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【19万PV突破!】精霊たちと話せるので、転生先で聖女になりました  作者: 高梨美奈子


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隊商主

執務室には、静かな時間が流れていた。

積み上げられた書類に目を落としていたギルノードの視界に、ふわりと淡い光が浮かび上がる。


(……エフィ、か?)


ギルノードは眉をわずかに動かし、指先に魔力を乗せた。

呼応するように光は揺らぎ、やがて輪郭を得て、声となる。


『……お父様。殿下と私で、ゼンウェールへ潜入希望。

至急、ジグ様にお取り次ぎを』


それだけを告げると、光は霧が散るようにほどけた。

執務室には、再び静寂が戻る。


「……」


(一体……国境の森で、何があった?)


ギルノードは椅子に深く身を沈め、天井を仰いだ。

古い梁の影が、日差しに揺らぐ。


「やれやれ……」


独り言を落とし、低く息を吐く。


「……まったく。はねっ返り娘の頼みとあらば――」


口元に、わずかな笑みが刻まれた。


「一肌脱がんわけには、いかんな」


そう呟くと、彼は静かに立ち上がった。





ギルノードは愛馬オルタスに跨り、国境へと続く道を駆けていた。

乾いた蹄音が、春の空気を切り裂く。


やがて、小さな村が見えてきた。

その外れに、幾つもの天幕が整然と張られている。

ジグ率いる隊商の野営地だった。


荷馬車が円を描くように並び、見張りの影が行き交う。

長い街道を知り尽くした者たちの、独特の空気がそこにあった。


ギルノードはオルタスから降りると、手綱を引きながら隊商へと歩み寄る。


「えっ……あ、こ、これは……閣下?」


隊商の一人が目を見張り、慌てて帽子を取る。


「えっと、ボスに御用ですかい?」


「ああ。いるか?」


「ちょうど今、村長のところに出向いておりやして……。

もう帰ってくると思いますんで、ボスのテントでお待ちになりますかい?」


「そうだな。待たせてもらおう」


ギルノードは頷くと、天幕の中へと入った。

――待つこと、数刻。


外がにわかに騒がしくなり、足音と低い声が交錯する。

やがて、入り口の天幕が押し上げられ、一人の人影が姿を現した。


「お待たせして申し訳ありません、閣下」


旅装のまま、隊商主――ジグは一礼する。


「我らを訪ねて来られるとは……。

何か、ありましたか?」


ジグの瞳に鋭さが混じる。

ギルノードは椅子に腰掛けたまま、静かに応じた。


「ああ……。折り入って、お前に頼みがあってな」


「……頼み、ですか?」


その言葉に、ジグはわずかに目を細めた。


「入手をご希望のお品がある、という話ではなさそうですね?」


ギルノードは答えず、天幕の内側へ視線を走らせると、遮音の魔術を確かめる。

そして、真正面からジグの目を見据え、口を開いた。


「さすが察するか、ジグ。

単刀直入に言おう。

我が身内の者を――ゼンウェールに連れて行ってほしい」


空気が張り詰める。

ジグの目が大きく見開かれた。


「お身内……?!

閣下、一体、何を……?!」


ギルノードは静かに頷いた。


「いや。俺も、無茶なことを言っている自覚はある。

……夕刻、城に来てほしい。できるか?」


短い沈黙が流れる。

やがてジグは、ふっと息を吐くと、僅かに口元を緩めた。


「相変わらずですね、閣下」


肩をすくめるようにして、続ける。


「承知しました。

ただ……お受けできるかどうかはお約束できません。

お話を伺うだけでもよろしければ」


「……悪いな」


ギルノードは、短く息を吐くと立ち上がる。


「では、待っている。頼むぞ」


「承知いたしました」


全ては、今宵。

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