少女・ティリア
「ふむ……」
ギルノードは深く頷いた。
「良い心がけだ。
だが、君は悪意を持って国境を越えたわけではないからな。
あまり無理はするな。ゆっくり休むと良い」
エフィも微笑み、柔らかく言葉を添える。
「ええ。父の言うとおりです。
獣人の方々は身体が丈夫だと伺っていますが……。
もし回復が追いつきましたら、明日、森までお送りしますね」
ティリアは俯き、小さく息を整えると顔を上げた。
「ご厚意に……心より感謝いたします。
あの……もう大丈夫ですので、何かお手伝いできることがあれば、遠慮なく仰ってください」
エフィは目を瞬く。
その純粋な気遣いが、胸に沁みた。
「まぁ……」
ギルノードは朗らかに笑った。
「はっはっは! 元気なお嬢さんだ。
ああ、そうだ――時に少し聞きたいことがあってな――」
ティリアは首を傾げた。
「はい。何でしょう?」
「帝国内では最近、枢機卿が変わったと聞くが……。
ゼンウェールには何か影響は?」
その問いに、ティリアの表情がぱっと明るくなった。
「あっ! そうですね。
ゼンウェールの者の力が頼りになる仕事があるとかで、帝都に若い者たちが出るようになりました」
「……ほう?」
わずかな間――。
ギルノードの声が、わずかに低くなり、その瞳が、笑みとは別に鋭く光る。
ティリアは不安げに身を縮めた。
「……あの、何か……いけませんでしたでしょうか?」
「いや。仕事があるのは良いことだ」
ギルノードは声を柔らげる。
ティリアも安心したように微笑んだ。
「はい。ありがたいことです」
「それと、もう一つ」
「はい」
「君を捕らえていた罠だが――あれは我が王国の物ではない。
……それについて、何か心当たりは?」
ティリアは視線を落とす。
そしてぎゅっと拳を握りしめた。
「……はい。帝国の物だと……聞きました。
それについては、何も……分かりません。申し訳ありません」
「そうか……」
ギルノードは深く頷くと、静かに立ち上がった。
「……いや、知らないのも無理はない。
遅くにすまなかったな。必要な物があれば遠慮なく言ってくれ、準備させる。
では、我々はこれで失礼しよう」
「はい。お言葉に甘えさせていただきます。
本当に……ありがとうございます」
深々と頭を下げるティリア。
彼らが部屋を後にし、扉が閉まった瞬間――。
ギルノードは顔を引き締め、レイナルトへと鋭い目配せを送った。
レイナルトは小さく頷く。
一行は無言のまま、辺境伯の執務室へと向かった。




