隊商主・ジグ4
夕食は、穏やかで心地よい時間となった。
ジグは話し上手だった。
彼女は巧みに話を紡ぐ。
隊商として、各地を巡ってきた冒険譚を生き生きと語る。
名も知らぬ遠国、見たことのない風景。
砂の海を越えた話、雪深い峠を抜けた話――。
そして、夜の焚き火の匂い。
イリシャとリゼアは身を乗り出し、その一言一句に耳を傾け、目を輝かせて聞き入った。
ジグの言葉は、聞く者の脳裏に、鮮やかな情景を描き出していく。
口にしたことのない料理や菓子。
異国の香辛料の刺激や、甘い果実の舌触りまでが、言葉となって描き出される。
折々に、小さな笑い声がこぼれた。
そうして気づけば、皿は空になり、杯も満たされては空になっていった。
誰もが、料理と語られた物語、そのどちらもを静かに味わい尽くしていた。
それは不安や緊張を忘れさせ、本当に、心に残る楽しい夕食となったのだった。
*
カナが部屋に戻り、就寝の支度を整えていたとき、控えめなノックの音が響いた。
(あ……。
エフィさん? それともティリアさんかな?)
「はい」
そっと扉を開けたカナは、思わず息を呑んだ。
廊下に立っていたのは、ジグだった。
「……えっ! ジグ様……?」
ジグは柔らかく微笑むと、丁寧に一礼する。
「聖女様。夜分に失礼いたします。
少し……お話しできませんか」
カナは驚きから我に返ると、慌てて扉を大きく開いた。
「あ、はい。もちろんです。
どうぞ、お入りください」
「失礼いたします」
室内に足を踏み入れたジグは、穏やかな調子で付け加えた。
「あ、聖女様。念のためですが……レイナルト殿下の許可は得ております。
どうぞ、ご安心ください」
「そう、なんですね」
微笑むカナに、ジグは肩をすくめるように言った。
「はい。『俺とカナの時間を奪うのか!』と、ひどく怒られましたが」
「……えっ!?」
驚きに目を見開くカナに、ジグは肩を揺らした。
「すみません。冗談です。
あ、ですが、そう思われていたことは確かだと思います」
くすくすと笑う声が、夜の静けさに溶ける。
だが、ほどなくジグは表情を引き締め、その笑みを消した。
「聖女様」
ジグは声音を改める。
「レイナルト殿下とエフィ様をお連れするにあたり……。
聖女様には、私が受けた呪いについて、包み隠さずお話ししておくべきだと考えました。
そのために、こうして伺った次第です」
ジグは一度視線を落とし、静かに息を整えると、再び顔を上げる。
「何からお話しするべきか、正直迷いました。
ですが……ご覧いただくのが、一番早いでしょう」
そう言うと、彼女はマントを外し、留め具を解き、装備を一つずつ外していった。
やがて軽装になると、ジグはまっすぐにカナの目を見つめる。
「……聖女様。これが、今の私の現状です。
お見苦しいものをお見せする無礼を、どうかお許しください」
そして彼女は、左腕を吊っていた布に手を掛けた。
結び目が解かれ、覆いが外されていく。
静まり返った部屋に、布の落ちる音だけが、ひどくはっきりと響いた。
その瞬間、部屋の空気が、ひたりと止まった。




