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【19万PV突破!】精霊たちと話せるので、転生先で聖女になりました  作者: 高梨美奈子


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獣人の少女5

リゼアが運んできた湯気の立つスープと、優しい甘さの温かなミルク。

それらを口にすると、少女の顔色は、少しずつ血の気を取り戻していった。


しばしの後。


静かな寝室には、カナとレイナルト、エフィ、そして腕を組んで立つギルノードが揃っていた。

揺れる灯りが、淡く室内を照らす。


エフィが、安心させるように穏やかな声で口を開く。


「お目覚めになって良かったです。

私はここ、ヴェルデン王国辺境伯の娘、エフィ・クラヴィスです。

こちらが王太子、レイナルト殿下。そして殿下のご婚約者である、聖女カナ様。

そしてこちらが、クラヴィス家当主にして、辺境伯のギルノード・クラヴィス。


失礼ですが……あなたは、もしや、ゼンウェール族長の、お身内の方ではありませんか?」


少女はベッドに半身を起こしていたが、その言葉に深く頭を垂れる。

細い肩が震えていた。


「はい……。

まずは、助けてくださったことに深くお礼申し上げます。

カナ様……エフィ様……本当に、ありがとうございました」


震える声。


「罠に捕らわれてから数日間……。

私は、死を覚悟しておりました……」


言葉の端々に滲む恐怖。


「私の名は、ティリアと申します。

お察しの通り――ゼンウェール族長、グレイゼルの……妹です」


その名乗りに、ギルノードの眉がわずかに動いた。

ティリアは視線を落とし、小さく握った手を震わせながら続ける。


「母が病を患い、薬草を摘みに出ていたのです。

しかし、我らの領内ではなかなか見つからず……。

気づけば、国境の森に迷い込んでおりました。

立ち去ろうとした矢先――罠に、かかってしまい……」


少女の睫毛が震え、影が落ちる。


「私の不注意により国境を越えてしまったばかりか、

このように命まで救っていただき……感謝の念に堪えません。

このご恩は、兄、族長と共に――。

いつか必ず、お返しさせていただきます」


ティリアは震える拳を膝の上で握りしめ、再び深々と頭を下げた。





その頃――。


グレイゼルは、夜風を切り裂くように森を駆けていた。

月光に照らされた漆黒の毛並みが、刃のように光る。


妹の――ティリアの匂いを追い、ただひたすらに。


森の奥、国境へと近いその場所で、彼は足を止めた。

夜闇に沈む国境の森は、ひどく静かだった。

風の音すら、息を潜めている。


黒豹の姿のまま駆けてきたグレイゼルは、爪の痕が残る木々を鋭い眼で見渡した。

倒れた枝。

踏み荒らされた土。

荒々しく破壊された罠。

土に滲む、獣の血。


そして――。

途切れた、妹の匂い。


(……ティリア)


獣の影が歪み、やがて、夜を纏った青年の姿がそこに立つ。

グレイゼルはひざをつき、地面を手で探る。


「これは……人間の匂い……っ!」


細めた金の瞳に、怒りが宿る。


(連れ去られたのか? 

だが――どうやって?)


グレイゼルは周囲を何度も巡り、木々の影をかき分ける。

だが、どこにも続く痕跡はなかった。


「……無い。何も……残していない」


グレイゼルは立ち上がると、周囲に耳を澄ませた。

しかし森は――沈黙を保ったままだ。


「……くそっ!」


拳を握り、地を強く叩く。

夜の静寂が、小さく震えた。


悔しさが、恐怖が、喉を締めつける。


(ティリア……っ! 無事でいてくれ……!)


唇が裂けるほど噛み締め、空へ向けて吠える。


雲間から漏れた月光が、彼の背を照らす。

その光は、怒りと焦燥に震える獣の影を、長く鋭く引き伸ばしていた。

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