国境の森へ2
銀の鱗を震わせ、ディオリアは静かに大地を蹴る。
カナたちは再びディオリアに身を預け、国境の森へと向かった。
空気は澄み、遠ざかる辺境伯領の花の丘が、次第に視界の奥へと溶けていった。
国境へ近づくにつれ、ティリアの表情は少しずつ硬くなっていく。
耳は垂れ、先ほどまで無邪気に揺れていた尻尾も、いつしか動きを止めていた。
その変化に気づき、エフィはそっと彼女に視線を向ける。
「……ティリアさん」
名を呼ばれ、ティリアははっとしたように顔を上げた。
「あ……申し訳ありません、エフィ様。
あまりにも……夢のような時間を過ごさせていただいたものですから……」
風に紛れて消え入りそうな、小さな声。
ティリアは視線を伏せた。
膝で絡めた指先が、微かに震える。
「……戻りたい、という気持ちに、嘘はありません。
兄も、村の皆も……心配しているはずですから。
です、が……」
その声が、かすかに掠れる。
次の瞬間、ぽたり、と、金色の瞳から、一粒の雫がこぼれ落ちた。
「……エフィ、様……っ」
風に撫でられる髪の隙間から、細く震える肩が見える。
「どうして……私は……。
帝国に、生まれてしまったのでしょう……」
その問いは、ただ己の運命に向けられた、静かな嘆き。
押し殺した嗚咽が、風音に紛れて漏れる。
エフィは唇を噛みしめた。
どんな慰めの言葉も、この少女の問いに応えることはできない。
ただ、そっとティリアの傍らに寄り添い、背を撫でる。
ディオリアは何も言わず、翼の羽ばたきを、ほんのわずかに緩めた。
国境の森は、すでに遠くに見えていた。




