少女・ティリア3
翌朝。
早い陽光が差し込むカナの部屋に、軽やかなノックが響いた。
「カナ様、おはようございます」
扉を開けて入ってきたのは、エフィ――そしてその後ろに、ティリアの姿があった。
「……えっ!? ティリアさん?」
「はいっ。カナ様、おはようございます!」
耳をぴんと立て、元気よく頭を下げるティリアに、カナは驚きのあまり声が上ずる。
獣人の少女は、昨日とはまるで別人だ。
瞳は澄み、姿勢は伸び、体のどこにも弱さがない。
「お、おはようございます。じゃなくて、え? 本当に、もう大丈夫なのですか?」
ティリアは少し照れたように耳を垂らすと、しっぽを揺らした。
「はい。カナ様のおかげで、もうすっかり。
獣人は丈夫なのです」
そこへ、エフィがくすりと笑って言葉を継ぐ。
「カナ様、驚かれたでしょう?
今朝から彼女は本当にすごいのですよ。身体能力が高いと言いますか……。
夜明け前から、水汲み、薪割り、高所の掃除まで、もう何でもこなしてしまって。
それも、ディオリア様とご一緒に、それはそれは楽しそうに」
「ええっ? ディオリアが、ですか?」
カナは思わず聞き返した。
その目がますますまん丸になる。
ティリアは嬉しそうに頷いた。
「はい。昨夜、ディオリア様が来られて……友人になってくださったのです」
「……! そう、だったのですか……。
あ、いえ、お元気になって本当によかったです。
でも……無理はしないでくださいね、ティリアさん」
「はい。ありがとうございます。
お世話になったご恩を、少しでもお返ししたくて」
そう言って、慣れた手つきでカナの身支度を手伝い始めるティリア。
その所作には迷いがなく、自然と身に染み付いたものだと分かる。
「……慣れていらっしゃるんですね」
カナの声に、ティリアは一瞬だけ笑みを曇らせた。
「はい。帝国において、獣人は奴隷階級ですから……。
もともとこういったことには慣れていますし、働くことは、もうずっと……。
こんなに良くしていただけるなんて……逆に驚いているくらいです」
「……ティリアさん……」
カナの胸に重い痛みが沈む。
その空気を感じ取ったように、エフィが明るく声を弾ませた。
「さあ、カナ様。お支度も整っていらっしゃるようですし、朝食へ参りましょう。
ティリアさんもご一緒に。
朝食が終わりましたら――森までお送りいたしますね」
「はいっ! よろしくお願いいたします!」
ティリアの尻尾がふわりと揺れ、笑顔が花のように咲いた。
カナも微笑みを返す。
朝の柔らかな光の中、三人は談笑しながら部屋を後にした。




