獣人の少女
(じゅ、獣人……っ?! え? 女の……子?!)
信じられない現実に、カナの心が大きく揺れる。
黒曜石のような髪と尻尾、そして一瞬見えた金の瞳だけが、先ほどの獣の面影を残していた。
だが――少女の血に濡れた足を見た瞬間、迷いは吹き飛んだ。
カナは膝をつき、震える手をそっとかざす。
(なんて……ひどい……!)
罠の跡は深く、皮膚は無惨に裂けている。
見ているだけで胸が締めつけられた。
呼吸を整え、魔力を練り上げる。
「大丈夫……絶対、助けるから……!」
意識を手へ集中させると、ふわりと光が溢れた。
淡い金色の輝きが少女を包み込み、柔らかく脈打つ。
(……一体、この子に……何が……?)
額に汗が滲む。
魔力が静かに削られていく感覚。
(まだ……まだ、まだっ)
カナの額に汗が浮かび、呼吸が荒くなる。
「カナ様……!」
エフィの声が震えた。
その心配に気づきながらも、決して魔力を止めない。
カナはかすかに笑みを見せる。
「……ありがとう、ございます……まだ、大丈夫です……!」
己を奮い立たせ、光を注ぐ――
限界を超える、その一瞬。
やがて、光がふっと消える。
少女の足は――
傷一つない、美しい白い肌へと戻っていた。
「こ……れで、大丈夫……!」
その言葉と同時に、カナの身体から力が抜ける。
「カナ様っ!!」
倒れ込みそうなカナの身体を、エフィが素早く支えた。
カナの息は荒く、顔には疲労の色が濃い。
「……エフィさん……。すみません……」
それでも、カナの瞳は満足そうに輝いていた。
*
カナの呼吸が、少しずつ落ち着きを取り戻していく。
意を決したように顔を上げると、彼女はエフィを見つめた。
「エフィさん……お願いです。
この子を、ここに置いては行けません。
連れて帰っても……良いですか……?」
疲れで声が掠れていたが、その言葉は揺らがない。
エフィは瞬きし――そして、優しく微笑んだ。
「ええ。もちろんです、カナ様」
エフィは外套を脱ぎ、少女の身体を包むと、そっと抱きかかえた。
血の匂いがまだ微かに残る少女は、未だ気を失ったままだった。
「ディオリア……」
カナの声に、白銀の光龍が大きくうなずく。
『カナならきっとそう言うと思った。
大丈夫。彼女は――僕が連れて行くよ』
「ありがとう、ディオリア」
エフィはディオリアへ歩み寄ると、その大きな手のひらへ、慎重に少女を横たえる。
「ディオリア様……よろしくお願いいたします」
『任せて。できるだけ、ゆっくり飛ぶから』
カナとエフィは、互いに短く頷き合う。
「行きましょう。エフィさん」
「はい」
彼らは、再び空へと舞い上がる。
ディオリアの翼が大きく羽ばたくと、視界に眩しい光が広がった。
丘で待つレイナルトのもとへと――戻っていく。




