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【17万PV突破!】精霊たちと話せるので、転生先で聖女になりました  作者: 高梨美奈子


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ゼンウェール自治領

「ティリアはどこへ行ったぁーっ!!」


ガッシャーン――!


陶器の砕け散る音が、広すぎる屋敷に響き渡った。

控えていた獣人の女性が、震えながら欠片を拾い集める。


ここはゼンウェールの地。

帝国から派遣された常駐監察官――ボルドゥン・ヘルマーの屋敷。

金と宝石をこれでもかと貼り付け、獣人たちの恭順を嘲笑うかのように輝いている。

その装飾が、かえって悪趣味さを際立たせ、周囲の獣人たちの貧しい住まいとはあまりにかけ離れた、品位も教養も欠いた豪奢の塊。


肥え太った代官ボルドゥンは、脂ぎった顔を怒りで顔を真っ赤にしながら、目の前に跪くグレイゼルを睨みつけた。

鼻持ちならぬ傲慢さを、全身から放つ男。


「まさか……逃げたのではあるまいな?」


グレイゼルは頭を垂れ、感情を押し殺す。


「いいえ。そのようなことはございません。

薬草を摘みに出て……恐らく、道に迷ったものと」


「ちっ……役立たずの野蛮な畜生どもが……!

わしの支度が終わらんではないか!! 探せ!! 一刻も早くだ!!」


怒声が響く。


悔しさに、グレイゼルの奥歯が、軋みを上げた。

今すぐこの男の喉笛を噛みちぎりたい――

その衝動が胸を灼く。


だが次の一歩を踏み出せば、村ごと炎に呑まれる未来が見えた。


(……駄目だ。今は、まだ――)


拳を握りしめ、グレイゼルは深く頭を下げた。


「……御前、失礼いたします」


ボルドゥンに背を向ける。

重い扉が閉まった瞬間、張り付けていた表情が崩れた。

ようやく呼吸が戻る。


外の空気は冷たい。

だが、己の内側に沸き立つ熱は、冷えることはなかった。


そのとき、影から狼の獣人がすっと近寄ってきた。


「カザン……」


カザンは、目の奥に獰猛な光を潜ませたまま、口を開く。


「外まで響き渡ってたぜ、あのクソ野郎の声。

……ティリアを探しに行くんだろ?」


「……ああ」


グレイゼルは、既にティリアの痕跡を辿り、森で血と壊れた罠を見つけたこと、その気配が途切れていたことを告げる。


カザンは唸るように呟いた。


「……ってことは、もしかしたら、誰かが助けてくれたのかもしれねぇ、ってわけか?」


「そうだ」


「……あんな場所で?」


「ああ……とても信じがたいが。

……そうであってほしいと願っている」


カザンは苛立ちを隠さず、突然、グレイゼルの胸ぐらを掴むと、荒々しく物陰へと引きずった。


「なあ、おい、グレイゼル!

お前はいつまであのクソ野郎の靴を舐めて生きる気だ!

お前はそんな腑抜けじゃなかったはずだろ!」


睨み合う二つの金の瞳。

グレイゼルは静かにその手を払いのけた。


「……落ち着け、カザン」


「落ち着いてられっかよ!」


牙を剥き出し、唾を飛ばす。


「“仕事”とやらで帝都に連れて行かれた連中……音沙汰なしだ。

おかしいと思わねぇのか……?」


沈黙――。

グレイゼルの瞳の奥が、静かに光を宿す。


「わかっているさ……誰よりも。

お前の焦りも、怒りも――全部だ。

だが、今はまだ……その時ではない」


カザンの拳が震え、沈黙が落ちる。

喉の奥で、呻きにも似た息が漏れた。


「本当は……お前だって、わかっているはずだ。カザン」


拳を固く握ったまま、カザンは舌打ちし、地に唾を吐きつけた。


「くそっ……ああ、わかってるさ!

悔しいが――今の俺たちには何もできねえってことをな」


やり場のない怒りが空気に溶ける。

グレイゼルは、静かに仲間の肩へと手を置いた。


「いつか、必ず『機』は来る。

その時まで……焦るな」


カザンは顔を上げ、牙を覗かせると不敵な笑みを浮かべた。


「フン……そうこなくちゃな。

その時が来たら、俺の遠吠えが合図だ。

俺の遠吠えで、帝国の連中が慌てふためく日が――楽しみで仕方ねぇよ」


冷たい風が、二人の毛並みを揺らす。

いつか必ず、自由を――。

彼らは、静かに牙を研ぎ続ける。

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