隊商主・ジグ3
話し合いは、平行線をたどった。
言葉を尽くし、理を示しても、ジグは首を縦に振らない。
執務室に満ちる沈黙は重く、もはや物別れは避けられぬかと思われた、その瞬間――
ふわり、と。
室内に、淡い光が満ちる。
ギルノードとジグは反射的に身構える。
しかし、張り詰めた空気を裂くように、エフィの凛とした声が響いた。
「大丈夫です。お父様、ジグ様。
どうか、落ち着いてくださいませ」
光の中心で、形が結ばれていく。
やがて、気高い輝きを纏った、一柱の龍が現れた。
『レイナルト、エフィ。
僕も行くって言えばいいのに』
「ディオリア様……それは……」
レイナルトが小さく息を呑む。
『言わないからさ。もう、自分で言うことにしたよ』
ギルノードは目を見開き、かろうじて声を絞り出した。
「レ、レイナルト……?
え? ディオリア様が一緒に……?」
ディオリアは舞い上がると、ジグを見た。
『僕は光龍、ディオリア。聖女カナと共に在る者だよ』
穏やかな声だが、威を帯びて響く。
『僕もレイナルトと一緒にゼンウェールへ行く。
それなら……良いでしょう?』
そう言うと、ディオリアは国境の森で交わした話を、二人に語った。
『だからさ。考えてみてよ、ジグ』
話を聞き終えると、ジグは顎に手を当て、しばし黙考した。
やがて、ゆっくりと息を吐く。
「なるほど……そう、ですか。
それなら……」
視線を上げ、静かに言葉を続ける。
「監察官の前では武装を解かされます。
殿下とエフィ様を、危険に晒すわけにはいきませんから。
……ですが、ディオリア様のお力添えがあるのであれば」
静かな声音で、結論を紡ぐ。
「……分かりました。
――この話、お引き受けいたしましょう」
張り詰めていた空気が、わずかに緩む。
レイナルトはほっと息をつき、柔らかな表情で頷いた。
「……良かった。頼むぞ、ジグ」
「はい、殿下」
ジグは頷くと、続けた。
「お二人には、私の“客”という形で合流していただくのがよいでしょう。それと……」
わずかに苦笑する。
「……申し訳ありませんが、隊の中では、どうしても言葉遣いが荒くなります。
どうか、その点はご容赦ください」
レイナルトとエフィは、静かに頷いた。
ギルノードは大きく息を吐き、肩の力を抜く。
「おお、ようやく話がまとまって、ほっとしたぞ」
そして、重い空気を断ち切るように笑う。
「なあ、ジグ。今日は泊まっていけ。
エスティーヌも、お前と話したがっていた。部屋を用意させよう」
ジグは一瞬言葉を失い、やがて微笑むと深く頭を下げた。
「……団長。ありがとうございます」
そして顔を上げると、集まった面々を見渡した。
「では、私は明日いったん隊に戻り、お二人を迎え入れる準備をいたします。
準備ができ次第、改めてお迎えに参りますので……よろしくお願いいたします」
その言葉に、皆が固く、真剣な表情で頷いた。
その空気を、豪放な声が破る。
「はっはっは!
よし、それじゃあ飯にしよう! 腹が減っては何とやら、だからな!」
「もう……お父様ったら……」
エフィは小さく微笑み、肩をすくめた。
張り詰めていた緊張は、ようやく夜の帳に溶けていった。




