しください、カナ様」
そして顔を上げると、今度はジグへ真っ直ぐに視線を向けた。
「ジグ様。
クラヴィスの者として……どうか、この場にいさせていただけませんでしょうか」
その真剣で切実な眼差しに、ジグは思わず言葉に詰まり、わずかに身を引いた。
「え……? エフィ様……。
ですが……」
エフィは一歩前に出ると、再び、深く頭を下げた。
「……お願いいたします。
父、ギルノードに代わり……どうか」
その名が出た瞬間、ジグの肩が、わずかに揺れた。
彼女は視線を伏せ、短い沈黙ののち、静かに息を吐く。
「……わかりました、エフィ様。
ですが……とても、不快に思われるかもしれません。
それでも、よろしければ」
エフィは、迷いなく頷いた。
その隣で、ティリアが思い切ったように口を開く。
「あ、あの……。わ、私も……どうか、この場にいさせてください。
お手伝いできることがあれば、何でもします。ですから……!」
その必死な懇願に、カナは一瞬、言葉を失い、ジグを見る。
ジグは微笑み、静かに頷いた。
「お優しいのですね、ティリアさん。……わかりました」
そう言って、ジグが再び、左腕を覆う布へと手を伸ばした――その時。
『――ちょっと待って、ジグ』
ジグは、はっとして手を止めると、声の主を見やった。
「……どうかされましたか、ディオリア様?」
光龍は、ジグの左腕を見つめたまま、口を開いた。
*
『氷雪の精霊たちのお陰で……僕の目に、君の呪いが見えたんだ』
澄んだ声が空気を震わせる。
『これは、君の身体に直接刻まれた呪いだ。外側から祓うことはできない。
解くには……カナが、直接触れるしかない』
その言葉に、ジグは目を見開いた。
「呪いが……見えた?
い、今……呪いを、解くと……仰いましたか……?」
声が震える。
『うん。カナなら、解けるはず。だけど……』
ディオリアは、言葉を切った。
躊躇いが滲む。
『……まず一つ。相当な苦痛を伴う。
そしてもう一つ……君自身も、相当な魔力を消費する』
ディオリアは続ける。
『それに、耐えられるかどうか。
そして――』
ディオリアは、そっとカナへと視線を向けた。
『カナの魔力が、耐えられるかどうかを、僕は心配してる』
「ディオリア……」
思わず漏れたカナの声に、彼は小さく首を振る。
『もちろん、僕も魔力を渡すよ。
僕の魔力で氷雪の加護を高めたうえで、ヴェルデンの魔力で癒せれば、きっと、可能なんだ……!』
その瞬間。
カナの手のひらに、淡い光が集まり始めた。
(……えっ?)
驚きに目を見開く前で、光は静かに収束する。
やがて、そこに残ったのは――
蒼白な輝きを宿した、一つの石だった。
(これは……。
エリアスさんがくれた……聖環の塔の、精霊石……?)
胸の奥が熱を帯び、何かが確かに繋がる。
(そうか……これだ! これが、あれば!)
その輝きは、希望の光にも見えた。
そして、運命が、回りだす。




