獣人の少女4
カナは落ち着かない様子で、獣人の少女が眠る部屋の廊下を、行ったり来たりしていた。
(どうか……助かって……)
胸の奥で祈りが何度も渦を巻く。
その時――扉が静かに開き、イリシャが顔を覗かせた。
「やっぱり……カナの気配がしたと思ったんだ」
「イリシャ……あの子は、どう?」
イリシャは微笑んだ。
「うん。ずいぶん呼吸も落ち着いてきたよ。
峠は越えたと思う。大丈夫」
「そう……よかった……」
カナが胸を撫で下ろしたその時――
扉の向こうから、リゼアの声が響いた。
「カナ、イリシャ。この子、目を覚ましたよ」
カナはイリシャと顔を見合わせると、扉へと向かった。
*
ぼんやりとした意識の底に、光が差し込む。
瞼を開けると、柔らかな天蓋と、温かな光が視界に入った。
柔らかな布の感触。
薬草の香り。
身体の痛みは……薄い。
自分は――まだ生きている?
(――ここは、どこだろう)
「目が覚めたのね。気分はどう?」
耳に届いたのは、穏やかで優しい声。
はっとして、身体を起こそうとした瞬間、全身から力が抜け、視界がぐらりと揺れる。
「あっ! 無理しないで! まだ寝てなくちゃ!」
焦った声とともに、誰かの腕が支えてくれた。
そのままそっと、ベッドに身体を戻される。
「イリシャ、見ててあげて。
私、何か食べられそうなものを持ってくるから」
「うん。わかった。
お願いね、リゼア」
足音が遠ざかり、扉が閉じる。
静寂が戻る。
(……ここは……どこ?)
怖い。
鼓動が耳の奥でざわつく中、一歩、誰かが近づく気配がした。
視線を向けると、黒髪の少女がこちらを覗き込んでいた。
「あ、足の具合は……どう?」
柔らかな瞳。
少女は息を呑んだ。
――この匂い。助けてくれたひとの――
「あっ! あなたは……!」
鼻先に流れ込む香りが、すべての記憶を繋ぐ。
(助けてくれた――この人だ!)
カナが目を瞬く。
「私のことが、分かるの?」
ピンと立ち上がった少女の耳が、次の瞬間、しゅんと垂れ下がる。
言葉を繋ごうと口を開いた瞬間――涙が溢れた。
「はい……。においで、わかりました……。
あ、あの……っ!」
声が震える。喉が熱い。
「助けてくれて……本当に、ありがとうございました……!」
震える声。
感謝と、安心と、まだ消えない恐怖。
生きている――その実感が、涙となって頬を伝っていく。




